焼きたて「20分で廃棄」していた過去 苦心の店主が7年がかりで編み出した「干物型たい焼き」とは
2020年11月9日
ライフ阿佐ヶ谷に世にも珍しい、たい焼きを魚の干物のように開いた商品を売るお店があります。いったいなぜでしょうか。商い未来研究所代表で、小売流通専門誌「商業界」元編集長の笹井清範さんが解説します。
「天然もの」と「養殖もの」の違い
人形町「柳屋」、麻布十番「浪花家総本店」、四谷「わかば」――これらは、ある食べもので東京を代表する三名店ですが、何の店かをご存じでしょうか。
正解はたい焼き。庶民の暮らしの楽しみとして愛され続ける和菓子です。その起源は江戸時代、熱した鉄板または銅板の上に小麦粉に砂糖を混ぜて水で溶いたものを流して、文字や絵の形に焼いた文字焼(もんじやき)から派生したと言われます。
三名店の共通点のひとつは「天然もの」を扱っていることにあります。
天然ものとは、「一丁焼き」という1匹だけの焼きごてを用いて焼くたい焼きのこと。それに対して、大型の焼成機を使っていっぺんに複数を同時に焼くものを「養殖もの」と愛好家たちは言います。
焼きたてにこだわり、作って20分で廃棄
これら三名店の名声に近づこうと、素人からたい焼き店を始めて創意工夫を重ねる人がいます。2011年1月に創業、杉並区の阿佐ヶ谷パールセンター商店街に7坪ほどの小さな店を構える「たいやき ともえ庵(あん)」(杉並区阿佐谷南)の店主、辻井啓作さんです。辻井さんはあるときはともえ庵店主、あるときは経営コンサルタント、あるときは格闘家でもあります。

一丁焼きを製法とすることはもちろんですが、この店の特徴はそれだけにとどまりません。そのひとつに、甘味を抑えた餡(あん)があります。
ともえ庵が考えるおいしさとは、たっぷりと入ったつぶし餡とパリッとした皮のハーモニーにあります。たくさん食べても胃もたれしないように、「餡に加えるグラニュー糖を極限まで減らして甘さを抑えている」と辻井さん。そうすることにより、小豆の素材としての風味を際立たせているのです。
焼きたてにこだわり、作って20分で廃棄
そして「たい焼きは焼きたてこそ最上の調味料」という信念から、すぐに食べる来店客には焼きたてを提供、さらに「焼き上がり後20分」を目安に廃棄というルールを徹底しているそうです。
餡も鮮度とおいしさを第一とするため、営業終了時に残ったものを翌日に使い回すことなく、すべて廃棄するという徹底ぶりです。

そのため、作り過ぎれば廃棄ロス、作り控えれば販売の機会ロスというふたつのロスといかに向き合うかがともえ庵の商いでもあります。
食品廃棄量の削減は持続可能な社会実現に欠かせない今日的課題ですし、機会ロスの低減は経営上の重要テーマです。この対立する課題をともにクリアしてこそ、店は存続を許されます。たい焼きの頂点を目指す辻井さんが安易に妥協するはずもありませんでした。

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