食べ歩きだけがこの街の魅力なんて言ったの、誰ですか? 江東区・砂町銀座【連載】東京商店街リサーチ(1)
フリーライターの荒井禎雄さんによる連載「東京商店街リサーチ」。23区内の商店街とその周辺情報から、エリアの隠れた魅力を掘り起こします。記念すべき第1回目は江東区「砂町銀座商店街」です。「東京三大銀座」のひとつ 商店街とは、単に商店が集まっている場所ではありません。商店街と周辺の住宅地や駅との位置関係からは、その街の人の流れが把握できます。
さらに川や勾配といった地形からは、その街がどのような歴史を歩んできたかを感じ取れます。また、商店街にどのような店が残っているのか、繁盛しているのかに注目すれば、その街の特色・文化も見えてきます。
惣菜屋が有名で食べ歩きの街として有名な砂町銀座だが……(画像:荒井禎雄) 今回は、東京23区の優れた「生活型商店街」(筆者による造語。近隣住民の日々の買い物拠点として機能している商店街)をピックアップし、「その街での生活」をテーマに、注目すべき魅力的なポイントをご紹介します。
今回取り上げるのは、「東京三大銀座」(戸越・十条・砂町)のひとつとして数え上げられる有名商店街・砂町銀座商店街(以下、砂町銀座)です。
砂町銀座は、江東区北砂にある全長670mの1本道型の商店街です。
以前はそこまで露出の多い商店街というイメージはありませんでしたが、近頃はTVドラマ「孤独のグルメ」をはじめ、さまざまなメディアに取り上げられ、今では観光客も訪れるほどのにぎわいを見せています。
しかし砂町銀座がメディアに出る場合、その大半が「食べ歩き特集」で、個人的に少々モヤモヤを感じていました。砂町銀座を中心としたあの街の魅力は、決して食べ歩きだけではないのだ……と。
四方を川に囲まれている土地四方を川に囲まれている土地●立地
砂町銀座は江東区にあり、西は明治通り、東は丸八通りと接しています。ところが最寄りと呼べる鉄道駅がなく、どの駅からも1km以上離れているため、交通機関に難がある「陸の孤島」的な語られ方をします。どうしてそうなったかは地図を見るとピンと来るはず。
青線の部分が砂町銀座。四方を川に囲まれている(画像:(C)Google) 砂町銀座のある一帯は、北は小名木川、西には横十間川、南と東は仙台堀川、さらに東には荒川と、四方を川に囲まれた立地になっています。
そのため、都営地下鉄新宿線は小名木川を越えた北の大島駅・西大島駅に、東西線は仙台堀川を越えた南の南砂町駅に停まりますが、砂町銀座周辺にはそのような駅を作ることができなかったのでしょう。したがって主な交通手段は、1km以上離れた最寄り駅からのバスになります。
ただ、この少々の不便さを抱えた土地だからこそ大規模な開発を逃れ、土地価格が高騰することなく、商店街としての形を維持できたという側面があるはずです。
また川を渡ろうとすると橋の勾配が邪魔をしますが、それ以外のエリアには坂がなく、歩きやすい道が続きます。外から来ると不便な場所に思えますが、一度中に入ってしまえば日々の買い物などの移動は快適そうです。
橋の勾配が唯一の難所 海抜ゼロメートル地帯だけに坂や崖の類は殆どありませんが、あちこちの川にかかる橋が最大の難所になっています。例えば砂町銀座の北にある小名木川を渡る場合、丸八通りを北上すると絶望的な勾配の橋に行き当たります。
徒歩で向かうなら、南から商店街を目指す方が良い(画像:荒井禎雄) 目白通りの場合もそれなりの勾配の橋が待ち構えているため、徒歩やアシスト機能のない自転車で移動する場合、亀戸・大島駅から北砂へ向かうのはオススメしません。
その億劫さを考慮すると、暗渠(あんきょ)化されて公園となっている南の仙台堀川を渡る方が安心です。移動を妨げる難所がないため、バスを使わないならオススメの最寄り駅は東西線の南砂町駅となるでしょう。
専門店が残る商店街専門店が残る商店街●商店街の充実度
少々の不便さがもたらすメリットという点で、販売価格の「低め安定」という点も注目したいところです。
商店街に複数軒ある八百屋や魚屋などを見て回ればわかるとおり、都内としては価格と品質のバランスがかなり良く、生活向きの商店街だとわかります。店の数が多い分だけ特売品も多く、生活費を無理なく抑えられます。
また砂町銀座は、生鮮3品(魚・肉・野菜)を扱うお店がたくさんあるだけではなく、「失われつつある専門店」が残っています。
例えばお茶屋に乾物屋、金物屋に瀬戸物屋、豆腐屋におでん種屋に、うどんと和菓子のお店など多種多様。この「業種が幅広い」「売り場が多くて選べる」という点こそ砂町銀座の魅力であり、シャッター通り化した、もしくは単なる飲食店街となった多くの商店街が失った要素といえます。
無くなる一方のお茶屋だが砂町銀座では元気いっぱい(画像:荒井禎雄) その一方で、商店街の中ほどにはコストパフォーマンスに優れたスーパーとして知られる赤札堂もあり、生鮮品や日用品の買い物にはまったく困りません。
立ち食いに魅せられ、焼き鳥好きになった息子●食べ歩き天国
前述のように、砂町銀座が「食べ歩き天国」であるのは事実です。それを証明するかのように、明治通りから入っても、丸八通りから入っても、まず目に入るのは惣菜屋と、それに並ぶ行列です。
近隣の公園と合わせて子連れ散歩目的でも楽しめる(画像:荒井禎雄) ところが、そうした惣菜屋だけではなく、この商店街にあるお店の多くは昔ながらの手法の手作り商品を売っており、持ち帰りの出来る飲食店も多数。
例えば、洋菓子店「モカドール」はドイツパンとケーキのお店で、味へのこだわりはかなりのもの。ここのドイツ風アップルパイとモカロールは私のイチオシです。
また、大人気の焼き鳥屋「おか田」は店の脇に立ち飲みスペースがあり、缶ビールを買って立ち飲みする事も可能。余談ですが、息子が3歳の頃にここで焼き鳥の立ち食いを経験させてみたところ、相当楽しかったらしく、彼はそれ以来、大の焼き鳥好きになってしまいました。
家賃相場は2K、2DK、2LDKで7万~10万円家賃相場は2K、2DK、2LDKで7万~10万円●家賃相場
この街の暮らしやすさを見るために、家賃相場を調べてみましょう。砂町銀座にほど近い北砂一帯の賃貸相場は以下のようになっています。
1K、1DK:6万~7万円未満
2K、2DK、2LDK:7万~15万円
3K、3DK、3LDK:11万~18万円
これはあくまで家賃相場のボリュームゾーンですので、実際にはもっと安い部屋、もっと高い部屋もあります。
総じて言えるのは、ワンルーム系の部屋はそれほどではありませんが、ファミリータイプの部屋になるほど、都心の家賃相場と比較して圧倒的に安くなるという点です。
ただ、これは北砂という街自体が鉄道駅から遠いためで、通勤通学に多少の不便がある事は覚悟しなければなりません。
なお、3DK、3LDKの部屋と比較して2DK、2LDKの方が割高に感じるのは、まだ完成していない新築マンションの部屋がリストに入っているためです。こうした高めのマンションは砂町銀座に接してすぐ南側の北砂4丁目にあり、これを例外として除くと大抵7万円~10万円未満に収まります。
このような家賃相場から考えると、新婚夫婦や小さな子どものいるファミリー層にとってメリットの多い街だと言えそうです。
1本の川から、東京が水の街であることが分かる●水の街
先ほど立地について述べた際に川を中心に解説しましたが、この一帯の川は親水公園になっていたり、緑地化されていたりと、周辺住民にとっての憩いの場となっています。
また巨大な公園と公園を結ぶ役目も果たしており、南北に流れる横十間川は錦糸町の南で猿江恩賜公園に沿って流れます。それが小名木川と合流した南側で水上アスレチックや親水公園となり、西に曲がると木場公園の真ん中に流れ込みます。そのまま西に向かうと清澄庭園に出て隅田川と合流します。
東京スカイツリー、錦糸町、猿江恩賜公園、木場公園、清澄庭園は最寄り駅の路線がバラバラで、総武線、新宿線、半蔵門線、東西線……と乗り換えを考えるのが億劫ですが、実は1本の川で繋がっていたのです。これは東京が水の街であるという歴史的な事実を表しており、現地を見てみると実に風流です。
横十間川の水上アスレッチックは水深が20cm程度なのでチビっ子にも安心(画像:荒井禎雄) 横十間川を利用した水上アスレチックは、夏休みになると子どもたちでにぎわいます。その南にはスワンボートの乗り場がありますが、東京湾が近く潮の影響を強く受けるため、季節によっては漕いでも漕いでも逆戻りする苦行と化すので注意が必要。ただ、子どもにとっては大切な勉強になるでしょう。
これ以外にも水遊びの出来る公園があちこちにあるため、小さな子どもを水に慣れさせるにはもってこいの環境です。
水上アスレチックのすぐ北には、横十間川と小名木川が交差する地点があり、それを渡るために架けられた十字型のクローバー橋が名所になっています。
昭和レトロな銭湯でほっこりできる昭和レトロな銭湯でほっこりできる●銭湯天国
水の街にちなめば、砂町銀座の周辺には昔ながらの銭湯がいくつも残っています。小名木川より南、仙台堀川より北の狭いエリアに限っても6軒、さらに範囲を広げて徒歩15分圏内で見てみると約10軒の銭湯があり、その日の気分で選び放題です。
銭湯は500円未満で楽しめる、貴重なヒーリングスポット(画像:荒井禎雄) 商店街の北側、小名木川近くの文化湯は内装こそ昭和初期を思わせるレトロさですが、天井が高く開放感バツグン。サウナや水風呂こそないものの、ぬる湯の高濃度炭酸泉にゆったりサイズの露天風呂など、求心力のある設備が整っています。
文化湯以外にも、昔ながらのほっこりするお風呂がたくさんあるので、銭湯好きの人にもぜひ注目して欲しいエリアです。
コンビニ愛好者の夜型人間には向かない●メリット・デメリット
これまでに述べてきたように、砂町銀座周辺に住む最大のメリットは、なんと言っても買い物場所に困らないという点でしょう。
徒歩圏内に巨大な商業施設が2か所あっても、負けない砂町銀座(画像:荒井禎雄) ここでは商店街を中心として解説しましたが、砂町銀座のすぐ北西にはアリオ北砂が、そして南東にはホームセンターやラウンドワンを併設した巨大なイオンスタイル南砂があります。どちらも充分に徒歩圏内なので、「日用品は砂町銀座、買い回り品はアリオやイオン」と使い分けられます。
この辺りには複合商業施設のほか、ヤマダ電機やニトリといった郊外型大型店も多くあり、商店街中心の下町文化と、大型店中心のロードサイド文化を両方味わえる街とも言えるでしょう。
また電車で1駅移動すれば、都内でも有数の大きな公園が何か所もあり(木場公園、猿江公園、大島小松川公園など)、賃貸物件もファミリータイプになるほどお得感が増すため、小さな子どもがいるファミリー層に特に注目して欲しい土地です。
逆にデメリットは、砂町銀座の店は閉店時間が早く、夜型人間に向く店があまりありません。場所によっては、ファストフードやコンビニが近所にない場合もありますので、自炊をしない単身者には向かない土地だと言えます。
最後に、単に食べ歩き目当てだけではなく、このようなポイントに注目しながら、ぜひ砂町銀座一帯を散策してみてください。
●砂町銀座商店街への行き方
鉄道
・新宿線「西大島駅」「大島駅」
・東西線「南砂町駅」
※どこから歩いても1km以上、徒歩15分以上。
主なバス
・総武線・亀戸線「亀戸駅」 亀29北砂二丁目下車
・総武線・横須賀線・半蔵門線「錦糸町駅」 都07北砂二丁目下車
・新宿線「西大島駅」 両28・都07・亀29すべて北砂二丁目下車
・東西線「東陽町駅」 都07北砂二丁目下車
●記事で紹介した場所・お店
砂町銀座商店街振興組合
・住所:東京都江東区北砂4-18-14
みどりや
・住所:東京都江東区北砂4-7-19
・営業時間:10:00~19:00
・定休日:日曜
赤札堂砂町店
・住所:東京都江東区北砂4-25-2
・営業時間:9:00~21:00
・定休日:ナシ
モカドール洋菓子店
・住所:東京都江東区北砂5-1-30
・営業時間:9:30~20:00
・定休日:火曜日
おか田
・住所:東京都江東区北砂3-38-15
・営業時間:12:00~19:00
・定休日:水曜日
横十間川親水公園・水上アスレチック
・住所:東京都江東区北砂1-2
・利用時間:9:00~16:30
・休場日:毎月1,15日と12月29日~1月3日まで
・料金:無料(小学生未満は保護者の同伴が必要)
文化湯
・住所:東京都江東区北砂6-14-8
・営業時間:14:00~23:00(日祝は13:00から)
・定休日:月曜日(祭日の場合は翌日)
アリオ北砂
・住所:東京都江東区北砂2-17-1
イオンスタイル南砂
・住所:東京都江東区南砂6-7-15