喫煙者と非喫煙者の「溝」は埋まる? 4月「受動喫煙防止条例」施行前調査を振り返る

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喫煙者と非喫煙者の「溝」は埋まる? 4月「受動喫煙防止条例」施行前調査を振り返る

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稲垣昌宏

ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員

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2020年4月1日から東京都で全面施行される受動喫煙防止条例。そんな状況下で、首都圏の喫煙・禁煙に対する意識は変わりつつあるのでしょうか。ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員の稲垣昌宏さんが解説します。

喫煙制限で飲食店はどう変わる?

 2020年4月、受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が全面施行されます。東京都はさらに、受動喫煙防止条例も施行。これで飲食店での喫煙が大幅に制限されることになります。

 一説には都内の8割以上の飲食店が禁煙となることが想定されているため(専用の喫煙スペースを除く)、カウンター席に座ったら隣の人がたばこをスパスパーーという光景は過去の話になる日が遠くないかもしれません。

条例施行後、たばこが人々の視界に入ることは少なくなる(画像:写真AC)



 筆者が上席研究員を務める、リクルートライフスタイル(千代田区丸の内)の外食市場に関する調査・研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」は、飲食店での喫煙制限が、消費者の店選びや「会社・仕事関係」の宴会・飲み会への参加意向にどのように影響しそうかを2020年1月に調査しました。

喫煙率が最も高いのは首都圏

 まずは前提となる喫煙の状況についてですが、喫煙者の割合は全体で17.0%でした。そのうち12.3%が主に(紙巻きなどの)たばこの喫煙者、4.7%が主に電子たばこ・加熱式たばこの喫煙者となっています。

「喫煙習慣」に関する調査(画像:リクルートライフスタイル)

 性年代別は、40代男性の喫煙率が最も高く28.0%、次いで50代男性が26.1%、30代男性が25.8%となっており、全体としては女性よりも男性の喫煙率が高い傾向にあります。

 また圏域別は、規制が最も厳しくなる東京都を含む首都圏の喫煙率が最も高く、18.1%となっています。

「禁煙にこだわる」人は56.9%

 まず、これまでの飲食店を選ぶ際の喫煙環境について、喫煙・禁煙にどのくらいこだわりがあるかを聞いてみました。

「外食する飲食店の喫煙環境」に関する調査(画像:リクルートライフスタイル)

 全体は、飲食店が喫煙できることに「非常にこだわる」「ややこだわる」の「喫煙こだわり派」が計16.1%。

 逆に飲食店が禁煙であることに「非常にこだわる」「ややこだわる」の「禁煙こだわり派」が計56.9%という結果で、過半数が「禁煙こだわり派」となっています。

 ただ喫煙習慣別に見ると、喫煙者は「喫煙こだわり派」が計46.4%と全体よりもはるかに多く、非喫煙者は「禁煙こだわり派」が計67.3%と、こちらも全体平均よりも多い結果となっています。

 また、喫煙者は飲食店の喫煙環境が「どちらでもよい・気にしない」も47.0%と多く、吸える・吸えないにこだわらない人も一定数いることが分かりました。

喫煙できなくなる実感がまだない?

 次に2020年4月からの法令改正・条例等により、今までより飲食店で喫煙しづらくなることを示した上で、4月以降の飲食店選びで喫煙・禁煙にどのくらいこだわるつもりかを聞きました。

2020年4月の健康増進法改正以降の「外食する飲食店の喫煙環境」に関する調査(画像:リクルートライフスタイル)



 全体は、飲食店で喫煙できることに「非常にこだわる」+「ややこだわる」の「喫煙こだわり派」が計15.3%。逆に、飲食店が禁煙であることに「非常にこだわる」+「ややこだわる」の「禁煙こだわり派」が計58.9%。喫煙習慣別は、喫煙者は「喫煙こだわり派」が計40.7%、非喫煙者は「禁煙こだわり派」が計69.3%となっています。

 また、喫煙者は飲食店の喫煙環境が「どちらでもよい・気にしない」が51.1%でした。前述のこれまでのこだわりと比べると、どの数値もいくぶん「禁煙寄り」の人が多くなる傾向ですが、東京都などは飲食店の大半が規制を受けることと比べると、大幅な数字の変化とはいえないかもしれません。

 4月以降に多くの飲食店で喫煙できなくなることについて、現時点でまだ実感できておらず、これまでとあまり選び方を変えるつもりがない人が多いようです。

宴会・飲み会の在り方は変わるのか

 今回の調査は、喫煙者と非喫煙者で飲食店選びにおける喫煙環境へのこだわりが大きく違うことがわかりました。続けて、4月以降に両者が存在する「会社・仕事関係」の宴会・飲み会の在り方に変化が起こる可能性について聞いてみました。

「会社・仕事関係の宴会・飲み会への参加」に関する調査(画像:リクルートライフスタイル)

 これまでに、喫煙であることを気にして「会社・仕事関係」の宴会・飲み会への「参加をためらったことがある」人が16.1%いました。性年代別は、最多は40代女性で20.6%。次いで30代男女が同率の19.4%、さらに20代女性も18.7%でした。

 喫煙が嫌で、「会社・仕事関係」の宴会・飲み会への参加をためらったことのある人はどうやら一定割合いるようです。

会社の宴会への参加に前向きになる人も

 次に、4月以降に飲食店での喫煙環境が変わることを示して、「会社・仕事関係」の宴会・飲み会への参加意向に変化があるか聞いたところ、「今後は参加したいと思う」人が10.4%、「今後参加したいと思わない」人が5.7%でした。

 参加をためらったことがある人の約3分の2に、参加意向があるということになります。

 性年代別は30代男性で13.8%、30代女性で12.6%が「今後は参加したいと思う」と回答しており、他の性年代よりも参加に前向きという結果が出ました。

「会社・仕事関係の宴会・飲み会への参加」に関する調査(画像:リクルートライフスタイル)



 今回の飲食店での喫煙環境の変化は、喫煙者にとってはかなりの忍耐が必要な変化になりそうですが、「会社・仕事関係」の宴会・飲み会の参加意向には、プラスの影響を及ぼす可能性が示されました。

 喫煙者と非喫煙者には、目に見えない溝がありそうだと日ごろから感じていましたが、今回の法改正等をきっかけに、心理的な溝が埋まることを願います。

■調査概要
調査方法:インターネットによる調査
調査対象:20~69歳の男女、首都圏は東京都(一部除外)、神奈川県(一部除外)、埼玉県(県西の一部除外)、千葉県(県東、県南の一部除外)、茨城県の一部に在住(おおむね90分通勤圏)者が対象
調査期間:2020年1月6日(月)~2020年1月15日(水)
有効回答数:1万422件(首都圏5965件、東海圏1592件、関西圏2865件、各ウエィトバック後件数)

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