「自分以上になりたかった」デビュー31年の福山雅治が、東京に見つけた光と影と美しい景色

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「自分以上になりたかった」デビュー31年の福山雅治が、東京に見つけた光と影と美しい景色

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松本侃士

音楽ライター

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長崎市出身。歌手として俳優として活躍する福山雅治さんが、自身の楽曲に歌い込んだ「東京」はどのような表情を持った街として描かれているのでしょうか。音楽ライターの松本侃士さんが解説します。

18歳で上京した街に見たもの

 さまざまな著名アーティストが歌詞に歌い、時代ごとの情景を切り取ってきた街、東京。今回は、そんな「東京」にまつわる福山雅治の楽曲を紹介していきます。

 長崎市で生まれ育ち、18歳の時に上京した経験を持つ彼は、「東京」という街をどのような観点から見据え、そして、それぞれの楽曲を通して、どのようなメッセージや物語を伝えようとしているのでしょうか。

2020年12月にリリースした30周年アルバム『AKIRA』を記念して音楽専門チャンネル「スペースシャワーTV」に出演した福山雅治さん(画像:スペースシャワーネットワーク、アミューズ、KAYO SEKIGUCHI)



 1曲目は、2007(平成19)年に、映画『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン』の主題歌としてリリースされた「東京にもあったんだ」です。

<東京にもあったんだ
 こんなキレイな夕日が
 うれしいな 君に見せたいな
 君は元気かな>

 これは同曲の歌い出しの一節です。

 この歌詞を読むと、楽曲の主人公が思いをはせる「君」は、東京にはいないことが分かります。ちなみに、後半に

<君はね 青春のゴールだったよ>

という一節があることから、この物語における「君」は、学生時代にかけがえのない大切な時間を共に過ごした人であること、そして、この楽曲の主人公は、上京と同時に青春期に別れを告げ、大人になろうともがいていることが推測できます。

大ヒット映画の主題歌に込めたメッセージ

<いま以上 自分以上に
 なりたかったんだよ
 急いで 急いで…
 勝つために覚えたこと
 この街のルールに
 少しだけ染まったよ>

 このように1番のBメロでは、まだ何者でもない自分自身に苛立ち、焦りをあらわにする主人公の心情が描かれています。しかし、2番のBメロでは、次のように続いていきます。

映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』DVD(画像:VAP independent(VAP)(D))



<ときどき忙しすぎて
 僕に迷ったり 君にも怒ったり
 生きるために傷付くこと
 この街のルールに
 もう少し 逆らうよ>

 焦燥の日々の中で失いかけていた大切なもの。その存在にあらためて気付かされた主人公は、決して東京の街に染まることなく、力強く生きていく宣言をします。

 そして、この楽曲のサビでは、次のような「お願い」の言葉が歌われています。

<お願いだ 涙は隠さないでくれ
 お願いだ 心は失くさないでくれ>

誰から誰に対する「お願い」なのか

 これは、誰から誰に対する「お願い」なのか。例えば、今は遠く離れた「君」から主人公に対する「お願い」かもしれません。

 もしくは、「君」と過ごした大切な日々を振り返る主人公が、東京の生活において大切なものを見失いかけていた自らに向けた言葉と捉えることもできます。

東京での慌ただしい日々に、しばしば大切なものを見失いかけるときもある(画像:写真AC)



 このようにさまざまな解釈ができますが、いずれにせよ、東京という街で生きていくこと、そして大人になっていくことに対する温かな「願い」が込められていると言えるでしょう。

 2曲目は、2005(平成17)年に、テレビドラマ『スローダンス』(フジテレビ系)の主題歌としてリリースされた「東京」です。この楽曲は、次の一節から幕を開けます。

<涙や弱さや素顔なんて この街じゃ
 誰にも見せちゃいけないって 思ってた>

 この楽曲の主人公は、当初、東京はドライで冷徹な街であるというイメージを抱いていたことが分かります。

<隠さなきゃ笑顔にはなれない痛みも
 忘れなきゃ前には進めない哀しみも 抱いて>

 しかしこの楽曲が伝えようとするメッセージは、決して悲観的なものではありません。たとえ、東京が痛みや哀しみに満ちた街だとしても、「君」となら生きていける。この楽曲は、そうした力強い思いに裏付けられたラブソングです。

東京はドライで冷たいだけではない

<雨上がりの246号を抜け出そうよって
 夏の夜風を触りに行こうよって 君が笑って>

<外苑東通りを歩く ゆっくり ゆっくり
 手を繋ごう 夜が綺麗 Uh>

雨上がりの東京を、一緒に歩いていく景色が曲とともに立ち現れる(画像:写真AC)



 実在する地名が登場するこの楽曲を聴くことで、まさに「君と歩く東京」の街の景色が心の中に浮かび上がってきます。そしてそれは、決してドライで冷たいものではなく、人々の温かい思いにあふれた美しい景色であると言えます。

 3曲目は、2006(平成18)年のアルバム『5年モノ』に収録されたアルバム曲「BEAUTIFUL DAY」です。

<空へと続く Turnpikeを登り
 海へと誘う Skylineはご機嫌>

<君が知らずに失くしかけていたもの
 それを取り戻そうぜ
 波の音が聞こえる 東京が遠ざかる>

 これまでの2曲とは異なり、この曲の物語の舞台は「東京」ではありません。しかし、以下の最後の一節が示しているように、この曲には、「東京」という街で生きる上で失くしてはいけないもの、大切なものを取り戻そう、というメッセージが込められています。

自身のルーツを確かめる楽曲

<明日からも生きていかなくちゃ
 孤独だけど ひとりじゃないんだ
 今日はなにもかもちょっといいんだ
 奇蹟かもしれない Beautiful day>

 ちなみに今回紹介した「東京」「東京にもあったんだ」「BEAUTIFUL DAY」の3曲は、18歳で上京した18年後に36歳を迎えた福山雅治が、自身のルーツを確かめるために制作した楽曲で、「東京3部作」と呼ばれています。

 もちろん、ここで紹介した楽曲はごく一部で、福山雅治の楽曲の中には、代表曲の「桜坂」をはじめ、まだまだ「東京」の街を舞台とした物語を紡ぐ楽曲が数多く存在しています。

 ぜひあなたも、自身にとっての「東京」ナンバーを探してみてください。

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