23区「山手通り沿い」にお買い得物件がゴロゴロしている社会的事情

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23区「山手通り沿い」にお買い得物件がゴロゴロしている社会的事情

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櫻井幸雄

住宅評論家

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かつては「排ガスや音がひどい」と言われていた山手通り沿いのエリアですが、今では家を買うにしろ、借りるにしろ、狙い目の場所。いったいなぜでしょうか。住宅評論家の櫻井幸雄さんが解説します。

変化が起きている大通り沿いの住環境

 明治通りに環八、環七、目白通り……東京23区内には車の交通量の多い道路が多く存在します。これら大通りに面した場所は騒音や排ガスが多く、「あまり住みたくない場所」と考えられてきました。

 しかし、近年、大通り沿いの住環境に変化が生じ始めています。

 まず、騒音や排ガスの規制が強まり、車全般が静かでクリーンになりました。それに加えて、ハイブリッドカーや電気自動車が増えたため、道路から生じる音と臭いが大幅に減少。大通りに面した家に住んでいても、騒音に耳をふさぎたくなることが減り、排ガスで家の外壁が黒く汚れることもなくなりました。

 これに加えて、地下に新しい道路ができたことで車の通行量が減少。環境が大きく変わったと感じられる大通り沿いエリアもあります。

 そんな場所では、環境がよくなっているのに、「排ガスや音がひどいんでしょ」というイメージは以前のまま。そのため、住み心地のよいマンションや一戸建てが割安で購入できたり、借りたりできることがあります。

 そう、例えば23区内では山手通り沿いのエリアのように。

正式名称「東京都道317号環状六号線」

 山手通りは品川区の海側、東品川から板橋区仲宿に至る道路で、正式名称は「東京都道317号環状六号線」です。

赤線が山手通り(画像:(C)Google、地図データ)



 環七・環八と呼ばれる道路がありますが、それよりも内側(都心寄り)に位置しているから“環六”……でも環状ではなく、輪が半分程度で終わっている道が山手通りの特徴です。

 山手通りは、もともと交通量の多い道路でした。環七・環八と同様、もしくは環七・環八よりも車の量が多く、騒音や排ガスの量も多い――その結果、山手通り沿いのエリアは環境がよくない場所として認識されていました。

 このように「環境に難あり」の場所は、住宅価格が安くなります。新築住宅の分譲価格が割安になり、中古住宅の価格はさらに安く、賃貸住宅の家賃も抑えられるわけです。

 しかし、いくら安くても「山手通り沿いは住みたくない」という人が多く、人気も低め。もし「住みたくない街ランキング」のようなものがあれば、上位入賞が予想される場所となっていました。

「なっていました」と過去形にしたのは、近年、山手通り沿線の住環境が大幅に改善されているからです。

地下に高速道路が開通、混雑は大幅緩和

 きっかけは、今から11年前の2010年3月28日、高速道路の首都高速中央環状線が8割方完成したことでした。

 首都高中央環状線は、品川区の大井ジャンクションから目黒区、渋谷区、新宿区、中野区、豊島区、板橋区を経て、江戸川区の葛西ジャンクションに至る高速道路です。

 その半分ほどは山手通りの下に設けられたトンネルとなり、それまで山手通りを利用していたドライバーにとって、大幅な時短を実現してくれる高速道路となっています。

 2010年3月に開通したのは首都高3号渋谷線と首都高4号新宿線を結ぶ区間で、その先、板橋区の方向はすでに開通していたので、全体の8割程度が完成。残っていた首都高速3号渋谷線と大井ジャンクション間の工事が完了し、首都高速中央環状線が全線開通したのは2015年のことです。

首都高速中央環状線(画像:国土交通省関東地方整備局)

 全線開通の前、2010年の時点から、山手通りの混雑度は軽減されるようになりました。混雑率でいえば、6~14%程度混雑率が緩和された程度(1日あたり2000~6000台減少)とされます。たいした数値ではないように思えますが、実際に道路をみると、「車でぎっしり」が「車が余裕を持って走行」というくらいの変化が生じました。

 2015年に全線開通してからは、さらに車が減り、山手通りは「車がスカスカ」であることが多い道路に変貌しました。

 当然、車の騒音、排ガスは激減。20世紀の山手通り沿線は、晴れた日でも排ガスで曇っているように思えることが多かったのに、今はいつも空気が澄んでいるように思えます。

車が減っても、イメージは以前のまま

 首都高中央環状線には出入り口が少なく、目黒区内にはありません。それでも、山手通りの交通量が減っているのは、山手通りを走っていた車の多くが目黒区内を目的地にしていなかった証拠でしょう。

 目黒区内を目的地ではなく通過点と考えるドライバーは、地下の首都高速中央環状線を選択。その結果、地上を走る山手通りでは大幅に交通量が減少。山手通り沿いの環境がよくなったと考えられます。

 同様のことが渋谷区、新宿区、中野区、豊島区、板橋区の首都高速中央環状線沿線でも起き、山手通り沿いのエリアには交通量の減少で環境がよくなった場所が多くあります。
 しかし、今も「山手通り沿いは、どこも排ガスがひどい」と思っている人が少なくありません。良くないイメージが残っているため、住宅の新規分譲価格も中古価格も、そして賃貸家賃相場も抑えめ。だからこそ、山手通り沿いのエリアは、家を買うにしろ、借りるにしろ、狙い目の場所といえるのです。

山手通りとマンション(画像:写真AC)



 山手通り沿いの23区内で家探しをしている人にとって、山手通り沿いのエリアは穴場といえます。イメージだけで判断することなく、実際に現地を歩いて、お得な物件を探してみてはいかがでしょうか。

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