SL保存が大ピンチ! 『鬼滅の刃』登場で再注目も、背後にあった構造的危機とは

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SL保存が大ピンチ! 『鬼滅の刃』登場で再注目も、背後にあった構造的危機とは

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小川裕夫

フリーランスライター

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『鬼滅の刃』ブームで改めて注目が集まったSL。そんなSLは現在、危機的状況を迎えています。いったいなぜでしょうか。フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

「旅情がある」では済まされない現実

『週刊少年ジャンプ』で連載されていた『鬼滅の刃』が2020年、大ブームとなりました。鬼滅人気は社会現象にもなり、10月に公開された劇場版『鬼滅の刃』無限列車編も日本の映画史を塗り替える空前のヒットになっています。

 劇場版では作中に蒸気機関車(SL)が描かれていることから、JR東日本は「SLぐんま よこかわ」、JR九州は特別列車「SL鬼滅の刃」といったコラボ列車を走らせています。

 SLは昭和40年代まで盛んに全国を走っていましたが、各地の鉄道路線が電化されるにつれ姿を消していきました。しかし迫力満点の世代を超えた人気があり、現在でも多くの人を魅了します。

 そんなSLは都会の騒がしさを離れた地域、例えば

・大井川鉄道
・山口線(JR西日本)
・磐越西線(JR東日本)
・真岡鉄道

などでは見ることができます。

 また最近では東武鉄道が復活プロジェクトに取り組み、2017年から一部区間で運行を開始しています。SLは東武の観光的な目玉になっていますが、沿線の観光スポットとして人気の高い東京スカイツリーや浅草の周辺を走ることはありません。あくまでも運行区間は栃木県内の一部にとどまっています。

 走っている勇姿を見たり、乗ったりするだけなら「かっこいい」「旅情がある」と観光気分にひたれますが、生活と隣り合わせの沿線住民は違います。

 SLの運行には振動・騒音・ばい煙などの問題がついてまわり、住環境が脅かされるのです。そうした配慮から、住宅が密集するエリアでSLが運行することは難しくなっています。また、SLの運行やメンテナンスには莫大(ばくだい)な費用がかかります。経済的な事情もあり、SLはどんどん活躍の場を喪失しているのです。

SLを展示・保存する意味

 それでも、SLの躍動感ある勇姿を目にすると、SLのとりこになる人は多いようです。ゆえに地方路線では観光列車として長らく高い人気を博してきました。

北区王子にある飛鳥山公園で屋外保存されているSL。同公園ではほかにも都電の車両が保存展示されている(画像:小川裕夫)



 名古屋市の河村たかし市長もそのひとりで、2011(平成23)年には市議会でSLの復活運転を表明。2013年には、名古屋臨海高速鉄道あおなみで復活運転を実現させています。

 2013年の復活運転は単発的なイベントでした。河村市長は、毎日とはいかなくても定期的にSLを走らせたいと望みました。そのため、名古屋市科学館に屋外展示されていたSLに着目。これを修理して運行させる計画を立てました。

 長らく屋外展示されていたSLだけに現役の列車として運行するには、いくつものハードルを越えなければなりません。そのため、名古屋市のSL復活プロジェクトは思うように進んでいません。6月23日(水)の市議会では、SL復活プロジェクトが進んでいないことを問いただされ、河村市長は改めて事業計画を説明しています。

 実際に復活運転するかどうかはともかく、SLを展示・保存することは技術を後世に継承することや、子どもたちに科学的な興味を持ってもらうという大きな意味を含んでいます。そうした意味もあり、現役を引退したSLは全国の博物館や公園、学校などに引き取られています。

保存展示の陰にボランティアの存在あり

 東京でも多くのSLが引き取られて、博物館や公園などに保存・展示されています。

 SLを展示保存しているミュージアムとしては、

・東武博物館(墨田区東向島)
・国立科学博物館(台東区上野公園)
・青梅鉄道公園(青梅市勝沼)

などが有名です。

 しかし、そうしたミュージアムのほかにも新橋駅の駅前広場をはじめ、

・飛鳥山公園(北区王子)
・世田谷公園(世田谷区池尻)
・大塚台公園(豊島区南大塚)

といった誰もが自由に利用できる広場・公園にもSLが保存・展示されています。

豊島区南大塚にある大塚台公園に保存展示されているSL。公園からは都電荒川線が走る姿を見ることもできる(画像:小川裕夫)

 SLはデリケートなので、風雨にさらされると車体が退色し、サビだらけになってしまいます。そのため、メンテナンスが欠かせません。美しく保つため、公園や広場などに保存されているSLは、主にボランティアが清掃といった形でメンテナンスを担ってきました。

維持・管理には課題山積

 また、SLは10年単位で色を塗り直さなければなりません。

 その費用は安く見積もっても1000万円はかかります。簡単に捻出できる金額ではありません。これらの費用は自治体が負担することも珍しくなく、有志による寄付金で賄われることもありました。

 これまでSLの維持管理はボランティアの善意に頼ることが多かったのですが、ボランティアが高齢化している背景もあり、最近はSLの維持・管理が難しくなってきています。

 世田谷区は公園に保存・展示されているSLの塗装費用を賄うため、ふるさと納税を活用。世田谷区の目標金額は1500万円で、そのうち約400万円を集めました。

世田谷公園に保存展示されているSLは、ふるさと納税を活用して塗色費用を募っている (画像:小川裕夫)



 目標金額には達していませんが、試行錯誤をしながら何とか残そうとする努力が続けられています。

 財政的・人的な面から、保存展示は年々厳しい状況になっています。鬼滅ブームで人気になっているのとは裏腹に、SLの置かれている状況は刻一刻と危機的になっているのです。

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