よみがえる池袋 2014年「消滅可能性都市」の指定からどのように挽回したのか

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よみがえる池袋 2014年「消滅可能性都市」の指定からどのように挽回したのか

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百瀬伸夫

IKIGAIプロジェクト まちづくりアドバイザー

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かつて「暗い、汚い、怖い」といったイメージだった池袋が近年、大きくその様相を変化させています。その背景には2014年の「消滅可能性都市」指定からの逆襲がありました。IKIGAIプロジェクト まちづくりアドバイザーの百瀬伸夫さんが解説します。

「消滅可能性都市」脱却が始まった

 もし、あなたの住んでいるまちが将来消滅してしまうかもしれないと言われたら、あなたはどうしますか? きっと驚きと不安から、引っ越してしまいたいと考える人が多いのではないでしょうかーー。

 そのようなことが、豊島区で実際に起きてしまいました。

 豊島区は2014年、東京23区内で唯一「消滅可能性都市」に指定されてしまったのです。「消滅可能性都市」とは、2011年5月に発足した政策発信組織「日本創生会議」が打ち出した、

「少子化や人口移動などが原因で将来消滅する可能性がある自治体」

のことで、20~39歳の女性の数が2010年から2040年までに5割以下に減るなどの基準があります。

池袋駅東口の様子(画像:(C)Google)



 豊島区の中心は池袋です。池袋駅の1日あたりの乗降客数は264万人で、首都圏で一、二を争う巨大ターミナル。また東武・西武の百貨店やパルコ、ルミネ、サンシャイン60といった商業施設も多く、都内有数の繁華街となっています。それにもかかわらず、なぜ豊島区は消滅するかもしれないのでしょうか。

なぜ「消滅可能性都市」に選ばれたのか

「消滅可能性都市」に選ばれた後、豊島区は要因を分析しました。その結果、

・人の転出入が多く定住率が低い
・単身世帯の割合が高い

といったことが浮かび上がったため、すぐさま緊急対策会議を開催。翌2015年には「豊島区国際アート・カルチャー都市構想」を策定し、持続可能な都市を目指した新たな改革に取り組み始めたのです。

 魅力ある都市の実現には、「暗い、汚い、怖い」などの負のイメージを一掃し、改革の柱に四つの公園を位置づけました。

 2015年、最初に着手したのが池袋駅から徒歩5分の南池袋公園(豊島区南池袋)です。

南池袋公園の様子(画像:(C)Google)

 薄暗く雰囲気の悪かった公園が、ピクニックも楽しめる青々とした広い開放的な芝生広場として人気スポットになり、正面には豊島区庁舎が入るタワーマンションがそびえ、池袋の景観も大きく変わりました。

 久々に公園を訪れてみると、オープン時のように公園広場はベビーカーの親子連れでにぎわい、女性が暮らしやすく、定住率を上げる“まちづくり”の第1歩が着実に実っていること良くわかりました。

八つの劇場と35ブースの女性用パブリックトイレ

 豊島区はこの成功を機に2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、2016年、大規模再開発事業を急ピッチで進めています。開発の基本コンセプトは、「まち全体が舞台の誰もが主役になれる劇場都市」です。

 今回は2019年から2020年にかけて完成・リニューアルオープンのホールやシネコンなど、八つの劇場が入る「Hareza(ハレザ)池袋」(豊島区東池袋)をご紹介します。

中池袋公園から見る「Hareza 池袋」の建物群。左が建築中の「Hareza Tower」、中央は「東京建物 Brillia HALL」、右は「としま区民センター」(画像:百瀬伸夫)



「Hareza 池袋」は池袋東口の旧豊島区役所・旧豊島公会堂跡地などの再開発でできた、「Hareza Tower」「東京建物 Brillia HALL」「としま区民センター」「中池袋公園」と周辺道路を含めたエリアの総称です。このネーミングは非日常を体験できる「ハレ」の場と劇場、多くの人が集まる場所を意味する「座」を組み合わせたといいます。

 2020年7月のグラウンドオープンに先駆け、2019年11月、「東京建物 Brillia HALL」と「としま区民センター」が国際アート・カルチャー都市構想の中核を担い、プレオープンしました。

安心して使えるトイレを導入したとしま区民センター

「東京建物 Brillia HALL」では宝塚歌劇や歌舞伎、ミュージカルなどを上演する1300席のホールを中心に、アニメ、ゲームなど最先端のコンテンツを発信するエンターテインメント空間や、ネットとリアル、バーチャルとリアルの融合した体験型スタジオ、大階段状のイベント空間など、多様な芸術・文化を楽しむことができます。

 隣接する「としま区民センター」は講演会やレセプション用の多目的ホール、ピアノ発表会や演奏会など自己実現できる小ホール、親子で利用できる「パパママ☆すぽっと」、そして目玉は、日本最大規模の「35ブース女性用パブリックトイレ」があることです。

「外出時で安心して使えるトイレがほしい」という区民の女性たちの意見から生まれたもので、化粧直し専用のパウダーコーナー、着替えが可能なフィッティングコーナーまであり、さらにトイレコンシェルジュが常駐しているのだから驚きです。

「としま区民センター」の女性用トイレコーナーの化粧用パウダールーム(画像:会田道世)

 取材に同行した女性スタッフの感想は、

「ピカピカで清潔感があり、照明器具の上品さ、フィッティングルームのカーテンの高級感はすごい。隣の劇場と連絡通路があり、トイレの数も多いので、区民センター利用者ばかりでなく、隣のホールの人も利用できて便利」

とのこと。また、トイレコンシェルジュの人にお話をうかがうと、「宝塚観劇にいらした人から、今まで見たトイレで一番美しいと太鼓判を押されました」といいます。

きれいなトイレの背景には花王のサポート

 フィッティングルームは観劇前の着替えや、区民センター前にあるアニメ・コスプレ聖地である中池袋公園でのイベント時にも利用されるといいます。

アニメファンの聖地「中池袋公園」。白い建物は「animate cafe」(画像:百瀬伸夫)



 豊島区が「日本一きれいなトイレ」を目指し、花王(中央区日本橋茅場町)のサポートを受けながら作ったパブリックトイレは女性への配慮が行き届き、まちづくりの象徴ともいえそうです。

 そして夏には「Hareza Tower」に、10スクリーン・1700席の大規模シネマコンプレックスとイベントを開催できる階段状の半屋外劇場空間も誕生します。

幸運を運ぶバスも回遊するように

 池袋のまち並みは「消滅可能都市」をキッカケに確実に変わりつつあります。

 今、まちには池袋駅周辺の四つの公園を中心に劇場や主要スポットをカワイイ電気バス「IKEBUS(イケバス)」が回遊しています。車両デザインは「ななつ星 in 九州」を手掛けた水戸岡鋭治氏。赤いキュートな車体の上にフクロウ「イケちゃん」が鎮座し、車内はとにかくオシャレで会員制交流サイト(SNS)映えまちがいなしの内装。時速19㎞で走る車窓からのまち並みも、ゆったり流れていきます。

真っ赤なかわいい「イケバス」が主要スポットを回遊(画像:百瀬伸夫)

「イケバス」10台のうち1台は黄色で、運が良ければラッキー7号に乗れます。まち中で見かけても幸運を呼ぶそうですから、ぜひ一度、一変した池袋のまちを訪れてみてはいかがでしょうか。

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