都内有名私大の「地方試験」白熱も 早慶は積極的でないワケ
近年、有名私大で地方試験が盛んに行われるなか、早稲田大学と慶応義塾大学はさほど積極的ではありません。いったいなぜでしょうか。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。コロナ禍でも実施された地方試験 都内の有名私立大学は地方試験を盛んに行っています。昨年度も新型コロナウイルスの影響を大きく受けたものの、無事に行われました。この結果は地方試験が着実に根付き、需要も多いことを意味しています。 新宿区戸塚町にある早稲田大学(画像:写真AC) 2022年度の予定を見ると、明治大学(千代田区神田駿河台)は「全学部統一入学試験」を同大の東京・神奈川のキャンパスを含む、全国8会場で実施します。 一方、日本トップクラスのマンモス校である日本大学(千代田区九段南)では「N全学統一方式第1期」を全国20都市28の試験会場で実施し、地方試験としては最大規模となっています。 全国的な知名度のある大学が地方試験を積極的に行っているのは、学生の囲い込みにそれだけ危機を感じているためです。 明治大学が地方試験を始めたのは2007(平成19)年度入学者試験から。他の私立大学もその頃から地方会場を徐々に設けるようになりました。なお、MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)のなかで、地方試験を行っていないのは ・立教大学(豊島区西池袋) のみです。それだけ都内の有名私立大学にとって、地方試験は当たり前の存在になっているのです。 地方試験の実施はもはや必然? 地方の受験生にとって、東京での受験は交通費や宿泊費などの経費が大きくのしかかり、ハードルは低くありません。 文部科学省が発表している「8歳人口及び高等教育機関への入学者・進学率等の推移」を見ても、2000(平成12)年から2005年までの18歳の人口は20万人も減少。受験人口は先細りしていることが分かります。 千代田区神田駿河台にある明治大学(画像:(C)Google) 大学進学率は上がっても受験人口が減っているため、このままでは都内私立大学の「ローカル化」は着実に進行します。実際、2019年度の明治大学の入学者における首都圏高校出身者の割合は72.8%まで及んでいます。 学生の多様性を維持するためには、地方の優秀な学生に受験してもらいやすいよう、地方試験の確保が必然になっているのです。 私立の両雄は本学のみ私立の両雄は本学のみ しかし、都内私立大学の両雄である早稲田大学(新宿区戸塚町)と慶応義塾大学(港区三田)では、基本的に地方試験を実施していません。その一方で、独自の取り組みを行っています。 慶応義塾大学法学部のFIT入試(総合型選抜)B方式では全国の地域を7ブロックに分け、法律学科・政治学科それぞれ1ブロック最大10人程度の合格者を出しています。 港区三田にある慶応義塾大学(画像:写真AC) 早稲田大学では法学部などの計6学部で、全都道府県の受け入れを目標とする「新思考入学試験(地域連携型)」を2018年度の入学試験からスタートさせています。ただし、募集人員は各学部とも「若干名」のため、そのハードルは高くなっています。 また同大は大学入学共通テストを使った入試も行っているため、それを使えば上京の必要はありません。結果として、地方の受験生の経済的負担は和らぎます。ただし、看板学部の政治経済学部でいえば、その対象人数は ・政治学科:15人 ・経済学科:25人 ・国際政治経済学科:10人 で、大学入学共通テスト5教科6科目合計800点――を踏まえれば、合格は容易ではありません。 両大学はそもそも抜群の知名度があるため、第1志望の受験生が多く、囲い込みを積極的に行う必要がありません。早稲田大学の「2020年度早稲田大学学生生活・学修行動調査報告書」によると、早稲田大学(大学院)が第1志望だった学生は72.6%を占めているほどです。 少子化問題と直面少子化問題と直面 こうしたこともあり、本学に出向いて試験に臨むことをいとわない受験生が多いため、他の私立大学のように地方試験を行う必要がないのです。 しかし両大学も前述のような「ローカル化」が進行しており、地方試験は時間の問題となっています。 大学受験のイメージ(画像:写真AC) 3年後に18歳の人口は110万台を切ります。そんな状況のなか、都内私立大学の両雄である早稲田大学と慶応義塾大学がこのままの受験体制を維持するのか、果たして大改革を行うのか――今後の動向から目が離せません。
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