現金給付か、商品券か 人のいなくなった東京を救う「国民目線」の緊急経済対策とは?
新型コロナウイルス感染拡大を受け、7日に発令された緊急事態宣言。実際に首相会見に参加したフリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。外出者を一方的に非難できないワケ 世界で猛威を振るう新型コロナウイルスは、毎日のように感染者が報告され、死者数も日を追うごとに増加。国内でも多くの感染者・死者を出しています。連日100人を超える感染者が報告されている東京都内は、時間とともに事態が深刻化しています。 新型コロナウイルス禍を重く見た安倍晋三首相は2月27日(木)、全国の学校に向けて休校を要請。小中高校生は約2週間早い春休みが始まりました。またそれらの措置に伴い、博物館や図書館、動物園といった公的機関でも休館・休園が相次いでいます。 4月8日の新宿歌舞伎町の様子。多くの飲食店が店を閉めており、人通りもなかった(画像:ULM編集部) 北海道は新型コロナウイルスによって危機的な局面を迎えました。しかし、北海道だけが特別というわけではありません。そのほか地域も感染拡大の危険性は変わりません。 休校要請が出されたにもかかわらず、多くの都府県では新型コロナウイルスの脅威を実感できなかったというのが現実です。 いつものにぎわいほどではないにしても、渋谷や新宿といった繁華街は多くの人出が見られました。駅前や繁華街などでは、人が密集する空間が生み出されていたのです。 そして、外出自粛が長引いてきたこともあって世間の空気は緩んでしまいました。休校要請から約2週間後となる3月20日(金)、21日(土)、22日(日)の3連休は、新型コロナウイルスを楽観視していた人たちの多くが街へと繰り出したのです。 しかし、混雑した繁華街へ外出した人たちを一方的に非難することはできません。 2020年7月からは東京五輪が開幕する予定でしたが、その延期が発表されたのは3連休後です。つまり、政府も東京都も日本オリンピック委員会(JOC)も、3連休前までは東京五輪を予定通り開催できると考えていたフシがあるのです。 宣言の適用は、東京都を含む7都府県宣言の適用は、東京都を含む7都府県 しかし東京五輪の延期が発表されると、政府も東京都もようやく新型コロナウイルス対策に本腰を入れ始めました。 感染爆発の危険性が高まる3月25日(水)、小池百合子都知事は記者会見を実施し、週末の外出自粛を訴えかけました。外出自粛の2日目となる3月29日(日)は都内で降雪という悪天候もあり、繁華街の人出は激減しています。 政府・東京都が対策を打ち出しても、新型コロナウイルス禍は終息する気配すら見せません。そのため、新型コロナウイルス特別措置法に基づき、4月7日(火)に安倍晋三首相は緊急事態宣言をすると記者会見で発表。翌日0時から発令しました。 緊急事態宣言について説明をする安倍晋三首相(画像:小川裕夫) 今回、緊急事態宣言が適用されるのは、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・大阪府・兵庫県・福岡県の7都府県です。 都の具体的要請は未定 これらの7都府県は、知事の判断・指示により一部の私権が制限されることになります。私権の制限と言われてもピンときませんが、不要不急の外出自粛が引き続き呼びかけられるうえ、人が密集する店の営業を休止するように要請を出すことができるようになります。 実際、どんな店に休業要請を出すのかといった具体的な部分は、これから知事が検討・判断・指示します。 国民も不安を隠しきれません。 緊急事態宣言が発令されると、「食料品が不足する」「生活用品がなくなる」といった懸念が生じますが、食料品や生活用品を販売するスーパーマーケットやコンビニ、トイレットペーパーやマスクといった衛生関連の商品を販売するドラッグストア、暮らしに欠かせない病院や診療所、公共性の強い鉄道・バスといった交通機関は緊急事態宣言発令後も現状を維持するとされています。 いまだに手に入りづらいマスクいまだに手に入りづらいマスク とはいえ新型コロナウイルスのまん延によって、ドラッグストアの店頭からトイレットペーパーが消えたことは記憶に新しい出来事です。また、現在もマスクが手に入りづらい状況は改善されていません。 緊急事態宣言の発令で、必要な食料・物資などの買い占めや不足といった事態が起きる可能性は否定できません。緊急事態宣言は、かえって混乱に拍車がかける可能性もあります。そのため、安倍首相も小池都知事も繰り返し記者会見などを開いて、そうした不安を解消することに努めています。 4月7日に実施された緊急事態宣言を発令するための記者会見は、新型コロナウイルス対策のために3密を避ける措置が取られました。そのため、いつも使っている会見室ではなく、大ホールで実施されました。 緊急事態宣言を表明するための記者会見は、3密を避けるため記者を制限。席の間隔も配慮された(画像:小川裕夫) 同記者会見では安倍晋三首相だけでなく、菅義偉官房長官、加藤勝信厚生労働大臣、西村康稔新型コロナ対策担当大臣といった閣僚、そして専門家として新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長も同席しました。 繰り返される同じ主張と方針 この記者会見で、安倍晋三首相は何を述べたのでしょうか? 会見には、安倍晋三首相(右)のほか、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長(左)も同席(画像:小川裕夫) 記者会見で述べられた内容は、これまで政府が繰り返してきた主張・方針とほぼ変わりません。引き続き、食料品を販売するスーパーマーケットや衛生用品を販売するドラッグストアは営業しますし、病院や交通機関も通常通りとされています。 新型コロナウイルスのまん延を阻止するために、政府は人が多く集まるような店の営業を休止するように呼びかけていますが、休業に対する補償はありません。 また満員電車からの感染拡大を防ぐべく、リモートワークの推奨もしています。しかし、実態は満員電車が解消されていません。 国内の産業保護より迅速に講じるべき対策国内の産業保護より迅速に講じるべき対策 こうした感染拡大の根源を絶てないのは、ひとえに政府が国民生活を支えるための給付金、補償を渋っているからです。 金銭的に困窮する国民に対して、政府は一世帯あたり30万円の給付金支給を打ち出していますが、これらの給付金を受給するハードルは高く、現状では多くの人が給付金を受け取ることができないような状況です。 また、子どもひとりに対して児童手当に加算する形で1万円を給付する措置も発表されましたが、これが1回だけなのか複数回なのかは定まっていません。 困窮する国民への給付金や減税といった経済政策よりも、政府が力点を置いているのが経済界への支援です。 先日、食肉業者への対策として「お肉券」、水産業者への対策として「お魚券」を配布する可能性があると話題になりました。 豪華な和牛のイメージ(画像:写真AC) また、新型コロナウイルスによって大きく目減りしたインバウンドを補うべく、終息後に旅行需要を盛り上げる目的の旅行代・交通費を補助するクーポン券の配布が検討されているとも報道されています。 日本経済を死守するべく、国内の産業を保護する政策が重要であることは言うまでもありません。しかし有事の今、それよりも先に、しかも迅速に講じなければならない対策があるはずです。政府の対応が、そうした緊急を要する対策をおろそかにしている印象は否めません。 一世帯にマスク2枚という衝撃的な国民への対策も、国民の生活を理解していない政治家が発案したと思われ、それが国民の間に不信感を生じさせてしまった要因といえます。 商品券でもクーポンでもなく、現金を商品券でもクーポンでもなく、現金を 緊急事態宣言の発令で、東京都内は普段よりも静かになっています。人通りの減った繁華街では、客が入っていないにもかかわらず店を開けている飲食店が見受けられます。 4月8日の新宿駅西口の様子。普段なら街宣活動や募金活動の中心地だが、何もなかった(画像:ULM編集部)「3密(密閉・密集・密接)」の条件がそろっている飲食店は、感染リスクが高い空間です。それでも営業をしています。店も客が来ないとわかっているものの、休業補償はありません。明日の生活の糧を得るために、働かなければならない人たちはたくさんいるのです。 そして緊急事態宣言で街が静かになっても、私たちは日々の営みを止めることはできません。その営みには、どうしても“現金”が必要になります。必要なのは、商品券や代金を補助するクーポンではありません。 改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく初の緊急事態宣言に直面する今、私たちはどのように生活を送らなければならないのでしょうか? そして、政治はどのように私たちの生活を守ろうとしているのでしょうか? 新型コロナウイルス禍によって、私たちの生活、そして社会は大きく変わり始めています。
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