一般社員に「簿記・会計」知識は必要? 共通テスト科目廃止で考える

2024年1月実施の共通テストを最後に「簿記・会計」の出題がなくなります。しかし近年、それらの知識の重要性は高まっています。フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。


変わりゆく受験科目

 共通1次試験、大学入試センター試験、大学入学共通テストと名称は変わっていますが、これらの試験が大学受験の関門になっていることは時代を問わず、年代によって受験できる科目も変わっています。

 2025年1月の大学入学共通テストから、新たにプログラミングを含む「情報」の教科が受験科目に追加される予定です。

 情報化社会・IT革命、そして昨今は政府がデジタル庁の創設を進めているように、生活の中にコンピューターは欠かせなくなっています。そうした世相を反映し、プログラミングの重要性も増しています。

 2022年4月から実施される高校の新学習指導要領には、そうした社会状況を捉えてプログラミングを学ぶ「情報I」の科目が追加されます。大学入学共通テストの受験科目に「情報」が追加されるのも、こうした流れを受けたものといえます。

2024年になくなる「簿記・会計」

 その一方、2024年1月実施の共通テストを最後になくなる科目もあります。それが「簿記・会計」です。

簿記のイメージ(画像:写真AC)



 高度経済成長期は労働力不足が深刻になったことから、それを補うべく中学を卒業したばかりの男子・女子が東京・大阪といった大都市に集団で就職しました。

 今や、中学を卒業してすぐに就職する時代ではなくなりました。高校進学率は97%超となっており、大学・短期大学・専門学校等をあわせた高校卒業後の進学率も80%を上回っています。

重要性を増す「簿記・会計」スキル

 こうした潮流もあり、高校卒業後の進路を見据え、進学に有利とされる普通高校への偏重は強くなっています。一方、「手に職をつけられる」という触れ込みから一時期は高い人気を誇っていた商業・工業高校の人気は低落傾向にあります。

 商業・工業高校では普通高校では学べない科目もあり、最近ではそうした商業・工業高校から大学へ進学を希望する受験生も増えていますが、商業・工業高校特有の科目で受験できる環境も整えられてきました。「簿記・会計」もそのひとつといえます。

 しかし、受験者数が少ないことを理由に、大学入学共通テストの受験科目から「簿記・会計」が除外対象となったようです。

試験のイメージ(画像:写真AC)



「簿記・会計」を受験科目に選択する受験生が少ないことは事実かもしれませんが、そうした受験生の減少に反比例するかのように「簿記・会計」のスキルは重要性を増しています。

石原都政が進めた公会計制度改革

 昨今、会計ソフトが高性能化しているため、専門知識がなくても数字を入力するだけで仕訳作業をはじめとする帳簿付けができるようになっています。

 そうした作業の手間はなくなりましたが、だからといって貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)を理解する力が不要になったわけではありません。近年では、BSやPLにくわえ、キャッシュフロー計算書(CF)も重要性を増しています。複雑化する簿記・会計の知識は、むしろ必要性が高まっています。

 簿記・会計をはじめとする財務状況を把握するスキルは、民間企業だけではなく官公庁にも求められるようになっています。その先鞭(せんべん)をつけたのが、石原慎太郎都知事(当時)です。

都知事時代の石原慎太郎氏(画像:小川裕夫)

 当時、東京都を含む地方自治体などは単式簿記による記帳法が採られていました。

 小学生のおこづかい帳のような単純なお金の流れを把握するなら単式簿記でも問題ありませんが、東京都のような巨大な自治体の財政はとても複雑です。そのためにも、複式簿記の導入が急務とされていました。複式簿記とは、すべての取引を借方と貸方から記入する方法で、財産の移動と損益を正確に知ることができます。

 他方、純粋に利益を追求する必要のある私企業と、利益が出なくても公的な機関として政策に取り組まなければならない地方自治体とでは、会計に対するスタンスは異なります。それでも1999(平成11)年に石原都政が発足すると、財政の透明性を確保するべく公会計制度の改革に取り組むことになったのです。

 それまで地方自治体は単式簿記を採用してきました。複式簿記への切り替えは、職員に手間を増やしたり、会計の知識を学ばせたりといった面倒が生じるだけではありません。単式簿記から複式簿記に切り替えれば、前年度との比較ができなくなるという恐れがありました。

地方自治体にも波及した複式簿記

 しかし複式簿記への切り替えは時代の要請でもあり、避けて通れない問題です。

 こうして2006年度から東京都は複式簿記の導入を開始。同時に、現金主義会計を発生主義会計に変更。民間企業などと比較しても、見劣りしない財務諸表が作成されるようになったのです。

 石原都知事が提唱した複式簿記の導入をはじめとする公会計制度改革は、全国の地方自治体を統括する総務省をも動かすことになり、ほかの地方自治体にも波及していきました。

損益計算書のイメージ(画像:写真AC)



 会計ソフトの高性能化により帳簿を作成することは簡単になっていますが、複式簿記のしくみを理解していなければ意味がありません。

 そのため、総務省は各自治体へ2017年度までに固定資産台帳の整備と複式簿記の導入を前提とした財務書類等の作成をするように通達を出し、職員のスキル向上にも取り組みました。

 複式簿記の導入、そして財務諸表の作成により地方自治体の財務状況の「見える化」は一気に進みました。これにより、

・私たちの税金がどのように使われているのか
・どこに税金の無駄が生じているのか

が、年度ごとにわかるようになっています。

 しかし、前述したように、地方自治体は利益を追求する私企業とは求められている役割が違います。財務状況の「見える化」は行政の透明性を確保するうえで重要ですが、そこから「無駄」とおぼしき費用が見えても、軽々に無駄と断じて予算を削減できるとは限りません。

行政の市民参加を支える「見える化」

 病院・学校・防災・防犯などは生活に欠かせませんが、これらで儲けることはできません。行政は儲け優先では成り立たないのです。

 こうした公的部分を無駄と断じられて削減される危険性もありますが、財務状況の「見える化」によって私たち有権者・納税者がどのように税金を使っているのかを把握できるようになり、それに伴って行政の市民参加が一歩前進します。

東京都庁(画像:写真AC)

 大学の受験科目からは除外される予定になっていますが、地方自治体でも財務諸表が作成されるようになるなど、「簿記・会計」のスキルは決して必要なくなったわけではありません。むしろ、その重要性は高まっているのです。


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