90年代渋谷にはルーズソックスの女子高生が
90年代、世間の女子高生たちがこぞって身に着けた「ルーズソックス」を覚えているでしょうか? あのユルユル、ダボダボのルーズソックスが2021年現在、再び女子高生たちの間で人気となっているというのです。東京都内を中心にトレンドを取材するライターが、その実態を探りました。(構成:ULM編集部)
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1990年代に「ギャルの聖地」と言われた東京・渋谷の街。
今、その地を歩くのは、黒髪で清楚な印象を受ける現代の女子高生たちです。新型コロナ禍の緊急事態宣言下ということもあり、そもそも制服姿の学生たちの姿自体をあまり見掛けませんが、とりわけ「とにかく派手!」といったかつての“平成ギャル”の面影は今はほとんど見なくなりました。
四半世紀が経過した「平成ギャル文化」は今
90年代ギャルの象徴的スタイルといえば、ブリーチした茶髪・金髪に、日焼けサロンで焼いた肌、短いスカート、そして、やはりダボダボのルーズソックスではないでしょうか。
厚みとボリュームのあったルーズソックスは当時「脚が細く見える」と女子高生たちに熱烈な支持を受け、制服を着こなすうえで欠かせない必須アイテムとなりました。
60cm丈、80cm丈、90cm丈など長いものほど人気で、なかには120cmを超える「スーパールーズ」を履く女性も。
ご存じの通り、当時はSNSなど存在しない時代です。自分自身の存在をアピールするには、インスタグラムに自撮り画像をアップするのではなく、そのときどきの「カワイイ」とされるファッションに身を包んで、渋谷をはじめとする“聖地”を闊歩(かっぽ)することが若者たちにとってのステータスでした。
白いYシャツに、大きめのカーディガンを腰に巻いて、足元はルーズソックス。まるで90年代のようなファッションが現代の女子高生たちに人気なのだという(画像:ゆりあんさん、2taeil2lll)
制服以外では「へそ出し」や「厚底」などが流行した時代でしたが、いずれも2021年現在、人気が再燃していると言われています。
ブームは繰り返すと言いますが、今、かのルーズソックスも再び流行し始めているとの情報をキャッチしました。果たして本当なのか。四半世紀が経過した「平成ギャル文化」の今を探りました。
有名インフルエンサーも「ルーズ愛」を告白
若者に人気のTikTokでフォロワー数国内女性1位を誇り、在京テレビ局の番組にも連日出演しているタレント景井ひな さん(22歳)。
彼女が2021年6月30日(水)、レギュラー出演中のTOKYO FM番組「SCHOOL OF LOCK! GIRLS LOCKS!」で自身の“ルーズソックス愛”を披露しました。
ラジオ番組でルーズソックス愛を語った景井ひな さん。2021年10月からはフジテレビ系ドラマ『顔だけ先生』にレギュラー出演するなど若い世代の人気を集めている(画像:ホリプロデジタルエンターテインメント)
「2年以上前からずっと推してるアイテムがありまして、ひとつめが『ルーズソックス』!」
景井さんいわく、今流行している厚底靴はルーズソックスと相性抜群。同月15日(火)には、自身のインスタにこのふたつのアイテムをコーディネートした画像をアップしています。同ラジオ番組では、
「履き方がすっごいかわいいからぜひ履いてほしい!!」
「ホントにオススメ!!! なんでみんな早く履かないの!? 流行(はや)ってるからこそ履いたらいいのに! ってずっと思ってます」
と熱く語りました。
また東京・原宿の最新トレンドを発信する情報サイト「原宿POP WEB」は、2021年1月13日(水)に「【ブーム再来!?】令和ギャルはルーズソックスを私服で着こなす!」と題した記事を配信。
ちなみに同サイトでは、いわゆる渋谷系ギャル的な着こなしではなく、裏原系、サブカル系と呼ばれるスタイルを紹介しています。
インスタグラムを検索すると、「#ルーズソックス」というハッシュタグを付けた投稿数は2021年9月26日(日)現在、2.7万件超に上ります。
東京を中心とした今どきの女子高生たちが、ルーズソックスに関心を持ち始めている様子をうかがい知ることが分かります。
「平成ギャル文化」はなぜ再燃しているのか
インスタにアップされた写真は、ベージュのネイビーのダボっとしたカーディガンに、スクールバック(スクバ)、ルーズソックス……。30代以上の大人が見れば、思わず「懐かしい」と口にしてしまいそうなスタイルが見事に再現されています。
そして、それらの画像には併せて「#平成ギャル」や「#90s」といったハッシュタグが付けられていることも注目すべき点です。
彼女たちはこうしたファッションを90年代のギャル文化と分かったうえで、現代に再現しているのです。
彼女たちはいつどのようにして「平成ギャル文化」を知り、どういった点に引かれているのでしょうか。
「コギャルになりたい」平成に感じる新鮮さ
インスタやツイッターなどの投稿を見てみると「当時のコギャルになりたいので、日本のJKみんなでコギャル流行(はや)らそう」といった書き込みが見つかります。
どうやら当時の派手な装いは、今の女子高生にとって「なりたい」と標榜するほど新鮮なものとして映るよう。
渋谷系だけでなく、裏原系の女子にもルーズソックスは人気。YouTuberまあたそ さんが手掛けるアパレルブランド「BEFTEYビフティー」の新作も色付きルーズソックスを取り入れたスタイルが多数(画像:Making ideal)
90年代当時のように、世の中の女子高生たち誰もがルーズソックスを好んでいるというほどのムーブメントは(少なくとも現状では)見られませんが、3万件近い彼女たちの投稿を見るにつけ、ある一定程度の需要があることは確かなようです。
ただ先述の通り、新型コロナ禍も相まってか、筆者が渋谷の街をウオッチしに行った際にはルーズソックス姿の制服女子を見つけることはできませんでした。それでは彼女たちはいつどのようにしてルーズソックスを履いているのでしょうか。
いくつもの投稿を眺めていると、ある共通の場面があることが浮かび上がりました。
文化祭、ディズニー 特別な日の平成スタイル
それは、「#文化祭」や「#ディズニーランド」。そうしたタグと一緒にルーズソックス姿の画像をアップしているケースがとても多いのです。
つまり、普段はほとんど履かないけれど、特別な日、“ちょっと羽目を外したいとき”にルーズソックスをはじめとする「平成ギャル」風の着こなしをしていると言えそうです。
それでは次に、彼女たちはどこから「平成ギャル」の知識を得たのか、についてです。
もちろんSNSやネット検索によっていくらでも情報を得ることは可能であり、かつ最近では「平成レトロ」といった言葉とともに平成カルチャーを懐かしむ風潮が生まれています。
さらに加えて、東京都内に住む女子高校生のひとりに聞いたところ「自分の母親がちょうど(90年代の)ギャルブーム真っただ中の世代だった」との情報を得ることができました。
ツイッターを検索してみても、「(親せき宅に)平成の黒ギャルの写真が飾ってあったから誰? って聞いたら母親だった」「母親に化粧してもらったらギャルみたいになった」といった書き込みが見つかります。
先述の女子高生しかり、今の10代は、母親がかつて派手な格好をして楽しそうに過ごしていた話をリアルに聞くことで、あこがれを抱くようになっているのだそう。
堅実だけど……ときにははっちゃけたい願望
高校生をはじめとする現代の若者たちは、経済成長が停滞した「失われた20年」に生まれ育ったこともあり、しばしば「堅実で高望みをしない」「欲が少なく、ほどほどで満足する」などと捉えられてきました。
しかし、あるいはだからこそ、ときには思いきり“はっちゃけたい”という欲求も持ち併せているのではないかという逆説が、現在の「平成ギャル文化」再燃からは垣間見えます。
終身雇用や1億総中流社会が実質的に過去のものとなり、若い頃から将来について考えざるを得なくなった現代の若い世代にとって、大人の目など気にせず自由に遊んだ「平成ギャル」は、もしかしたらとても輝いて見える存在と言えるのかもしれません。
盛り髪にピアス「ギャル男」ブームも再び?
さて、興味深いブームはほかにもあります。男子高生の間でも、90年代にギャルとともに渋谷など東京の街を席巻したいわゆる「ギャル男」の文化が広がっているのだといいます。
TikTokでは、現代の男子高生たちが『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(2007年、フジテレビ系)のオープニング曲だったORANGE RANGEの「イケナイ太陽」に合わせて「ギャル男」へ変身していく動画が話題になっています。
TikTokで「ギャル男」と検索すると現れる、現代の若者たちの投稿動画(画像:TikTokのスクリーンショット)
新宿・歌舞伎町のかつてのホストを連想させるような派手な「盛り髪」や、ゆるく締めた制服のネクタイ、ピアス、懐かしの「裏ピース」を決めて、ショート動画をアップしています。
ハッシュタグは「#体育祭」「#夏休み」といった、女子高生たちと同じく特別な日を意味するものから、「#平成男子」「#メンズエッグ」「#懐かしい」「#時を戻そう」と平成を回顧するものまでさまざま。
端整な面立ちの韓国男性アイドルが日本のみならず世界で人気を博す昨今ですが、ちょっとワイルドないで立ちで“チャラい”雰囲気の平成のギャル男スタイルは、今の男子高生にとって新鮮に映るようです。
彼らが渋谷の街角にあふれる日は来るのか?
ここまで見てきたように、女子高生も男子高生も、今のところ非日常やSNSの中で「平成ギャル文化」を楽しんでいる側面が強いようです。
渋谷の街に「平成ギャル」が再び現れることはあるのか(画像:写真AC)
ただ、テレビでは池田美優(みちょぱ)さん(22歳)をはじめとするギャルタレントが存在感を増しており、飾らない雰囲気がかっこいいと同世代からも評判を呼んでいます。
女子高生の間には「ギャルは元気で明るく、無敵な感じが見ていて気持ちいい」との声もあるだけに、ギャルとはエネルギーの塊であり、若さの象徴として捉えられているのかもしれません。
「懐かしい」と感じる大人世代と一緒に盛り上がれる「平成ギャル文化」。今はSNSで徐々に盛り上がりを見せている段階のようですが、新型コロナが収束したあかつきには、かつての渋谷のように、ギャルたちが街なかを楽しげに闊歩(かっぽ)する日が訪れるのでしょうか。