次回は特別編「わたナギ」 なぜ田所はメイを第2話で「西麻布」のバーに誘ったのか

大好評のうちに最終回を迎えたTBSテレビ系ドラマ「私の家政夫ナギサさん」。横浜が主な舞台の同作ですが、法政大学大学院教授の増淵敏之さんは、ほんの少しだけ登場した港区西麻布のバーに注目しました。その店がドラマに与えた影響とは?


「逃げ恥」をもしのぐ平均視聴率を記録

 TBSテレビ系ドラマ「私の家政夫ナギサさん」が2020年9月1日(火)で終わり、「ナギサさん」ロスも囁(ささや)かれています。それはやはり結果を出したテレビドラマならではの現象でしょう。

 最終回の視聴率も2016年10月期の「逃げるは恥だが役に立つ」の20.8%に次いでTBS系「火曜ドラマ」枠としては第2位の19.6%を記録、全話で視聴率ふた桁、平均でも15%を超え、「逃げるは恥だが役に立つ」の14.5%をしのぎました。

 TBSは今期の「半沢直樹」「MIU404」など、最近は絶好調のようです。もともと1970年代には「ドラマのTBS」と言われた時代もあり、本来の状況にようやく回帰したのかもしれません。

ドラマ「私の家政夫ナギサさん」メインビジュアルのスクリーンショット(画像:TBSテレビ)



 さて「私の家政夫ナギサさん」は、多部未華子演じる製薬会社でMR(医療情報担当者)としてバリバリ働くキャリアウーマンの相原メイが、大森南朋演じる「おじさん家政夫」の鴫野ナギサや瀬戸康史演じるライバル会社のMRと出会い、自分の人生や幸せを考えるようになっていく日々を描いています。

 最終回では大団円という形で、メイとナギサは結婚します。家事の苦手なメイとしては最高のエンディングでもありました。

 このドラマのロケ地に注目してみると、メイの自宅は横浜市営地下鉄ブルーラインの仲町台(横浜市都筑区)という設定のせいなのか、横浜が多くのロケ地になっています。ただ筆者(増淵敏之。法政大学大学院教授)が着目したのは、第2話で、メイと田所が初めてふたりで行ったおしゃれなバーです。

 筆者もかつて何度か足を向けたことのあるバーでした。その店は「ウォッカトニック」(港区西麻布)といいます。

しゃれたバーなら西麻布だった時代

 1980~1990年代の西麻布といえば、隠れ家的なバーの集まるエリアでした。

 最近はコロナのせいもあって、なかなか西麻布に赴く機会がないのですが、「私の家政夫ナギサさん」に出てきたバー「ウォッカトニック」を見て、懐かしい気持ちになりました。そして、ふとバーの街になった西麻布に思いをはせました。

 筆者がよく行った1990年代の西麻布といえば交通の便が決して良くなく、大抵、最寄りの場所からタクシーで行ったという記憶があります。知っている人にあまり会いたくないとき、当時の西麻布は最適でした。

作中でメイと田所が訪れた西麻布「ウォッカトニック」のシーンのスクリーンショット(画像:TBSテレビ)



 現在でもこのかいわいのバーを、多くの芸能人や文化人が利用していると聞きます。さすがに1980~1990年代とは周囲の景観も様変わりしていますが、それでも隠れ家的なバーは数多くあります。

 さて西麻布は地名の通り、麻布地区の西を指します。

 エリア内にある西麻布交差点は六本木通りと外苑(がいえん)西通りが交差し、この交差点に設置されている六本木通りの陸橋は、霞町(かすみちょう)陸橋と命名されています。

 そう、1967(昭和42)年の町名改正まで、現在の西麻布1~3丁目、六本木6、7丁目の一部は「霞町」と呼ばれていました。西麻布という地名は町名改正以降のものになります。

飲食・歓楽街へと変貌を遂げた歴史

 都電が東京を縦横に走っている頃、西麻布交差点にあった霞町駅は2路線が交差する乗換駅でした。都電の時代は西麻布もそれほど交通の便が悪かったわけでもなかったようです。

 現在、身の回りで西麻布のことを霞町と呼ぶ人はほとんどいませんが、過去の記憶をたどれば年配者の中にはそう呼んでいる人が確かにいました。

 バブル前の1985(昭和60)年に、西麻布霞町交差点にアイスクリームの「ホブソンズ」が出店、1990(平成2)年に西麻布4丁目の外苑西通り沿いに「ザ・ウォール」というディスコもでき、西麻布かいわいはかつての住宅街から飲食・歓楽街へと変貌を遂げていきます。

 筆者が当時よく行った店には、1981(昭和56)年に開店したロックバー「レッドシューズ」もありました。2000(平成12)年には日米首脳による小泉・ブッシュ会談(2002年)で有名になった「権八 西麻布店」も開店、さらにその流れが加速していきます。

2002年の小泉・ブッシュ会談で有名になった「権八 西麻布店」(画像:権八 西麻布店)



「ウォッカトニック」が西麻布に開店したのは、1986(昭和61)年。1989(平成元)年には南青山に移転し、数年して西麻布交差点近くのビル地下に移りました。

 現在ではオーナーも変わりましたが、オーセンティックバーの草分け的な存在でした。

 やはり老舗ということもあり、西麻布ローカルカクテルで有名な「52番」はこの店が発祥、そのほかにもナンバーが名前になっているカクテルも数多くあります。

 また20年以上もレシピを変えていないというカレーライスも、このバーの名物のひとつになっています。

 もうひとつ注目すべきなのは「ウォッカトニック」に務めていたスタッフが、やがて独立開業するケースが多いことです。のれん分けに近いものかもしれません。

数々のバーが西麻布に集まった理由

 西麻布エリアに独立開業することが多いようですが、シリコンバレーのようなスピンオフモデルに近いでしょう。

 大抵の客は1軒のバーで終わらないこともあり、店の選択肢が多いということでの集積の効果もあります。

 また同じエリアにバーが多いということでの競争も生じるため、カクテルを始めとしたメニューや店舗デザインなどにおいて、一定のイノベーション効果も生じます。

恋愛ドラマに欠かせない「隠れ家的」空間

 さて「私の家政夫ナギサさん」は、2020年9月8日(火)に「新婚おじキュン!特別編」が放送されることがサプライズで発表されました。

 特別編では、本編のスペシャルダイジェストに加え、メイとナギサさんの新婚生活や、田所ら登場人物のその後が描かれるとのことです。「ナギサさん」ロスの人は必見です。

 先にも触れたように、本作のロケ地は横浜が中心になっています。

 しかし、そこにふと登場した「ウォッカトニック」と西麻布は、その隠れ家的な店のムードによって、知り合って間もないメイと田所の距離を少しだけ縮める役割を果たしたように思います。

 残念ながらふたりは結ばれないのですが、時に恋愛ドラマではこういう隠れ家的な空間が、小道具として重要な役割を果たします。

 模範的なニュータウンともいえる横浜北部の町では、なかなか醸し出しきれない雰囲気が出ていたように思います。

ドラマの“脇役”に注目する楽しみ

 このように、ドラマの中にちょっと顔をのぞかせた、メインのロケ地以外の場所に注目してみるのも楽しいものです。

 ドラマの中で、主役ではなく、脇役に注目するのと同じ感覚かもしれません。

 これを機に、筆者も時間を見つけてオーセンティックバーのドアを久しぶりに開けてみようと思っています。


【画像】9月8日放送!「特別編」の解禁カットを見る

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