回転寿司の人気ネタ「ウニ」が日本各地で異常発生 大ピンチの救世主「ウニノミクス」とは何か?

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回転寿司の人気ネタ「ウニ」が日本各地で異常発生 大ピンチの救世主「ウニノミクス」とは何か?

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お寿司のネタとして人気の高い「ウニ」。このウニが今、東京湾や相模湾など全国各地で大量生息していることをご存じでしょうか? ウニ好きにとっては朗報のように聞こえるこの話、実は深刻な問題をはらんでいるようです。

東京湾に大量のウニが……?

 お寿司(すし)の人気ネタとして、常にランキング上位に名前が挙がる「ウニ」。

 鮮やかな色、とろりととろける舌ざわり、磯の香りを感じる塩気と甘みは、大人世代を中心に愛好者が絶えない貴重食材。高級料理向けに珍重される一方、昨今は庶民的な回転寿司店などでも人気を得ています。

お寿司の人気ネタ「ウニ」が今、ピンチを迎えているという。一体どういうことなのか?(画像:写真AC)



 農林水産省が2021年3月に公表した「海面漁業生産統計調査(2019年版)」によると、国産ウニの都道府県別の漁獲量トップ3は次の通り。

・北海道(4554t)
・岩手(922t)
・青森(652t)

 有名産地である北海道・礼文島や利尻島など北国の海で育つイメージのあるウニですが、実は今、東京湾や相模湾などにも大量に生息しているということをご存じでしょうか?

 ウニ好きの人にとっては朗報のようにも聞こえるこの話、しかし実際は全く喜ばしくない状況のようです。

海藻がウニに食べ尽くされる

 首都圏近海だけでなく全国、あるいは世界規模でウニの増殖が問題視されるようになったのは1960年代以降。魚介類の世界的な漁獲拡大(乱獲)によって、ウニにとっては天敵である捕食生物が減少。温暖化など海洋環境の変化も背景に、その生息数は劇的に増加していきました。
(参照:水産庁『改訂 磯焼け対策ガイドライン』2015年3月)

 ウニが増え過ぎるとどのような弊害が起きるのか? 最も深刻視されているのは、コンブなどの海藻がウニに食べ尽くされてしまう「磯焼け」です。

 浅瀬に広がる海藻の群生地(藻場)は、地上で例えるなら森林や草原。小魚たちの住みかや魚の産卵場、さらには大気中の二酸化炭素を吸収することで地球温暖化を抑制する機能も確認されている重要な場所です。

 その藻場をウニが食べ尽くすことによって海の“砂漠化”が進み、魚の産卵などが阻害される事態が各地で多発しているというのです。

 それならウニをたくさん採って、おいしく食べてしまえばいいのでは? と考える人もいるでしょうが、事態はそう単純ではありません。

 海藻のない岩礁でひしめき合うように生息するウニは、トゲトゲの殻を割っても中の身(精巣・卵巣)が育っておらず、空っぽ。可食部のない殻だけの状態になってしまっています。当然ながら食用として流通させることはできません。

海藻が食べ尽くされ、“砂漠化”した海底にひしめき合うウニ(画像:ウニノミクス)



 磯焼けの解消を目指して、国や自治体の対策補助を受けた漁師やダイバーが海にもぐり、ウニを“駆除”しているというのが現状です。

 貴重食材であるはずのウニが大量発生し、海の環境を荒らしている。せっかく公金を使って捕獲しても、食べられることなく廃棄されている――。こうした悪循環を打開するため、東京にある企業が立ち上がりました。

駆除対象のウニを育てて流通

 企業の名前はウニノミクス(江東区木場)。ノルウェーとオランダに本社を置く、磯焼け対策を目的としたウニ畜養事業の日本法人です。2017年1月に設立されました。

 これまで駆除されるだけだった磯焼け対策の捕獲ウニを、陸上の専用施設に移送して畜養し、販売流通できるまでに育て上げることが主なミッションです。同社の日本事業責任者である山本雄万さんは、次のように説明します。

「ウニの味はエサで決まります。食用コンブの切れ端を主原料にした、ウニの味を引き立てて成長を促進させることに特化した飼料を使って畜養しています」

「磯焼け」により中身が育たなかったウニ。これらを捕獲し、陸上で畜養・流通を支えるのが同社のミッション(画像:ウニノミクス)



「畜養したウニは地域の特産品となり、漁業者にとって安定収入になります。さらに公的な補助金だけに依存しない磯焼け対策・藻場の修復につながるほか、天然ウニの旬に関わらず年間を通した出荷も可能になる。一石三鳥の循環型ビジネスだと捉えています」

 これまでに行った試験畜養では、磯焼けした空っぽのウニを2~3か月程度給餌(きゅうじ)したことで、殻の中にたっぷり身の詰まった状態にまで育てることに成功しました。

貴重な殻付きウニを東京でも

 農水産業の規模を拡大する上で課題となるのが現場作業の効率化です。

 漁業・水産業界では高齢化や人手不足が進み、水産技術者の経験に基づく判断や手作業による従来の方法では、事業規模の拡大や商品の品質向上・安定化に限界があるとされてきました。

 そこで同社は、画像認識などのICT技術を活用し、水槽内のウニの個数やサイズ、健康状態を確認できるシステムや、人工知能(AI)搭載ロボットによる自動給餌などの導入に向けた研究開発を進めています。

 畜養したウニは2018年12月から東京都内のデパート食品フロアにある高級鮮魚店や回転寿司店で試験販売。首都圏ではめったにお目に掛かれない殻付きの状態で提供し、その鮮度や味に目利きの店主たちからも“お墨つき”を得たといいます。

東京都内の回転寿司店で提供された、貴重な殻付きウニ(画像:ウニノミクス)



「天然ウニは、国産であっても殻を開けてみるまでどのくらい身が詰まっているか正確に把握することは極めて困難です。輸入品となれば輸送時間の関係上、殻付きで提供することもできません。殻付きウニというこの貴重な食べ方が、畜養技術によって産地から離れた一大消費地・首都圏でも将来的に季節を問わず身近なものになることを目指しています」(山本さん)

 2021年4月下旬には、大分県内に構えた世界初の大型ウニ陸上畜養施設「大分うにファーム」が本格稼働。年間生産量15tのウニの畜養・流通を目標に掲げます。

高騰続くウニ 安定供給に期待

 今、食用ウニの価格は年々上昇を続けています。

 同社によると、世界で採れるウニの8割を消費しているのが日本。国内で流通するウニのうち国産は2割程度、残りは輸入品です。

 10年ほど前まで国内産ウニの平均単価が1kg当たり約8000円、輸入ウニが約5000円で推移していたのに対し、2017年にはいずれも1万3000円超にまで跳ね上がりました(築地・豊洲市場での平均単価)。

 背景にあるのは、先述の通り国内漁業者の高齢化・人手不足や、磯焼けによるウニの生育不良。さらには海外での日本食人気の高まりによって、輸入品も国内産と同程度にまで高騰しているのだそう。

 冒頭で参照した水産庁の「磯焼け対策ガイドライン」によれば、磯焼けの被害は全国35都道府県に分布しています(2015年)。全ての原因がウニによる藻の食害と断定されていないものの、見過ごせない状況が全国に広がっているのは間違いありません。

 おいしい国内産ウニを安定的に供給するとともに、海洋環境まで改善する――。先述の大分県での取り組みに限らず、磯焼けに苦しむ全国各地へウニ畜養事業を横展開させていく方針です。

 ウニノミクスという取り組みが、私たちの食や環境の救世主となる将来はすぐそこまで来ているのかもしれません。

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