五輪メイン会場「国立競技場」から代々木駅まで続く一本道、実は由緒ある古道だった!
東京オリンピックのメイン会場である国立競技場。そこから代々木駅までのナンバーワン帰路、実は古道でした。解説するのは、フリーライターで古道研究家の荻窪圭さんです。代々木と国立競技場を最短距離で結ぶ古道 東京オリンピック、結局、無観客開催になってしまったので書きそびれてた話がひとつあります。それは国立競技場(新宿区霞ヶ丘町)への行き方、帰り方。 旧国立競技場へは、主にサッカーの試合を観に何度も行きましたが、閉口するのはいつも観戦後。観戦前は人々が三々五々集まるのでよいのですが、帰りは数万人が一斉に移動しますから大混雑となります。 最寄り駅は「国立競技場前」をはじめとして「千駄ヶ谷」「信濃町」「外苑前」といくつもありますが、一度に動く人数が多い上にひとつひとつの駅は大きくないので大変なことに。で、人混みが苦手なわたし(荻窪圭、古道研究家)はなんとか混雑しないでゆっくり歩いて帰りたいと思ったわけです。 国立競技場から千駄ヶ谷道(白い線)を歩けば歴史も楽しめる上に混雑してない代々木駅へ抜けられる(画像:荻窪圭) そこで見つけたのが代々木まで続く道。この道、調べてみると江戸時代の絵図に載ってる古道で、当時は千駄ヶ谷道と呼ばれた道でした。甲州街道から千駄ヶ谷経由で青山方面へつながっていたのです。この道筋がほぼそのまま残っており、しかも起伏も少ない一本道なので歩きやすいし、人も車もあまりいません。 ではスタートしましょう。国立競技場の南西側にある「観音橋交差点」に出ます。国立競技場の南側のゲートを出て右手の階段を下りると近いかと思います。 鳩森八幡神社で富士登山鳩森八幡神社で富士登山 観音橋は、そこを流れていた渋谷川に架かっていた橋の名前。交差点から西へは上り坂ですが、その途中、右手に聖輪寺(渋谷区千駄ケ谷1)という古いお寺があります。 観音橋交差点からスタート。かつてここを渋谷川が流れており、観音橋がかかっていた。右手にみえるのが新国立競技場(画像:荻窪圭) なんと奈良時代(725年)に行基菩薩(ぼさつ)が創建という古いお寺。本当に奈良時代かどうかは別にして、江戸時代前期からあるのは確かで、行基菩薩作と伝わる如意輪観音像が千駄ヶ谷観音と呼ばれて有名でした。だから、橋の名も「観音橋」だったのですね。ただ古い道筋は聖輪寺の手前で左へ入る狭くてカーブした坂道。 そうすると、ちょうど坂を上りきった角に立派な神社があります。鳩森八幡神社(はとのもりはちまんじんじゃ、江戸時代は千駄ヶ谷八幡宮)といい、国立競技場に来てここに参拝しない手はないくらいの場所なのです。 江戸を代表する古社のひとつで、村人が白鳩の大群が西に向かって飛び立ったのを見て、鳩の森と呼んで小祠(しょうし)を構えたのち、平安時代の860(貞観2)年、このあたりを通った慈覚大師にご神体を乞い、八幡宮を勧請(かんじょう)したのだというくらいの古い神社。 鳥居から参道をまっすぐ行くと拝殿があるので、競技場へ向かう前にこちらで勝利を祈願するのがよいでしょう。八幡神は武の神様でもありますし。 その鳩森八幡神社にはふたつの大きな見どころと、ひとつのあまりしられてない歴史があります。 ひとつめは「千駄ヶ谷富士」。社殿から少し西へ向かうと、立派な富士塚があるのです。江戸時代に築山された富士塚(現存する東京最古の富士塚で1789年築山)で、当時と一切変わらぬ場所にあり、形もきれいで、いつでも登山できるという点で、東京の富士塚コンテストを行ったらトップ間違いなしでしょう。当時はこの上から富士山も見えたことでしょう。ここはぜひ登頂すべきかと思います。 国立競技場の場所にかつてあった神社国立競技場の場所にかつてあった神社 ふたつめは将棋堂。すぐ近くに日本将棋連盟の将棋会館(千駄ケ谷2)があり、1986(昭和61)年に大駒が奉納されたのがはじまり。六角形の堂で「将棋の技術向上を目指す人々の守護神」となってます。少年棋士の成長を描く漫画「3月のライオン」でもここに勝利を祈願して手を合わせる棋士の姿が描かれてます。 近くに将棋会館がある縁もあって立てられた将棋堂。将棋好きの人は訪問必須(画像:荻窪圭) そしてもうひとつの注目は、境内に祭られている神明社。「千駄ヶ谷太(だい)神宮」ですが、元々はなんと今の国立競技場の場所にあったのです。それが国立競技場の前身である「明治神宮外苑(がいえん)競技場」の建設場所にかぶったため、明治41年に鳩森八幡神社内に遷座したのです。 そういう意味でも、国立競技場帰り、あるいは向かう時に手を合わせたいところです。 鳩森八幡神社に参拝をしたら、入ってきたと参道ではなく北側の大鳥居の方へ出ましょう。鳥居を出ると五叉路の交差点があります。 そこから千駄ヶ谷大通り商店街へ入ります。「大通り」かといわれると微妙な感じですが、ちょっとした商店街になっていて少しにぎやかなのでわかるでしょう。 この道をまっすぐ行きます。ときどき左手を見ると下り坂になっているのがわかるはず。その下ったところが「千駄ヶ谷」の「谷」ですね。 代々木駅直前でJRの踏切を渡る代々木駅直前でJRの踏切を渡る 古道は谷には降りず、やがて商店街を出て目の前を首都高が横切る複雑な巨大多叉路交差点に出ます。ここで間違えないよう、首都高をくぐり、明治通りを渡って、今歩いてきた道の続きに入ります。急に都会に戻ってきた感じですね。 狭い商店街を抜けるとやがて、JR線の踏切です。山手線エリアに残る数少ない踏切のひとつですから鉄道好きは必見。 ここ、山手線は高架ですが、貨物線の線路を流用した埼京線・湘南新宿ラインは地上を走っているため踏切がいくつか残っているのです。 青山街道踏切。ちょうど埼京線がやってきたところ。右上に見える高架は中央線。踏切の先に見える高架は山手線(画像:荻窪圭) この踏切には「青山街道踏切」と名前がついています。「青山通り」なら有名ですが(国道246号ですね)、青山街道は聞いたことがありません。 ここに線路ができた明治時代、今の神宮外苑あたりは陸軍の「青山練兵場」でしたから、そちらにつながる道ということで、当時「青山街道」と呼ばれていたのではないでしょうか。その踏切を渡り、山手線の高架をくぐるともうそこは代々木駅前の交差点。 都営大江戸線代々木駅、JR代々木駅に乗れますし、ここまでくれば新宿もすぐ。多少は歩きますが、基本的に一本道ですし(多叉路で混乱するかもしれないけど)、代々木まで行けば駅もさほど混雑してないので、競技の余韻を楽しみがら帰る裏道としては最高でしょう。 距離にして約1.2km。所要時間は……寄り道次第ですね。散歩好きの人は代々木からこの道を歩き、鳩森八幡神社に参拝してから国立競技場へ、というのもよいかもしれません。
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