東京の人口が1年で4万人も減少! 相次ぐ「地方転出」は吉と出るのか凶と出るのか
コロナ禍の影響などで、この1年間で約4万人が去った東京。その影響と未来について、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。感染拡大から約2年 新型コロナウイルスの感染拡大から約2年、この間で私たちの生活は大きく変わりました。コロナ禍では新しい生活様式が提唱され、ソーシャルディスタンスやマスク着用、黙食などがあちこちで推奨されました。 街の飲食店やオフィスでは、感染症対策として席と席の間にアクリルボードが立てられました。スーパーやコンビニの入り口には、消毒液や体温測定器が置かれていることが日常風景になっています。 仕事面ではできるだけ接触をしないよう、テレワークが推奨されました。Zoomなどのオンラインツールも定着しています。コロナ禍から約2年。私たちを取り巻く社会環境は大きく変わったのです。 なぜ東京の人口は増え続けてきたのか コロナ禍による変化は、人口動態にも見られます。東京都は12月27日(月)、都内の人口が2021年1月から11月末までで、約3万8000人減少したことを発表しました。まだ12月の統計は出ていませんが、東京都が2021年の1年間で人口を減少させたことは確実な情勢です。 多くの人たちが行き交う東京都(画像:写真AC) 東京都の人口は25年間にわたって、右肩上がりを続けてきました。その背景には、18歳の男女による進学・就職があります。 高校を卒業して大学・就職といった進路に直面する節目が18歳です。地方にも大学や企業はありますが、東京・大阪に比べると選択肢は限られています。希望にあふれる若者が自分のやりたい学問・仕事のために都会へと出てくるのです。 いったん大都市へと進学・就職してしまうと、そこに生活基盤が築かれます。仮に地元へ戻りたくても、 ・仕事はあるのか? ・社会環境/生活習慣が異なる地域になじめるのか? という現状があり、また、結婚や子どもの誕生といった環境の変化もあります。 こうした事情もあって、東京に出てきた若者たちの多くは地元に戻らず、東京は人口を増やしてきたのです。 企業の「概念」も大きく変化企業の「概念」も大きく変化 コロナ禍でテレワーク・在宅ワークの導入が進むと、毎日の通勤が必要なくなります。 「週1回、月に2~3回の出社なら、東京に住む必要はない」 と考え、住居費をはじめ生活コストが低く抑えられる地方へ住む人たちが増えるのは当然です。 地方移住のイメージ(画像:写真AC) テレワークや在宅ワークに切り替えて、会社勤めのサラリーマンが地方へ移住するのと同様に、企業そのものが東京から転出する状況も生まれています。 帝国データバンク(港区南青山)の統計によると、2021年1~6月までの上半期に東京・神奈川・千葉・埼玉の首都圏から本社を他道府県へ移した企業が過去最多になりました。 まだ下半期の集計は出ていませんが、7月以降も同等のペースで企業の転出が増えています。そこから類推すると、首都圏に本店・本社を置く企業が地方へと転出していく傾向は間違いないようです。これまで大企業は東京や大阪に本社・本店を置き、工場や倉庫などを地方に設けてきました。企業の概念が、コロナで大きく変わってしまったのです。 本社・本店が地方へ移転すれば、当然ながら大口の取引先にも影響が出ます。また、下請け企業は営業的な観点から取引先についていこうとします。それが、さらに企業の地方転出を加速させるのです。 地方転出が生み出す正負の面 企業が地方へ転出すれば、従業員も引っ越しを余儀なくされます。テレワーク・在宅ワークが進んでいるとはいえ、まったく会社に出勤しなくていいわけではないからです。 また、職業や職種によっては出社しなければならない業務もあります。2021年に人口が減少し、企業が転出しているのは東京だけの傾向ではありません。大阪や名古屋といった大都市圏でも企業の転出・人口減少という兆候が見られます。 そもそも、いまや日本全体が人口減少・高齢化という危機に直面しています。日本全体の人口が減少するなかでも、これまで東京だけは緩やかに人口を増加させてきたのです。 高齢化のイメージ(画像:写真AC) 東京は人口増を続けてきましたが、これは「社会増」と呼ばれるものです。社会増とは、ほかの道府県から流入してきたことで人口増になったことを意味します。一方、単純に出生・死亡で人口の増減を見ると、東京都の出生率は全国でも常に下位です。つまり、東京の人口増は他道府県から吸い取っているにすぎないのです。 これまで大都市は、経済のけん引役を担ってきました。大都市が人口を減少させると、経済や生産力にブレーキがかかってしまうのではないか? そんな心配も起きています。 そうした懸念を抱くことは無理もありません。しかし、大都市への人口偏在が是正されることで、国土の均衡ある発展につながります。それが結果的に国全体を豊かにします。短期的に見れば、人口減は東京にマイナスです。しかし、長期的な視点で見れば企業や人口が地方へ分散されることは東京にプラスの作用をもたらします。 人口「自然増」達成のために必要なこと人口「自然増」達成のために必要なこと 例えば、首都圏に電気を供給している東京電力ホールディングス(千代田区内幸町)は福島県や新潟県に発電所を設置しています。また、都民が口にする食料の多くも近隣県で栽培・収穫されたものです。東京都は大企業が多く立地しているので経済的強者と言えますが、その強さは地方の助けがあってこそ、なのです。地方が衰退すれば東京を支えることはできず、東京も緩やかに衰退することでしょう。 地方の重要性は政府も認識しています。長らく、政府は地方を活性化させる手段を模索してきました。田中角栄首相は“日本列島改造”を、竹下登首相は“ふるさと創生”を掲げて地方を活性化させようとしました。近年では、安倍晋三首相が“地方創生”を掲げました。それでも思うような成果が出ているとは言い難い状況です。 2021年は人口が地方へ回帰する兆候が出ました。だからといって、これから地方が再生していくとは断言できません。いくら地方が経済的に豊かになっても、新生児が生まれる「自然増」を達成しなければ人口は減少してしまいます。 東京都豊島区(画像:(C)Google) 端的な例として現れたのが、東京都豊島区です。豊島区は2014年、元総務大臣の増田寛也氏が座長を務める日本創成会議から「消滅可能性都市」と名指しされました。豊島区が消滅すると聞いても、ピンとくる人は多くなかったでしょう。 当時、約30万人の人口を誇る豊島区に消滅可能性があるとの発表は、大きな波紋を呼びます。日本創成会議が、豊島区に消滅可能性があるとした根拠は「2010~2040年にかけて、20~39歳の女性の数が5割以下に減少する自治体」にあてはまっていたからです。 20~39歳の女性が減少すれば、必然的に人口は減少します。つまり、女性を呼び込むことが今後の都市の発展、ひいては日本の発展を決めることになると言えます。 コロナは間違いなくピンチです。しかし、これまで東京に集中してきた企業や人口が地方へと分散するターニングポイントでもあります。ピンチをチャンスに変えられるか? 2022年は、それを占う1年になるかもしれません。
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