プライドより実益? コロナ禍で都内大企業の「中小企業化」が止まらないワケ

過去最高を記録した2020年度の国の税収。その背景には何があったのでしょうか。フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。


止まない税負担をめぐる駆け引き

 日本国内では、2020年春先から新型コロナウイルスが感染拡大。1年以上が経過した今も収束していません。政府は酒類を販売する飲食店への提供自粛や営業時間の短縮などを求めています。

 そうしたコロナの影響から、この1年間で多くの飲食店が廃業に追い込まれました。繁華街には多くの飲食店が立地しているため、飲食店がシャッターを閉めれば街から活気がなくなることは自然な流れです。

 街から活気が喪失することで、日本経済の沈下は避けられないと思われがちでした。しかし、2020年度における税収は60兆8000億円余りと過去最高を記録。この数字は、前年度と比べて約2兆3000億円以上もの税収増です。

大企業の多い東京丸の内(画像:写真AC)



 多くの人たちは、コロナ禍で苦しい生活に追い込まれています。それにも関わらず税収が増加したのは、消費税率が8%から10%へと変更されたことが大きな要因と分析されています。

 食料品・新聞などは軽減税率の対象とされて、税率は8%のまま据え置かれています。しかし、生活必需品は食料品だけではありません。電気・ガス・水道といった光熱水費やパソコン・スマホなどの通信費、そのほかにも交通費・住居費・衣服費などの生活に必要不可欠な支出があります。これらが2%税率をアップさせたことが税収増に大きく結びついたようです。

 私たち庶民が納める税金がコロナ禍でも増加した一方、企業は納める税金をできるだけ抑えようとしています。かつて、パナマ文書によって企業や富裕層がひそかに租税回避策を講じていることが明らかにされました。

 企業が利益をあげるべく経営努力を講じることは奨励されるべきですが、同時に利益に準じて税金を正しく納める責務も負っています。租税回避は、その責務を放棄する行為とみなされます。そうしたことから、各国の政府から企業への厳しい批判が相次ぎました。

 日本政府も企業が海外へと拠点を移すことで租税回避を図ろうとする動きを封じ込めるべく、課税強化策を講じています。しかし、課税庁と企業の税負担をめぐる駆け引きはやむことがありません。

中小企業化する日本企業

 近年、大企業が税負担を軽減する目的で減資をするケースが目立っています。

 減資とは、一口に言えば資本金(出資者が企業に拠出した資金)を減らす手続きです。資本金が1億円以下になると、中小企業に分類されます。中小企業になると、法人税・法人事業税で優遇措置を受けられるのです。

 かつて資本金は企業規模を示すバロメーターとされてきました。そのため、企業が減資をすることは業績が悪化していると受け止められ、ネガティブな印象を強く抱かれる行為でした。2015年、経営危機に直面したシャープ(大阪府堺市)が1億円へと減資することを発表。これは、シャープ自らが中小企業になることを宣言したことを意味します。

港区芝浦にあるシャープ東京ビル(画像:(C)Google)



 しかし、シャープのような日本を代表するメーカーが中小企業になることに違和感を抱いた財界人も多かったようです。減資により中小企業になれば税負担が軽減されることもあって、シャープの減資発表は世間から非難を受けました。

 その結果、シャープは減資したものの資本金を1億円とせずに5億円としました。大企業として踏みとどまったのです。

 同じく2015年には、吉本興業(大阪市)が約128億円の資本金を1億円へと減資。こちらは注目を集めなかったこともあり、シャープのような財界からの非難は目立ちませんでした。減資により、吉本興業は中小企業になっています。

 大企業になれば政界・財界・社会での発言力・影響力・存在感は増します。また、銀行からの融資も受けやすくなるため、大企業はスムーズに新たな事業を展開できます。

 しかし、資本金だけが企業規模の指標という時代ではなくなりました。そのため、資本金の額面で大企業とはいっても、そのメリットは薄らいでいます。大企業というステータスよりも節税というメリットが大きくなっていることから、減資をする企業が相次いでいるのです。

 先述したように、企業が減資をすると法人税・法人事業税で優遇されます。法人税は国税ですが、法人事業税は都道府県税です。

 多くの企業が集積する東京都は、その企業が納める法人事業税によって財政が豊かです。そのため、国の財布に頼らずとも自治体運営が可能でした。しかし、減資する企業が増えていけば、財政が苦しくなっていくことは明らかです。

 1999(平成11)年から2012年まで都知事を務めた石原慎太郎氏は、不良債権処理のために税負担を免れていた銀行に対して応分の負担を求めました。石原都知事は2000年度に銀行税を創設。しかし銀行のみを課税対象にしたこともあり、これは裁判所が認めませんでした。

外形標準課税を導入した石原都知事

 諦め切れなかった石原都知事は、法人事業税にプラスする形で外形標準課税を導入。これにより、赤字企業も一定の税金を払わなければならなくなりました。その後、東京都が導入した外形標準課税は、ほかの自治体でも導入されるようになっています。

 制度設計にもよりますが、外形標準課税は中小企業にも負担を求めることになるので、課税を強化するとその矛先は結局のところ庶民に向かいます。

 政府や地方自治体が企業へきちんと納税することを促すことが、本来の正しい姿です。しかし、行政が民間企業の業績を詳細に把握することは難しいのが実情です。東京都といえども、その企業がどういった理由で減資をしたのかはうかがい知ることはできないのです。

 2020年度から2021年度までに限定しても、

・賃貸アパート事業を手がけるレオパレス21(中野区本町)
・かっぱ寿司でおなじみのカッパ・クリエイト(横浜市)
・格安航空料金で業績を拡大したスカイマーク(大田区羽田空港)
・全国紙の毎日新聞社(千代田区一ツ橋)
・スマホゲームのグリー(港区六本木)
・大手旅行代理店のJTB(品川区東品川)

などが資本金を1億円以下へと減資しています。

中野区本町にあるレオパレス21(画像:(C)Google)



 これらを見ると、明らかにコロナの影響を受けていることがわかる企業、時代の流れから企業規模を縮小せざるを得ない企業が並んでいます。

 そうした事情も勘案しなければならないため、政府や地方自治体は減資によって税負担の軽減を図ろうとする企業に対して打つ手がありませんでした。

 税収増が発表されたことにより、搾り取りやすいところから搾り取ったという印象を強くしました。このままでは、

「個人ばかりに負担増を求められるのはおかしい」

という声が高まることは間違いありません。

 税金は社会を快適にするための原資です。そのためにも、政府や地方自治体は対策を迫られることになるでしょう。


【懐かし写真帖】東京から新税制を発信した「石原慎太郎都知事」

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