分厚い唇を「キン肉マンみたい」と馬鹿にされた少女がコンプレックスを克服するまでの30年

人は誰しもひとつやふたつ、自分の顔や外見にコンプレックスを抱いているもの。女性の場合は特にそう。でもなぜ、人はコンプレックスを抱くのでしょう。そしてどうすれば克服できるのか。ライターの古宮宗さんが、ひとりの女性の体験を通して考えます。


なぜ人はコンプレックスを抱くのか

 皆さん、自分の顔は好きですか。何かしら気になるパーツはありますか。

 イメージコンサルタントなどの養成スクールを運営するアイシービー(中央区銀座)が20代~50代の女性1482人を対象に「顔のコンプレックス」に関する意識調査を行ったところ、76.1%に当たる1124人がコンプレックスを持っているという結果でした(2020年1月9日実施)。

 コンプレックスを感じるパーツは、鼻(27.9%)、目(27.8%)、口(11.7%)、頬(9.8%)、あご(6.9%)、おでこ(4.0%)で、気になり始めたのは、小学生の頃(34.0%)もしくは中学生の頃(26.1%)から。

「メイク(65.8%)」、「アイプチやアートメイクなど(7.6%)」、「整形手術(3.8%)」という対処法でもってしても「全く解消されなかった(37.5%)」、「あまり解消されなかった(36.2%)」というのです。

誰しもひとつくらい、自分の顔にコンプレックスがあるもの。彼女の場合、それは厚い唇だった(画像:写真AC)



 なぜ人は、自分の顔にコンプレックスを抱くのでしょう。そして、どうすればその悩みは解消されるのでしょう。

 今回は、厚い唇に悩んでいたものの、メイクや整形手術以外の力でコンプレックスから解放されたある女性の話を紹介します。

「たらこ唇」と言われ続けて

 彼女が厚い唇、いわゆる「たらこ唇」に悩み始めたのは小学校低学年。当時はアニメで「キン肉マン」というプロレス漫画が大はやりしていた時期で、主人公がたらこ唇だったことから、「たらこ唇」という言葉も使われるようになりました。

 同じクラスのみならず、他の学年の男子からも「たらこ唇」とからかわれ、それがいやでいやでたまらなかった彼女。自分がいつから唇が厚いのか気になってアルバムを見返し、すでにたらこ唇の赤ちゃんの自分に気づいてショックを受けます。

人気作だった「キン肉マン」。とはいえ唇が「似ている」とからかわれた少女の気持ちはいかほどか(画像:(C)ゆでたまご/集英社、三栄)



 兄弟、両親、祖父母には、たらこ唇の人がいないので、一体どの遺伝なのかと“犯人捜し”を始めました。

 親族の集まりで話を切り出すと、叔父たちが「叔母さんも昔は唇が厚かった」と口々に話します。当の叔母は「大人になって少し薄くなったの」と陽気に話しますが、よく見てみるとしっかり厚い。大人になっても薄い唇にはならないのかと、未来を悲観しました。

 小学校時代の彼女の写真は、唇を少しでも薄く見せたくて、唇を歯の内側に巻き込んだような表情がちらほら。あまりに唇の悩みを口にするので、根負けした父親から「20歳になったら整形手術してもいい」と言われ、成人するのが待ち遠しかったそうです。

東京へ出たことで訪れた転機

 高校を卒業した彼女は、東京の大学に進学します。

 成人まであと少し。しかし高校生の時に始めた歯列矯正が思い描いていたように仕上がらなかったことから、唇も手術でうまくいかない可能性があることを、身をもって知りました。たらこ唇については、半ば諦めの気持ちを抱いていたそうです。

 さすがに小学生時代のようにからかってくる人はいなくなりましたが、コンプレックスは健在。「たらこスパゲッティ」と聞けばビクッとし、アニメ『ちびまる子ちゃん』で主人公の声優の「TARAKO」さんの名前を見てドキリ、サークル仲間のあだ名が「たらこ」で都度反応といった具合です。人々が、まったく悪意なく使う「たらこ」の言葉にいちいち勝手に傷つく始末。

タラコ。たわいないその日常単語に、いちいち反応し傷ついていた少女がいた(画像:写真AC)



 しかし転機は20歳前後にやってきます。

 大学のサークル合宿で、同部屋のメンバーでメイクをしていたときのこと。普段物静かな女子がふいに「キスしたくなる唇だよね」と言いました。彼女はそれこそ天地がひっくり返るような衝撃を受けたそうです。それまでその厚い唇を誰にも褒められたことがなかったから。

 東京という大都会には、全国の都道府県から人が集まっています。地元だけでは出会えないような、さまざまな価値観を持つ人がいるのです。

 その後ひとりでじっくり鏡を見てみても、たらこ唇はすてきに見えなかったそうですが、自分の唇を違った視点から見る努力をし始めたと彼女は言います。

世間の価値観は変化していく

 大学を卒業した数年後、まだコンプレックスは解消されていなかった彼女ですが、海外旅行中に現地在住の日本人から言われたのが「あなたの唇、アンジェリーナ・ジョリーみたいですてきね」という言葉でした。

 2度目の唇に関する褒め言葉が、予想外のハリウッド女優に例えられたもので、しばらく心がふわふわと夢心地だったとのこと。

 ちょうどそれくらいの頃から、欧米では厚い唇がセクシーということで、メイクで実際の唇よりも大きく見せるといった話が聞かれるようになりました。この時点でもまだ本当にそんな人がいるのかと半信半疑だったそうですが、日本でも、井川遥さん、井上和香さん、石原さとみさんといった唇の厚い女優さんが人気となり、唇がチャームポイントとして評価される流れが出てきます。

厚い唇は「セクシーで魅力的」と評価されるように。時代を経て人々の価値観が変化した(画像:写真AC)



 次第に厚い唇を褒められる機会が増え、本格的にコンプレックス解消に向かっていきました。

 それから20年近くたち、目にしたのが2020年5月9日(土)配信のニューズウィーク日本版のネット記事です。

 近頃はアメリカのモデルのカイリー・ジェンナー人気で厚い唇への憧れが加速していて、メイクもしくはヒアルロン酸の注入や唇にボリュームを出し数時間効果が続く米国産の器具「リップエンハンサー」などを使って、唇を厚くしている女子中高生がヨーロッパにはたくさんいるという内容でした。

 記事を読み終わったとき、彼女は30年以上のコンプレックスとの戦いがようやく完全に終わったのを感じたそうです。

もっと気軽に、人を褒めよう

 今回は、たらこ唇のコンプレックス解決についてお話ししましたが、もちろんどんなパーツのコンプレックスにも共通して言えることです。

 コンプレックスを抱きやすいパーツで多いのは、ほかの人と違う部分。子どもの頃であれば特に、同級生からあからさまな言葉でからかわれることもしばしばあり、言われた本人にはいつまでも深い傷として残ることもあります。

 しかし東京や海外といった、より広い場所に出ていけば、たくさんの人がいます。違う価値観の人が、違う評価をします。また時代が変われば、評価は変わります。

東京や海外、広い世界へ飛び出せば、価値観も評価も変わるもの(画像:写真AC)



 皆さんは、英王室を離脱したメーガン妃の「そばかす」に関するエピソードをご存じでしょうか。

 メーガン妃の父親は今でこそ娘ともめて悪いイメージがついているかもしれませんが、娘が小さい頃に「そばかすのない顔は、星のない夜空のようなもの」と話したとか。メーガン妃にとって、そばかすはチャームポイントで、それを生かすメイクをしているのは見ての通りです。

 これらのエピソードから思うのは、ちょっとしたひと言が人のコンプレックスを解消するということです。

 いいなと思ったら、魅力を感じたら、気軽に相手を褒めてはどうでしょう。見た目だけでなく、人の特技や能力についても、気づいたらできるだけ言葉にしましょう。それで相手が救われたり、自信がついたり、その後何十年も心の支えになることがあるのですから。


【調査結果】「顔のコンプレックス」に関する意識調査の結果を見る(画像4枚)

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