朝ドラ『おちょやん』『エール』の知られざる共通点 第2次世界大戦に翻弄された主人公たちの数奇な運命とは

2021年3月現在、NHK連続テレビ小説は『おちょやん』が放送中です。戦前から戦中へと突入する物語の時代背景は、前作『エール』とも共通します。ドラマの主人公としてそれぞれ描かれたふたりの芸術家は、どのような運命を歩んだのか。フリーライターの苫とり子さんが2作を比較しながら解説します。


東京と大阪に生きた、ふたりの芸術家

 上方女優の浪花千栄子さんをモデルとした、杉咲花さん演じる竹井千代の人生を描くNHK連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)。2021年3月1日(月)に放送された第13週・第61回で折り返し地点に到達し、後半戦の物語が進んでいます。

『おちょやん』は小説版「第1巻 初恋編」が学研プラスから発売。全3巻を予定している(画像:学研ホールディングス、NHK)



 前半では、貧しい家庭に育った千代が奉公先の芝居茶屋(劇場の近くで観客の案内や、食事・宿泊などのサービスを提供する場所)で働くうちに、自身も女優になりたいという夢を抱き、修業の末に成田凌さん演じる一平を座長とする「鶴亀家庭劇」に入団するまでが描かれました。

 その場所で喜劇女優としての才能を開花させ、プライベートでは一平と結婚。波乱万丈だった人生がようやく落ち着き、仲間たちに囲まれた幸せな日々を送ることができる……。

 そう視聴者が安心したのもつかの間、第16週(3月22日~26日放送)からは徐々に千代たちの元にも戦争の影が忍び寄ります。

 戦争といえば、前作の朝ドラ『エール』は第2次世界大戦下の凄惨な様子を生々しく描写し、平和の大切さを伝えたことで大きな話題となりました。

 これまでも朝ドラは戦争で家族や友人を亡くした人たちの苦しみを描いてきましたが、音楽で国民を戦争へと駆り立てた『エール』の主人公・古山裕一(窪田正孝)のように、間接的に“加害者”になってしまった人の視点でその時代を描いたのは画期的だったといえます。

わずか2歳違いの主人公たち

 裕一のモデルになったのは、永井隆の随筆を元にした「長崎の鐘」や、今なお歌い継がれている早稲田大学第一応援歌「紺碧の空」、阪神タイガースの球団歌「阪神タイガースの歌(六甲おろし)」など、数々の名曲を生み出した作曲家・古関裕而さん。

 彼は福島出身ですが、10代後半で上京して以降、晩年まで東京の自宅で暮らしていました。

2020年9月に発売された『連続テレビ小説「エール」オリジナル・サウンドトラック2』(画像:日本コロムビア)



 実は、『おちょやん』のモデル浪花千栄子さんが1907(明治40)年に誕生したのに対し、『エール』のモデル古関裕而さんは1909(同42)年生まれで、ふたりはほぼ同い年。つまりふたりは東京と大阪、それぞれの場所で同じ時代に生き、共に文化芸術活動に携わっていたのです。

 では、そんなふたりの人生は朝ドラでどんな風に描かれたのでしょうか。

 生まれた場所もそうですが、作中の千代(おちょやん)と裕一(エール)が子どもの頃に置かれた状況も初めから大きく異なってしました。

 裕一は老舗呉服店の4代目店主・三郎の元に生まれ、比較的裕福な家庭で幼少期を過ごします。内向的な性格で自分の性格を表現することができないでいた裕一。そんなときに父・三郎が、当時としては珍しい蓄音機を購入し、裕一は「音楽」に出会うのです。

 一方、千代は幼くして母を亡くし、飲んだくれで家のことは娘に任せっぱなしの父・テルヲの元で育ちました。

女優と作曲家、夢を追った軌跡

 学校にもロクに通えず、お金がないためいつもお腹を空かせてばかり。そんな千代の心の支えになったのは、かわいい弟のヨシオ。千代は「姉やん」と慕ってくれる弟が今よりも楽な生活を送れるように、わずか9歳で奉公に出ます。

 のちに女優を目指すことになる千代ですが、幼い頃は夢を抱く暇がないほど生活に精一杯だったのです。

 しかし、裕一もまた老舗呉服屋の跡取り息子だったために夢を諦めざるを得なくなり、お店に出資している叔父が務める銀行で働き始めます。

 1928(昭和3)年、裕一は当時19歳。彼よりも2歳年上の千代が年季明けを迎え、「山村千鳥一座」での修業を経て京都にある撮影所の新人女優として活動していた頃です。

 裕一の方が先に作曲家という夢を抱きましたが、千代の方がひと足早く女優としての一歩を踏み出すことに。

 ですが、裕一も跡を追うように自身が作曲した交響曲「竹取物語」で国際作曲コンクール2等を受賞、ファンレターを送ってくれていた音(二階堂ふみ)と家出同然の形で実家を飛び出し、上京しました。

 千代は「鶴亀家庭劇」に入り、座長の一平と1930(昭和5)年に結婚。その1年後には、裕一も音と結婚し、レコード会社専属の作曲家として苦労しながらも「船頭可愛や」などのヒット曲を生み出しました。

 千代もまた女優として大成し、劇団には欠かせない存在に。そんな順風満帆だったふたりの人生に、暗い影を落とすことになるのが1941年に始まった太平洋戦争でした。

芸術の力を信じ続けたふたり

 前述の通り、裕一は戦時中に戦時歌謡を次々と生み出し、人々を戦争へと駆り立てたことで終戦後も罪悪感に苦しめられることとなります。

 忘れてはならないのは、千代が暮らす大阪も1945(昭和20)年に繰り返し爆撃の被害を受けたということ。

 いわゆる「大阪大空襲」では、約4000人の死者数を出しました。千代たちが戦時中どのように生きていたのか、それは2021年3月29(月)日から放送予定の『おちょやん』第17週以降に描かれていくことになるでしょう。

 2020年から2021年にかけて、文化芸術に関わる多くの人たちはコロナの影響で活動自粛を余儀なくされました。

 そんな中で放送された、ふたつの朝ドラ『エール』と『おちょやん』。モデルとなった女優・浪花千栄子と作曲家・古関裕而に交流があったという記述は残されていませんが、どちらも大阪と東京、それぞれの場所で文化の繁栄に貢献した人物です。

 共通するのは、ふたりとも数々の困難を乗り越えながら、人々を励まし、笑顔にするために芝居と音楽を最後まで届けたということ。

『おちょやん』はここからしばらく心苦しい展開が続くかもしれませんが、前作と同じように千代の“泣き笑い”の人生は私たちに“エール”を送ってくれることでしょう。


【画像】朝ドラのモデル、浪花千栄子と古関裕而

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