安産・子育守り「すすきみみずく」を消滅から守る(前編)―最後の職人廃業後に奮闘する人々

2018年9月23日

知る!TOKYO
宮崎佳代子

東京の郷土玩具で、安産や子育(こやす)、健康守りとしても親しまれている、雑司ケ谷鬼子母神堂の参詣土産に「すすきみみずく」があります。浮世絵にも描かれる名物でしたが、最後の職人が廃業。そのため、鬼子母神堂を有する法明寺の住職が保存会を立ち上げ、地域をあげて守り、後世に引き継ぐことに奔走しています。


最後の職人は高齢で廃業、住職自ら存続に立ち上がる

 幼少の頃、母に連れられて雑司が谷の鬼子母神堂へお参りにゆき、そこで祖父の健康祈願に「すすきみみずく」と呼ばれるお守りを購入したことがあります。その名のごとく、ススキで作られたミミズク。穂が毛羽立った体毛のような質感をたたえ、ふっくらとした胴体に、大きな目。愛らしくも、子どもの目には、夜に暗いところで見るとちょっと怖くもありました。

鬼子母神詣土産べんけい図襖。昭和初期のものと推察され、大きな赤い耳を持つ「すすきみみずく」が描かれている(画像:豊島区郷土資料館所蔵)。

 東京の郷土玩具について調べている際に、ネットで何十年かぶりにすすきみみずくの写真を目にしました。しかし、記憶にあるみみずくとは雰囲気が異なるため調べてみると、最後の職人であった音羽家の岡本冨見さんが2010(平成22)年に廃業したことがわかりました。

 そのため、鬼子母神堂を所有する法明寺(開創810年、日蓮宗)の住職が「すすきみみずく保存会」を立ち上げ、会のメンバーで制作と製作講習を行っているとのこと。

「すすきみみずく保存会」が制作したみみずく(2018年8月10日、宮崎佳代子撮影)。

 もう昔と同じみみずくを目にすることはできないのか? そんな一抹の寂しさを抱きながら、お話を聞きに法明寺を訪れました。

作り方を教えようとしなかったみみずくの職人たち

 すすきみみずくは東京の郷土玩具であるとともに、安産や子育(こやす)、健康守りとしても親しまれている参詣土産です。雑司が谷の鬼子母神詣での模様を描いた江戸期の図版や浮世絵などにも登場し、江戸名物であったことがうかがいい知れます。

「雑司ヶ谷図」歌川広重画(『江戸高名会亭尽』)。左端の子どもが肩に掛けているのがすすきみみずく(写真:豊島区郷土資料館所蔵)。

 法明寺ですすきみみずく保存会の会長を務める近江正典住職と、副会長の長島秀臣さんに、会を設立したいきさつを聞きました。

 みみずくの後継者難は、昭和40年代すでに深刻な問題として新聞でも報じられていました。その一方で、職人たちはみみずくの作り方を他人に教えたがらなかったといいます。そしてついに職人がいなくなり、近江住職が急いで作れる人を探すなか、長島さんを紹介されたそうです。

 長島さんはもの作りを趣味としていて、かつて音羽家の岡本さんにみみずくの作り方を教えて欲しいとお願いし、断られたという経緯がありました。近親者に作り方を知っている人を見つけ、教えてもらったのが、2005(平成17)年頃のことと話します。

住職が守り続けたかった「すすきみみずくの真の存在意義」

 制作者が見つかり、近江住職は保存会を設立しましたが、課題は山積み。まずススキの確保が必要でしたが、大量に、しかもこれまでと同質のものとなると、そう簡単には見つかりません。さらに、刈った1年分のススキを1週間干すスペース、皮剥きや制作を行う場所、完成したみみずくをストックする倉庫も必要です。ススキ刈りやみみずくを結びつける竹刈りなどの作業にボランティアの確保も欠かせませんでした。

 紆余曲折の末に、ススキの調達は豊島区の姉妹都市である秩父市の協力を得て、同市にある山に決定。作業所は檀信徒(だんしんと)会館を使うことになりました。ボランティア10人でのスタートだったといいます。

 ススキ刈りは三分咲きのうちに行わなければならず、時季はまだ残暑の厳しい9月15日前後。初回の2010(平成22)年は、「伸び放題で背丈より高いススキを刈るのに、大汗をかきながら、大変な労力を要しました」と、近江住職は当時の苦労を振り返ります。

 そこまでして、住職自ら先頭に立って奔走した理由は、みみずくの縁起となった民話に込められたメッセージにあると話します。民話の内容は次のようなものです。

 昔、”おくめ”という女の子がいました。父を亡くし、母とふたり暮らしをしていたある時、母が病にかかってしまいます。おくめは母の病が治るよう、雑司ヶ谷鬼子母神にお百度参りを始め、迎えた満願の日。疲れ果てて向拝(拝殿正面下)の階段で居眠りをしてしまいました。

 すると、夢のなかで目の前に蝶が飛んできて、ススキの穂でミミズクを作って参道で売るように告げます。目を覚ましたおくめがお告げの通りにしたところ、みみずくは飛ぶように売れ、そのお金で薬を買って母親の病は無事治癒したのでした。

鬼子母神堂(2018年8月10日、宮崎佳代子撮影)。

「この民話のなかで、鬼子母神は神通力で母親の病を治してあげてはいません。そこに大きな意味があり、願いに対する『自助努力』の大切さを伝えているのです。『神の救いは自ら努力する人に差し伸べられる』と先人がみみずくに託した精神を、後世に残す必要がある。その想いから、私はこの保存会を立ち上げました」(近江住職)

 初回は10人だったボランティアも回を重ねるごとに増加し、2017年のススキ刈りには、暑い最中にもかかわらず豊島区職員や地域の人びとが60人参加。皮剥きや竹刈りの作業もそれぞれに、地域のボランティアの人びとに支えられているそうです。

変形に苦心、謎めく「みみずくの目」の作り方

長島さんによる、作りたてのすすきみみずく(2018年8月10日、宮崎佳代子撮影)。

 長島さんの作ったみみずくは、愛らしく、ふっくらときれいに出来上がっていました。職人と同じみみずくを作ろうとするなかで一番苦労したのは、「目」だったと話します。素材がわからず、どうにか「キビがら」と突き止めたものの、丸形に切って乾燥させると星形になってしまいました。さまざまな地域から材料を取り寄せて使ってみても、どれも乾かすと同じように変形が発生。職人たちがどうやって変形を防いでいたのか分からず、現状では木を使っているそうです。

 それにしても、なぜ職人たちはみみずくの作り方を教えなかったのでしょうか。はからずも、その疑問の答えを知ることになるのは、「子どもの頃に見たみみずくをもう一度目にしたい」との想いにかられ、亡き職人たちのみみずく探しを始めたことからでした。

(後編に続く)

●雑司ヶ谷鬼子母神堂
住所:東京都豊島区雑司が谷3-15-20
アクセス:副都心線「雑司が谷駅」1番出口から徒歩約5分

●雑司が谷観光案内処(すすきみみずくの販売場所)
住所:東京都豊島区雑司が谷3-19-5 並木ハウスアネックス内
アクセス:副都心線「雑司が谷駅」1番出口から徒歩約3分、都電荒川線「鬼子母神前」より徒歩約5分
営業時間:10:00〜16:30
定休日:木曜(祝日の場合は営業)

●すすきみみずく製作講習会 
主催:すすきみみずく保存会
場所:東京都豊島区南池袋3-5-9 法明寺みみずく会館
開催日時:2〜6月、11、12月の第2日曜、7月の第1日曜 10:00〜12:00
料金:1000円 *要予約
申込み:法明寺 雑司が谷すすきみみずく保存会事務局 TEL03-3971-4383

※2018年9月現在の情報です。 


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