新型コロナ対策で大注目 「テレワーク」のメリットとは結局何なのか?

  • ライフ
新型コロナ対策で大注目 「テレワーク」のメリットとは結局何なのか?

\ この記事を書いた人 /

百瀬伸夫のプロフィール画像

百瀬伸夫

IKIGAIプロジェクト まちづくりアドバイザー

ライターページへ

新型コロナウイルスで企業の導入が加速するテレワーク。そんなテレワークの今後の可能性について、IKIGAIプロジェクト まちづくりアドバイザーの百瀬伸夫さんが解説します。

感染症拡大の抑止策として急浮上

 新型コロナウイルスの影響で、人々が不要不急の外出を控えていることから、都内の繁華街や飲食店は閑散としています。

 飲食店の売り上げ・客数が減った一方、配達デリバリーや冷凍食品、個人宅へのウオーターサーバー水の需要が増えたり、またスポーツジムや学習塾もオンライン指導に切り替えたりするなど、好評を博しています。

 今回、新型コロナウイルスの感染拡大予防の措置として、数千人に及ぶ全社員を一斉に在宅勤務へ切り替える大企業が続出しました。

 東京都は2020年3月6日(金)、新型コロナウイルス感染症の拡散防止および、企業の事業継続性の対策として、「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」の申請受付を開始しました。この助成金は、テレワーク環境を整備する中小企業や個人事業主を対象にしたものです。

テレワークを行う人のイメージ(画像:写真AC)



 また9日(月)には、厚生労働省でも新型コロナウイルス感染症対策を目的にテレワークを新たに導入する中小企業への助成金の申請受付を開始しました。導入費用の2分の1を、1社あたり上限100万円まで補助するそうです。

通信技術の進歩がカギ

 急に脚光を浴びたテレワークですが、そもそもテレワークとはどのようなものでしょう。

 テレワークとは遠隔地で仕事をする働き方の総称で、在宅勤務やサテライトオフィス、コワーキングスペースでの勤務や、モバイルワークなどがあります。

文京区にある「東京テレワーク推進センター」の一角(画像:百瀬伸夫)

 いずれも、今日の情報通信技術を生かし、テレワークに必要なネットワーク環境があれば、場所や時間にとらわれない新たな働き方を実施できるため、「働き方改革」の救世主となりました。

セキュリティー確保が必須

 テレワークの実施にはもちろん高度なセキュリティーが必要となるため、データをクラウド上に置くクラウドコンピューティングと、パソコンにデータを保存できないシンクライアントが普及しています。

クラウドコンピューティングのイメージ(画像:写真AC)



 また、外部から社内システムにアクセスできる独自のインターネットVPN(仮想私設網)があれば、セキュリティーも確保できます。

 さらに遠隔地とのコミュニケーションツールとして、電話やチャット、電子メール、テレビ電話やテレビ会議も有効で、最近はウェブ会議を取り入れる企業も増えています。

“お試しテレワーク”の社会実験

 2017年に総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府と、東京都および関係団体が連携し、東京オリンピックの開会式が予定されている7月24日(金)を「テレワーク・デイ」に制定しました。

 2017年のテレワーク・デイには、全国の約950団体・6.3万人が参加。2018年(7月23日から27日まで開催)には1682団体、延べ30万人以上の参加となり、従業員満足度においても上々の回答がありました。

 さらに、2019年の「テレワーク・デイズ2019」(7月22日から9月6日の間に5日以上実施)は、2887団体・約68万人が参加する規模に拡大。

 参加企業は情報通信関連とサービス業種が全体の半数となり、しかも従業員299人以下の企業が6割を占めるなど、大企業に偏ることなく広がっています。

 最初の1週間に都内23区の従業員数は延べ124万人が減少、コピー枚数は約38%減、残業時間も約44%削減され、参加企業の6割が使用電力も約1割減少したと回答しています。

東京都心の一等地に28か所を展開する、世界的レンタルオフィスのサロン風景。日本を代表する大企業がサテライトオフィスとして活用(画像:百瀬伸夫)

 また、実験に参加した8割が「移動時間の短縮」、6割が「業務の生産性向上」と「就労者の生活環境の改善」を挙げました。

ライフスタイルを変える

 テレワークの導入で、企業は本社機能をダウンサイズ(ワークスペース、会議室、付帯設備など)させることができます。地価の高い都心は大きなコストメリットになり、従業員も通勤時間が減り、ラッシュアワー時の通勤地獄から解放されます。

 一方、テレワークが不向きな職種もあります。例えば製造業や加工業などの現場や、美容院などのサービス業はその場にスタッフがいないと仕事ができません。

 また、勤怠管理やセキュリティー管理に対策が必要で、通常勤務者の管理に加え、煩雑で複雑なマネジメントが要求されます。

テレワークのデメリットとは

 もちろんデメリットもあります。

 勤務時間が不規則になりがちで、長時間労働の温床になるなど、時間管理を自分で行わなければなりません。通勤回数が減ることで運動不足になる可能性もあります。

 今回の新型コロナショックは、子どもの相手をしなくてはならない子育て女性の多くが、「仕事に集中できない」との声を上げています。また、会社に出勤しなくて済む反面、社員とのコミュニケーションが不足する面も否めません。

 テレワークにはこのようなデメリットもありますが、メリットも大きいことから、徐々に広がっていくことでしょう。

テレワークの先駆的取り組みとして話題を集めた、和歌山県白浜町の「白浜町ITビジネスオフィス」。東京に本社を構えるグローバルIT企業のサテライトオフィスが集積(画像:百瀬伸夫)



 2017年の総務省「テレワーク先駆者百選総務大臣賞」に選ばれた企業は、ひとり当たりの残業が約6割、過重労働者(月40時間以上の残業者)も約6割減少し、ワークライフバランスは50%以上向上しました。

 まだ、一部の企業だけの取り組みと思われがちですが、2017年の同省調査によれば、わが国の企業におけるテレワークの導入率は13.9%でした。また、テレワーク導入企業のうち在宅勤務の導入率は29.9%、モバイルワークの導入率は56.4%、サテライトオフィスの導入率は12.1%となっています。

 また、テレワークについて、その認知状況を調べたところ、回答者の69.2%から、テレワークという言葉を聞いたことがあるという結果が得られました。

 さらに、テレワークの利用意向に関しては、「現在利用していないが、積極的に利用したい」と「現在利用していないが利用してみたい」を合わせた利用に前向きな回答は、20代の51.8%が最も高く、年齢が若くなるほど高くなることが明らかになっています。

 テレワークには地域に合った取り組みがあり、明確な定義はないものの「地方型」と「都市型」があるように思います。地方型は在宅勤務に、都会型はモバイルワークに力点を置いている点ではないでしょうか。

地方創生モデルを支えるテレワーク

 長野県塩尻市は市内在住のパソコン経験者を募集し、登録された勤務経験のあるママさんワーカーに、塩尻振興公社が企業から集めた仕事の「切り出し(アウトソーシング)」を、インターネットを通じてテレワーカーに振り分け、成果を挙げています。

 さらに、自宅にネットワーク環境がない場合にも、近くのサテライトスペースで仕事ができる環境を整えています。

 最近はワーカーのスキルも向上し、デザインや設計などの高度な仕事も可能になったことで、仕事を切り出す企業も増え、近隣市町の自治体とも連携し、活動規模を拡張しています。

長野経済研究所を主な提案者として、長野県、塩尻市、富士見町、王滝村、信州大学、諏訪東京理科大学、一般企業が参加したテレワーク推進のための「住みよい信州わーく2(わーくわーく)プロジェクト」(画像:塩尻市)



 仕事が少ない地方でもこのような方法で、都会とのテレワークにより就労を可能としており、地方創生モデルとして注目を集めています。

テレワークの真の恩恵とは

 一方、都市型の特徴はモバイルワークです。

 総務省の調査でも明らかですが、在宅勤務の2倍規模でモバイルワークの導入が進んでおり、東京都心は会社以外でも仕事ができるコワーキング環境が整いつつあります。

 鉄道各社も主要駅前に開設する動きを加速させ、さらにコワーキングスペースを全国的にネットワークする動きもある中、都心に通う必要が減り、また出先から会社に戻らなくても仕事を終えることが当たり前のようになるのは、そう遠くはないでしょう。

 2019年5月に開設した小田急線「黒川駅」前のシェアオフィスを核とした複合コワーキング施設「ネスティングパーク黒川」(川崎市)の宣伝文句は「まだ都心で働きたいですか」というショッキングなものでした。

「ネスティングパーク黒川」の外観と所在地(画像:(C)Google)

 テレワークの真の恩恵は、テレワークによって余裕が生まれた時間をいかに有効に使うかがポイントになるでしょう。

 スポーツやレジャー、勉強や資格取得などの自己投資、地域活動などさまざまですが、仕事以外の行動から得られる経験や知見は、後の人生に大きく貢献することになります。仕事関係は出会えない多様な人たちとの接点や会話を通じて“人間力”が鍛えられ、仕事の質の向上に大きく影響します。

 繰り返しになりますが、テレワークは今回の新型コロナウイルス感染拡大の防止策のひとつとして急速に広まりました。多くの人が実際にテレワークに参加・体験する中で、テレワークが再認識される機会にもなりました。

 在宅勤務の一斉導入が難しいのであれば、まず東京ならはの「都市型」テレワークから始めて、感染拡大の抑止に成果をもたらし、働き方改革の質的向上につなげてほしいと思います。

関連記事