故人がくれた絶世の「どら焼き」をもう一度 探し求めて神保町を歩いた日【連載】散歩下手の東京散歩(5)
2021年1月9日
ライフ散歩とは、目的を持たずに歩くことも、寄り道しながら目的地を目指すことも、迷子になってしまうことも、迷子になりたくなくて右往左往することも、すべて包み込む懐深い言葉。出版レーベル「代わりに読む人」代表で編集者の友田とんさんが、いつか食べた記憶の中どら焼きを求めて神保町の街を歩きました。
ひょんなことで出合った、記憶の中の味
何年も前のことですが、まだ半袖でも平気な暖かい秋口の夜、千代田区・神保町のとある小さな出版社から連絡をもらい、打ち合わせのために赴きました。
地下鉄の出口を出て、教えてもらったとおりに大通りから細い道を入ると人通りもなくあたりは暗くて、ぽつんぽつんとある電灯がところどころ地面をほの白く照らしていました。
建物の前まで行くと、電柱の脇でタバコを吸う年配の男性と一瞬目が合い、やや間があって相手は、
「ひょっとして友田さんですか?」
と言いました。その人が連絡をくれた編集者さんだったのです。
部屋に案内してもらい、2時間ほどもあれこれ話をしたのだったでしょうか。書いている文章の話から、話題はイタリア、活版印刷、日常観察、街歩き、池袋モンパルナスと興味の赴くままに移っていきました。
デスクの上には出版された本や書類、文房具などとともにセロハンで包装されたどら焼きの入った木の器がありました。話をしながら、私の視線がそのどら焼きにしばしば注がれているのに気づいたからでしょうか。その編集者さんは、
「よかったらどうぞ」
と言ってどら焼きを勧めてくれました。
私は甘いものに目がありません。話しながら包装を剥き、どら焼きを口に割り入れました。あっさりとしたあんこがおいしいどら焼きでした。

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