毛髪企業のアデランスが「誰でも使える」コスメ商品を発売 本業とメイクの深ーい関係とは?

育毛、増毛、ウィッグ商品などで知られるアデランスが2020年9月、誰でも使える「ユニバーサルデザイン」のメイクアップ商品を発売しました。毛髪事業のアデランスがなぜコスメを? 同社担当者に話を聴くと、そこには美に対する深い哲学がありました。


なぜアデランスが? という疑問

 新宿御苑(新宿区内藤町)の目の前に本社を構える、アデランス(同区新宿)。

 ご存じ、育毛・増毛・ウィッグなどの商品やサービスを扱う企業で、毛髪という個々人のセンシティブな悩みに寄り添う事業を長きにわたり展開しています。

 そのアデランスが2020年9月、誰でも使える「ユニバーサルデザイン(UD)」を掲げたメイクアップ商品を発売しました。

 本業である毛髪事業と、化粧品。一見あまり関係の無さそうな両者ですが、話を聴くとそこには美に対する同社の哲学が通底しているのでした。

※ ※ ※

 今回発売された商品は「BLINDMAKE(ブラインドメイク)UDパレット」。

 丸いコンパクトの中には温かなピンクを基調としたリップ、チーク、アイシャドー、ハイライト、アイブローなどの計9色がセットされています。

アデランスが発売した「誰でも使える」メイクアップ道具。その誕生秘話とは?(画像:アデランス)



 ブラインドメイクとは「メイクに夢中」という意味で作られた俗語ですが、もうひとつの意味は、視覚障害者が鏡やブラシを使わず自分自身の手や指先でできる化粧技法のことを言うのだそう。

 そう、この商品はある全盲の女性の願いをもとに同社が開発した、誰でも使える“バリアフリー”なパレットなのです。

ある全盲女性の願い

 石垣愛華さん。

 生後4か月のとき両眼性の「網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)」という小児ガンにより左目を摘出し、義眼に。また右目も5年前、26歳のときに視力を失い、全盲になったといいます。

日本ケアメイク協会「ブラインドメイクを世界に広げよう!」プロジェクトの副代表も務める石垣さん(画像:アデランス)



「この先もう一生、自分でお化粧をすることができなくなってしまった……」

 弱視の頃からメイクにあこがれていた石垣さんは悲嘆に暮れますが、ブラインドメイクと呼ばれるメイク技法があることを知ります。

 鏡を使わなくても、自分自身でフルメイクができる……! その普及活動をする化粧療法協会でレッスンを受け、石垣さんは大好きなメイクのスキルを身につけていきました。

 今回アデランスが商品化に乗り出したのは2019年6月、石垣さんたちが同社を訪れた際「こんなメイクアイテムが欲しいな、と思って」と試作品の原案を紹介したのがきっかけでした。

 もともとガン患者などのための医療用ウィッグをはじめ「外見ケア」の分野にも力を入れてきた同社。

 同じように外見に関する悩みを持つ視覚障害者にも、自分が望むメイクを楽しめるアイテムを提供できたら――。石垣さんら日本ケアメイク協会のメンバーたちとの共同開発に着手しました。

徹底した使いやすさ

 そのため本商品は、視覚障害者にとっても使いやすい、さまざまな工夫にあふれています。

 これまで一般に販売されているメイク道具を使用していて石垣さんが感じた不便は、例えば商品リニューアルに伴うデザインや形状、色彩、配置の変更などによって、そのたび色の位置や使用量を覚え直す必要があったこと。

 それから、口紅やグロスなど丸い筒型のものはころころと転がりやすく、失くしてしまったり、アイテムごとの区別がつきにくかったりしたこと。

 そこで「ブラインドメイク」は、リップ、チーク、アイシャドーなどの定番をひとつにまとめ、持ち歩きにも便利にしました。パレット内の9色はひとつひとつ取り外しができるので、使い終わったものから順に買い足したり、自分の使いやすい配置に並べ替えたりできる仕様。

 開閉口はパチンと音が鳴るタイプだから、きちんと閉じられたことを音で確認することができます。

「ブラインドメイク UDパレット」のスターターセット(画像:アデランス)



「これまでお化粧をしていない自分を見られるのが嫌で、下を向いて歩いていました。でもブラインドメイクを知ったことで自信がついて、顔を上げて歩けるようになりました」と話す石垣さん。

「お化粧をした自分の顔を見ることはできないけれど、口紅、アイシャドー、チーク……ひとつひとつの工程や所作からキレイになっていく自分を想像して、楽しんでいます」とも。

「キレイになりたい」がかなう世界

 厚生労働省「2018年度 障害者の職業紹介状況等」によると、ハローワークを通じた障害者の就職件数(10万2318件)のうち、視覚障害者は2040件で全体のわずか1.99%。

 アデランスの担当者は「視覚障害者の社会参画にはいまだ高いハードルがあることがうかがえます。視覚に障害を持つことで外出を控えてしまう、人に会いづらいなど、心理的にふさぎ込んでしまうケースがあるようです」と指摘。

 その上で、

「当社はこれまで約50年間、毛髪の研究を続けてきましたが、現在はその延長線上にある美容事業、ヘルスケア事業などにもその知見を応用しています。障害のある人もそうでない人も、外見をケアすることで自分らしくいられ、気持ちが明るく前向きになれるというプラスの変化は、本人はもちろん周囲にも広がっていくのではないでしょうか」

と、事業の意義を説明します。

 もうひとつ、同社が挙げるキーワードは「SDGs(持続可能な開発目標)」。

 近年の日本では、プラスチックごみ削減のためのレジ袋有料化や紙製ストロー導入など、環境問題の観点から語られることの多いワードですが、SDGsの最終的な目標は「誰ひとり取り残さない」世界の実現です。

 お化粧をして、華やかな髪型にして、よりキレイな自分になってみたい――。そんな素朴な願いが何の障壁なくかなえられ、つい誰かに見せたくなる、会いたい人に会いに行きたくなる心の高まりを誰もが日常的に味わう世界は、きっと今より輝かしいでしょう。

 ちなみに担当者によると、本商品のカラーは「若い人から年配の方まで、幅広い年齢の方が使いやすい色」にこだわったとのこと。

 誰でも使える「ユニバーサルデザイン」を掲げるメイク道具は、視覚障害者に限らず晴眼者にも、若者にもお年寄りにも、文字通り誰にも開かれた商品になっているようです。


【画像】メイク商品の中身や価格をチェック(2枚)

画像ギャラリー

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