昭和の小学校に必ずあった「土曜授業」が知らぬ間に姿を消したワケ
昭和時代に当たり前だった「土曜授業」「半ドン」。その現在について、エデュケーショナルライターの日野京子さんが解説します。かつて土曜日の通学は当たり前だった 昭和時代、子どもは土曜日の午前に学校へ行くのが当たり前、給食は出ないため、時間割は3時限~4時限まででした。 子どもだけではなく、大人も出勤していました。今ではすっかり耳にしませんが、こうした通勤・通学は、半日休み意味する「半ドン」と呼ばれていました。 土曜授業から自宅に帰る小学生のイメージ(画像:写真AC) 昭和の子どもたちは、半ドンを当たり前のこととして受け止めていました。そのため夜更かしができるのは土曜日の夜のみ。そのため、半ドンが明けた土曜日の午後は今以上に「特別感」が際立っていたのです。 半ドンの歴史は明治時代にまでさかのぼります。 当時の日本は急速に欧米化が進み、休日も諸外国にならい制定されました。「社会系諸科学の探求」(法律文化社、2010年3月発行)の「明治初期中央官員の休日考」によると、その起源は、1876(明治9)年3月12日に 「4月から官公庁の休みを日曜日、土曜日は午後から休み」 と公示されたことです。 土曜は半ドン、日曜は休日という日本の休日体制は戦後の混乱期を経ても健在でしたが、その後、状況はがらりと変わります。 労働環境是正の観点や諸外国による労働時間への指摘もあり、1970~1980年代に入ると、週休2日制の議論が国会でも盛んに取り上げられるようになりました。 完全週休2日制は2002年度から完全週休2日制は2002年度から バブル景気へと突入する1980年代後半、1週間の労働時間削減の法整備が進み、週休2日制を段階的に導入。全ての家庭がそうではありませんが、このころの土曜日は 「子どもは通学、親は家」 という状態になりました。しかし週休2日制が社会に浸透していくなか、子どもたちだけが半ドンを続けていくのは無理がありました。 そこで文部科学省は1992(平成4)年9月から、公立学校で毎月第2土曜日を休日とすることを発表。1995年度からは月2回、そして2002年度からは完全週休2日制となりました。 既存のカリキュラムの分配・消化方法は大きな課題であり、公立学校では3段階で週休2日制を導入するなど慎重に進んでいきました。 2002年度は完全週休2日制のほか、「ゆとり教育」が同時に始まったときでもあり、新しい日本の公教育の船出となる記念すべき年となるはずでした。 ゆとりのある生活イメージ(画像:写真AC) しかし2003年、2006年に行われた経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査「PISA」で日本の順位が下落。この出来事は「PISAショック」と呼ばれ、ゆとり教育と週休2日制は「学力低下の原因」とみなす声が上がりました。 その後、ゆとり教育は大きく見直されましたが、週休2日制は20年近くたった今も維持されています。ただ、自治体によっては土曜日に授業が実施されているところもあります。 東京の一部の公立学校で実施東京の一部の公立学校で実施 世田谷区や港区など、東京の公立学校の一部では、振替休日を設けず土曜日に授業が行われています。つまり「半ドン」が復活しているのです。 東京都教育委員会は2010(平成22)年1月の「東京都教育委員会第1回定例会」にて土曜日の授業実施に言及。2012年度から、月2回の上限で土曜日の授業実施を認める方針を決定しました。 脱ゆとり教育として2013年度に学習指導要領が改訂され、東京都は授業時数が増加することを念頭に、土曜授業実施を決めたのです。 ただし従来の授業を行うのではなく、地域や保護者への公開授業という側面も兼ねています。普段の授業とは異なる形式で土曜授業を実施することは、新しい学び方を受ける機会にもなっています。 土日のイメージ(画像:写真AC) ちなみに文部科学省が2014年7月に発表した「公立小・中・高等学校における土曜日の教育活動実施予定状況調査」の結果から、土曜日授業を実施予定している東京都の公立小学校は1111校にもなったことがわかりました。なお、実施予定の東京都の公立中学校は599校でした。 現在も土曜授業への方針は変わっていません。東京都の公立小中学校では自治体による実施の有無や回数は異なるものの、約10年にわたり授業が行われています。 昭和とは状況も大きく異なりますが、東京都の公立小中学校に通う一部の児童生徒は半ドンを経験していることになります。 格段に増えた3連休格段に増えた3連休 また英語教科化など、義務教育での授業時間数の増加もあり、土曜日の授業を見直す動きも見られます。しかし、現在は月曜日の祝日もあるため、昭和時代に比べて3連休が格段に増えています。 大人の勤務態勢も平成の間にすっかり週休2日制が浸透し、もはや半ドン復権はあり得ない状況です。 休日の青空のイメージ(画像:写真AC) 休みが増えたことはもちろん良いことですが、半ドンを知っている人間なら、土曜日の午後から夜にかけての何ともいえぬ高揚感を覚えているでしょう。 あの頃の休日への「期待感」は今の何倍もの価値があったといってもいいくらい、特別なものでした。
- ライフ