嘘が多い、冷たい、星が見えない……「東京」のイメージを優しく否定するBUMP OF CHICKENの歌詞の力
人気バンドが「東京」に向ける視点 20年以上にわたり、日本の音楽シーンを牽引(けんいん)し続けるロックバンドBUMP OF CHICKEN。自分の人生を彩り、照らし、そして救ってくれるバンドとして、彼ら4人の名を挙げる人は世代を超えて非常に多いです。 フロントマン藤原基央(もとお)の紡ぐ言葉が描き出す世界は、日々の生活における半径1mの等身大のものから、広大な宇宙規模のものまで、まさに大小さまざま。 しかし、ほとんどの楽曲に共通する特徴として、抽象度の高い言葉がメインで用いられており、特定の地名や固有名詞が歌詞の中に登場することはほとんどありません。 音楽専門チャンネルスペースシャワーTVで2020年10~11月に特集が組まれるなど、長い人気を誇るバンドBUMP OF CHICKEN(画像:スペースシャワーネットワーク、トイズファクトリー) そんな中でも、BUMP OF CHICKENが明確に「東京」を歌った楽曲があります。それが、2007(平成19)年に発表されたシングル曲『花の名』のカップリング曲である『東京賛歌』です。 藤原基央は、「東京」という街をどのような観点から見据え、そして、どのようなメッセージをこの楽曲に込めたのでしょうか。 <空と地面がある街だよ 育った街とどう違うだろう> ここで引用したのは、この楽曲の冒頭の歌詞です。 ひとつずつ歌詞を紐解いていくと、『東京賛歌』は全編を通して、地方出身者にとっての「故郷」と、夢や希望を追いかけて辿り着いた「東京」を対比していることが分かります。 「東京」に寄り添い、肯定する力「東京」に寄り添い、肯定する力 往年の歌謡曲やJ-POPを振り返ると、「故郷 = 温かい場所」「東京 = 冷たい場所」という構図や前提が用いられている楽曲が多いかもしれませんが、この楽曲は、そうした二項対立で「東京」を語ることはしていません。 <嘘が多いとか 冷たいとか 星が見えないとか 苦情の嵐 上手くいかない事の腹いせだろう ここは幾つも受け止めてきた> ここで引用した歌詞における「ここ」とは「東京」のことであり、このようにこの楽曲は、一方的に冷たいイメージを持たれてしまった街である「東京」に寄り添い肯定する、まさに文字通りの“東京賛歌”として響いています。 <勝手に選ばれて 勝手に嫌われた この街だけが持ってるよ 帰れない君の いる場所を> <この街だけが知ってるよ 育った街への 帰り方を> 嘘が多い、冷たい、星が見えない……そんなイメージを持たれた「東京」に優しく寄り添う歌詞を紡ぐ(画像:写真AC) この2節は、『東京賛歌』の最後のサビの歌詞です。夢や将来への希望を抱きながら地方から上京したリスナーにとっては、この「東京」の温かさを歌った楽曲は、とても深く響くのではないでしょうか。 直接的に「東京」を描いているわけではないものの、僕が、『東京賛歌』と近いテーマを掲げていると感じたBUMP OF CHICKENの楽曲を2曲紹介します。 その1曲目が、『東京賛歌』が収録されたシングルの表題曲である『花の名』です。 「東京」は誰かにとって「故郷」でもある「東京」は誰かにとって「故郷」でもある この楽曲は、2007年に公開された映画『ALLWAYS 続・三丁目の夕日』の主題歌であり、懐かしき昭和時代の「東京」を舞台とした映画の物語に寄り添うようにして、温かなメッセージを伝えていきます。 <皆 会いたい人がいる 皆 待っている人がいる 会いたい人がいるのなら それを待っている人がいる いつでも> <僕だけを 待っている人がいる あなただけに 会いたい人がいる> この楽曲の歌詞を映画の物語に照らし合わせることで、「故郷」としての「東京」の風景が浮かび上がってきます。 その風景は、懐かしさと温かさに満ちていて、カップリング曲『東京賛歌』と合わせて聴いてみると、「東京」という街の新しい側面が浮かび上がってきます。 『ALLWAYS』シリーズ2作の主題歌を担当 続いて、映画『ALLWAYS 三丁目の夕日’64』 の主題歌として、2012年に発表された楽曲『グッドラック』を紹介します。 <くれぐれも気を付けて 出来れば笑っていて 忘れたらそのままで 魂の望む方へ 僕もそうするからさ ちょっと時間かかりそうだけど 泣く度に解るんだよ ちっともひとりじゃなかった> <思い出してもそのままで 心を痛めないで 君の生きる明日が好き その時隣にいなくても 言ったでしょう 言えるんだよ いつもひとりじゃなかった> たくさんの人の思いが交錯する街たくさんの人の思いが交錯する街『花の名』と同じように、映画『ALLWAYS』シリーズの物語と照らし合わせながら聴くことで、おのずと「東京」を舞台とした歌として歌詞の言葉を捉えることができます。 「東京」とは、誰かにとっては夢を追い飛び出してきた街であり、また別の誰かにとっては生まれ育った故郷でもあります。 多くの人が集まり暮らす巨大都市であるからこそ、「東京」は、たくさんの人の出会い、そして「別れ」が否応もなく起きる街であり、たくさんの人の思いが交差する街であると位置付けられます。 そして、そうした「別れ」は、決して、ただ悲しいだけのものではないことを、この楽曲は、力強く雄大なバンドサウンドにのせて伝えてくれます。 ここで紹介した楽曲はごく一部で、BUMP OF CHICKENの楽曲の中には、まだまだ、リスナーにとっての「東京」的なる街の懐かしさと温かさを伝える楽曲が数多くあると思っています。ぜひあなたも、ご自身にとっての「東京」ナンバーを探してみてください。
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