安易な地方移住は子どもの教育環境に悪影響? 注目すべきは移住先の街の「歴史」だった【連載】現実主義者の東京脱出論(2)

新型コロナウイルスの感染拡大で、今まで以上に注目を浴びる「東京脱出」「地方移住」。そんな世の中の流れに対して警鐘を鳴らすのが、1年の半分近く、全国各地を巡る地方系ライターの碓井益男さんです。連載2回目となる今回のテーマは「地方の教育環境」です。


東京の充実した教育環境

 2020年、東北地方の小さな地方都市にある美術館を取材で訪れた際、館長さんからこんな話を聞きました。

 美術教師の経験もある館長さんは、美術系大学を志望している高校生の親に頼まれて受験対策の絵画指導をしていましたが、結局諦めたのか高校生は来なくなったと言います。なぜ、個人指導をすることになったのかと筆者が尋ねたところ、

「最も近い絵画教室まで鉄道とバスで2時間以上かかる」

と言われました。

 東京と地方との格差は、このようなときに浮き上がります。美術系大学に進学するためには、美大予備校や絵画教室に通うのは必須です。天才でもない限り、独学で合格することはできません。

 東京には無数の予備校や教室がありますが、地方でそうしたスクールがあるのは県庁所在地か、第2の都市までです。もちろん浪人前提の人生設計になるため、教育費も余分にかかります。

地方都市のイメージ(画像:写真AC)



 美術系大学への進学はレアケースかも知れませんが、一般的な大学への進学を前提とした人生を考えても地方は不利です。正確には、地方は「不利な地域が存在している」のです。

 地方で、

・政令指定都市クラスの都市
・人口30万人規模の都市
・人口5万人規模の都市

を比較すると、人口が少なければ少なくなるほど進路選択は限られ、受けられる教育のレベルが低下することは否めません。中学受験という進路選択はほぼ首都圏と一部の地方都市に限られる現象のため、高校を事例にとって考えてみましょう。

 政令指定都市クラスの都市であれば、意欲と学力に応じて選択できる高校の数は細やかです。そうした都市は予備校や塾も充実しているため、偏差値が中程度の高校でも、ワンランク上の大学に入学することも可能です。また地方では「公立優位」なので、高度な教育を受けつつ、教育費の負担も軽減されます。

 ところが、人口が減ると高校の数も当然減りますから、おのずと選択肢も減少していきます。

経済発展度と都市の歴史の関係

 具体的な地域を例示しましょう。

 広島県広島市(政令指定都市)に隣接する東広島市の人口は約19万人で、広島市のベッドタウンとして人口増加率が著しく高い都市です。広島県第3の都市である呉市と並ぶ、発展中の都市です。呉市の人に聞くと「既に抜かれた」との声も。

山陽本線西条駅と広島市の位置関係(画像:(C)Google)



 東広島市の中心は山陽本線西条駅周辺で、広島大学の医歯薬以外の全学部が1995(平成7)年までに移転し、同大のメインキャンパスとなったことで、学園都市としても発展しています。

 東広島市も高校は公立優位ですが、地域にある県立高校は普通高校と職業系高校のふたつしかありません。それ以外の普通高校に進むなら私立大学付属高校がありますが、偏差値は前出の普通高校よりも高いため、その間の偏差値を狙う際には、電車で広島市内へ通わなければなりません。人口増加率が著しく高いわりには、疑問を感じる教育環境です。

 鳥取県の西部に位置する米子市の人口は東広島市よりも少なく約14万人ですが、県立の普通高校だけでなく、私立高校も充実しています。市の東西にあるふたつの高校は創立100年を越える地域のエリート校で、両校と県立の総合・職業系高校との偏差値的な合間を私立高校がきっちり埋めているため、学力に応じた高校の設定が細やかだと言えます。

 この背景にあるのは都市の歴史です。広島大学の移転先と決定したのを契機に1974(昭和49)年に旧西条町などが合併してできた東広島市と、江戸時代以降、城下町として発展してきた米子市――経済発展度は東広島市が優位ですが、教育に関しては米子市の方が優位です。

移住先の教育環境の吟味を

 もちろん東広島市の教育レベルが低いわけではなく、広島大学と連携した教育を実施していますし、立地の関係上、大学教員の子弟といった地域のエリート層も少なくありません。

 問題なのは、学力に差異のある生徒が大ざっぱにひとまとめにされ、ひとつの学年で、学力が上位と下位に大きく分かれていることです。

 このような教育環境では、家庭で勉強の必要性を子どもに積極的に説かないと、やすきに流れてしまいます。地方で子どもが学習意欲を持つことは、東京以上に大変なのです。

鳥取県米子市(画像:(C)Google)



 ここまで地方の教育事情について解説してきましたが、東京脱出は自分自身の仕事や将来の問題ではないということです。

 今は独身で身軽であっても、やがて家庭を持つことを念頭におけば、自分の享受してきた教育や文化を子どもに与えることができるかどうかを、真剣に考えなくてはなりません。

 地方に対する東京の文化の優位性は、単にコンサートや美術展が多いといった話ではありません。それでも東京脱出を選択するのなら、目に見えにくい、その土地の歴史と文化が育んだ教育環境をしっかり調べることをお勧めします。


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