練馬「光が丘」 謎のインスタント麺専門店と軍用飛行場の追憶

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練馬「光が丘」 謎のインスタント麺専門店と軍用飛行場の追憶

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立花加久

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神風特別攻撃隊の出撃基地にもなった現在の「光が丘」エリア。その近くに全国のインスタントラーメン専門店があります。フリーライターの立花加久さんが紹介します。

歴史の皮肉から生まれた「光が丘公園」

 練馬区の「光が丘」は都内在住の人にとってもなじみが薄く、つい「ひばりが丘」(西東京市、東久留米市埼玉県新座市などをカバーするエリア)と間違えてしまいそうな人も少なくない公園団地エリアです。

笹目通り沿いにある黄色い看板が目印のインスタントラーメン専門店「ラーメン甲子園 居酒屋さくら」(画像:立花加久)



 もともと練馬大根でおなじみの農村地帯だったこの一帯は、1940(昭和15)年に紀元2600年記念事業として、広大な緑地公園造成の計画が進められていました。しかし太平洋戦争開始にともない、急きょ1942年に日本陸軍の飛行場「成増陸軍飛行場」として整備されることになったのです。

 やがて一時は、米軍から「カミカゼ」と恐れられた「特別攻撃隊」の出撃基地にもなり、1945(昭和20)年8月の終戦ギリギリまで、米軍のB29爆撃機へを迎え打つべく帝都防衛の前線としての役割を果たしました。東京に特攻隊の出撃基地があったことを意外に思う人もいるかもしれません。

 主に配備された戦闘機は芳しくなかった戦局を覆す大東亜決戦機として期待された、当時世界最速の四式戦闘機「疾風(はやて)」でした。そして戦後はこの広大な敷地を米軍住宅地「グラントハイツ」として接収されるのでした。

 ちなみにこの住宅地の名称グラントは、現在アメリカの50ドル紙幣にもなっている第18代アメリカ合衆国大統領ユリシーズ・グラントから名付けたもの。グラウンドではなく、グラントなのです。

 この広大な敷地を全面返還されたのが1973(昭和48)年。その翌年から公園の造成を始めて8年後の1981年12月26日に、晴れて開園となるのでした。歴史の皮肉なのか、「光が丘公園」は遅れに遅れたクリスマスプレゼントとして、都民に届けられたのです。

 その広さは60.7ha(60万7000平方メートル)で、日比谷公園の約4倍もある都内でも有数の公園です。当時から植えられた木々は森となり、園内を満喫しようとつい深入りすると、もはや散歩するというより「ハードな里山散策」となるほどです。

公園近くにインスタントラーメン専門店

 そんな光が丘公園からほど近い場所に、黄色い看板を掲げる不思議なお店があります。ここは都内で唯一、インスタントラーメンを調理して食べさせてくれる専門店「ラーメン甲子園 居酒屋さくら」(練馬区高松)です。

球場やグラウンドのほか、バーベキュー広場などさまざまな施設がある都立「光が丘公園」の地図(画像:立花加久)



 光が丘公園を散策して小腹がすいたら、このお店に立ち寄ってみることをお勧めします。店内に入ってまず驚かされるのが、インスタントラーメンの品ぞろえ。北は北海道から南は屋久島、そして沖縄まで、全国のご当地商品があるのです。

 なんでも全国では年間1万種類も袋麺が販売されており、そのうちロングセラーとして生き残るのは数百種類というのです。この店ではそんな中から売れ筋の100種類近くが販売されています。

 そのほとんどの麺はノンフライであり、湯戻したときの生麺の触感が再現されています。スープの完成度もかなりのもので、魚介中心の原材料をぜいたくに使用したものが大半。中にはインスタントラーメンだと気付かないものもあるほどです。

 そんな中から北海道で発売されている、その名も「利尻昆布ラーメン(塩味)」を味わってみました。パッケージに描かれた堂々とした深緑の文字からは、生産者の自信が伝わってきます。

 そして袋の裏には「この商品は即席ラーメンではありません」という、困惑しそうなただし書きがあり、食べる前からインスタントラーメンに対する認識が打ち砕かれるのでした。さらに「お鍋にたっぷりの湯を沸かし麺をゆでてください。(ぬるい湯だと煮くずれします)」と書かれています。

 なんと麺をスープとは別にゆでて、湯切りをしないといけないのです。これは普通のラーメンを作る手間と同じです。

尋常じゃない濃い昆布のだし

 その麺は乾燥に6時間を費やし、本物の利尻昆布を使ったとろろ昆布までついている手間暇かけた本格派。ここまで来るともはや非常識です。

利尻昆布のとろろ昆布も付いた本格派、店頭では790円で食べられる(画像:立花加久)



 なんでも利尻の町おこしにと考案されたのがこのラーメンで、地元でも200円前後で販売されているらしいのですが、あまりのうまさに道外での人気が高まり、地元でも品切れがちとのこと。

 さて実際に食べて見ると、これがもうやっぱり圧巻。尋常じゃない濃い昆布のだしが舌の上にうま味を躍らせます。麺も生麺と変わらぬ細いストレート麺で、つるつるとのど越しも良いのです。

 寒い冬にはこの本格スープをベースに海鮮鍋を作って、〆にこの麺を投入するのもアリなのでは――と広大な光が丘公園並みに可能性の広がりをみせる1品なのでした。

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