江戸城天守閣のフル活用が、日本の「観光公害」を解消する

訪日外国人旅行者が増加するにつれ、深刻化するオーバーツーリズム。しかし東京のある場所をリニューアルすれば、それを解消できると旅行ジャーナリストの内田宗治さんは言います。いったいどの場所なのでしょうか。内田さんが解説します。


オーバーツーリズムという名の「公害」

 訪日外国人旅行者が、相変わらず増加傾向にあります。こう述べると、

「2019年は3188万人と先日発表があったけれど、8月以降はラグビーワールドカップがあった9月を除いて、前年同月比でマイナス(12月データは未発表)。年間を通しての前年比の増加率も2.2%と大幅に縮小となったのに、何を言っているんだ」

との声が聞こえてきそうです。

 ですが、これはひとえに韓国人の対日感情悪化で韓国から日本への旅行者が激減したことによります。2019年11月の例では韓国から日本への旅行者は前年同月比マイナス65%、約38万人もの大幅な減少でした。

 韓国からの旅行者を除いた11月の訪日外国人旅行者総数は223万6300人で、前年同月比20.1%も増加しています。トレンドとしては、依然として増加傾向にあるのです。

皇居東御苑の天守台の上から本丸跡の芝生を望む。2019年5月撮影(画像:内田宗治)



 今回は、今後新たに訪日外国人旅行者に人気となる観光地について考えてみたいと思います。この問題は、実は重大な問題の解決策と関係しています。訪日外国人旅行者が特に多い京都など、いくつかの地域で問題となっているオーバーツーリズムとの関係です。

 オーバーツーリズムとは、観光客の急増により地元民の生活などに悪影響が出ることで、「観光公害」とも呼ばれます。市民が利用する路線バスも名所も観光客で大混雑、もぐりの民泊の存在や周辺への深夜の騒音、路上へのゴミ捨て、京都では舞妓(まいこ)さんへの迷惑行為などが話題となっています。

 個別に解決すべき問題も多いのですが、根本的解決策として、魅力あるスポットを複数創出し、観光客の一極集中を避け分散を促すことが不可欠です。

 訪日外国人旅行者が最も多く訪れる都市は東京です。一例としてここに有力な観光スポットを創出すれば、旅行者の分散にかなり役立つはずです。もちろん東京だけでは足りず地方各地に訪日外国人旅行者を誘致する必要もありますが、今回は東京の例を提案したいと思います。

ほとんどの見学者が知らない天守台の存在

 それは東京のど真ん中に広がる皇居(千代田区千代田)、その中にある皇居東御苑の整備、さらにいえば同地での「江戸城天守閣や大奥の復元」です。

 皇居東御苑は、2019年11月、新天皇の即位にあたり大嘗宮(だいじょうきゅう)が造られ、そこで一世一代の大嘗祭が行われた場所です。その後大嘗宮の一般公開が行われ、18日間の期間中に78万2000人もの人が訪れました。

 筆者(内田宗治。旅行ジャーナリスト)も出掛けましたが、多くの見学者が大嘗宮の中の写真を撮ろうと押し合いへし合いといった状況の中、ほとんどの人が、そのすぐ傍らにある高さ約10mの天守台に無関心だったのが気になりました。

一般公開時の大嘗宮。中には入れないため、のぞくようにして写真を撮る人で大混雑。2019年11月29日撮影(画像:内田宗治)



 天守台とは城の天守閣が乗っていた台座で、江戸時代の初め頃、ここには徳川家康などが建てた5重5階建て(諸説あり)の壮大な天守閣があったのです。なお学術用語では、「閣」の字を入れず「天守」が正しいとされます。

 この江戸城天守閣(初代)は、姫路城や大坂城のそれよりも高かったとされ、天守台の高さ約10m以上、建物の高さ約45~48m(推定)で、江戸中を眼下に見渡せるものでした。

 最初の天守閣は、徳川家康存命時の1607(慶長12)年に造られました。その後2度建て直され、2代目天守閣は2代将軍秀忠時代の1622(元和8)年、最後は三代将軍秀光時代の1638(寛永15)年に築かれています。

 1657(明暦3)年、江戸市中の60%が灰となった明暦の大火で天守閣は焼失。その後再建されることなく、現存する富士見櫓(やぐら)が天守閣がわりとなってきました。

 現在天守台だけが残っているのですが、ごく小さな解説板しかないので、それに皆気づかないようでした。

約500畳の大広間を誇った江戸城の本丸御殿

 この度造られた大嘗宮はしきたり通りに取り壊されますので、通常の東御苑の状態に戻ります。その状態を述べてみましょう。

 大手門を入り、鉄砲百人組が昼夜警護にあたったという百人番所などを見ながら坂道を上って行くと、本丸にたどりつきます。

広々とした本丸跡。写真奥に建てられた大嘗宮の一般公開時の様子。2019年11月29日撮影(画像:内田宗治)



 本丸には江戸時代、本丸御殿が広がっていました。南側から順に、将軍への謁見(えっけん。身分の高い人に会うこと)や役人の執務が行われた「表」、将軍の生活空間などだった「中奥」、その先に将軍の正室と奥女中が最盛期には1000人以上も住んだという「大奥」がありました。

 約500畳の大広間や、忠臣蔵で知られる松の廊下(全長約50m)があったのも本丸御殿です。大奥のさらに先に天守閣がそびえていました。ちなみに今回大嘗宮が設けられたのは、本丸の中でもちょうど大奥があったあたりでした。

 本丸には江戸時代、こうした建物がびっしりと建てられていたわけです。ところが現在の状態は、建物のほとんどない殺風景な大広場といった風情です。目立つものといえば、がらんとした中に、あるじを失った天守台が寂しげに残るだけ。

 これだけ歴史的に重要でドラマがあった場所がそうした状態なのは、なんとも残念な気がします。

 以前の記事「意外と日本人だけ知らない 訪日外国人旅行者に人気の都内スポット、いったいどこ?」で述べたことですが、東京都の調査によると訪日外国人旅行者が東京でしたいことは、

1位:日本食を楽しむ
2位:自然を感じる(四季の変化、桜、公園ほか)
3位:伝統的な街並み・遊覧

でした。そのため、「自然や伝統を感じる」新宿御苑と明治神宮が人気のスポットとなっています。

皇居東御苑の持つ恵まれた立地環境

 伝統(歴史的価値)の面でも自然の面でも、皇居東御苑は都内のみどころの筆頭格です。そこに江戸城天守閣が復元できれば、訪日外国人旅行者に大人気となるのは間違いないことでしょう。

 皇居東御苑は、キャパシティーの大きさに加え、東京駅方面からの大手門、竹橋駅方面からの平川門など複数の出入り口があります。町歩きの回遊性も備えています。周囲は大通りとビル街なので、近隣住民に迷惑がかかるなどオーバーツーリズムとも無縁です。

 近年でも天守閣の復元運動が行われてきましたが、その費用に数百億円かかるとのことで、実現されてきませんでした。

 ですが、ここに来て、訪日外国人旅行者の激増で社会環境が変わってきたと思います。観光庁の2020年度の予算が約680億円で、その大半が訪日外国人旅行者プロモーションと受け入れ環境の整備関連です。文化庁の観光戦略実行プランや東京都の観光関連予算からの支出を加えてもいいでしょう。これらの一部を使いながらでも、天守閣などを復元する形で新たな観光スポットを創出できるのではないでしょうか。

 少なくとも、本丸の表御殿や大奥、天守閣などでの武士や女中たちの日常がわかるような最新映像技術を駆使した施設などを造ってほしいものです。

皇居東御苑、天守台の近く、大奥があった付近に建てられた大嘗宮を見学する人々。2019年11月29日撮影(画像:内田宗治)



 江戸城天守閣をフラッグシップ(最も重要な象徴的存在)として、地方にも歴史・自然などに則したいくつかの観光ポイントを創出し、それらを結ぶルートも提案していく。これが訪日外国人旅行者を増やしながら、オーバーツーリズムを解消させる有力な策だと思います。

 また現在の状態でも、皇居東御苑を訪れたことがない人は、ぜひ一度出掛けてみることをおすすめします。皇居東御苑は、2020年2月末まで、大嘗宮解体工事のため、本丸地区一部に立ち入り制限があります。


【画像】あまりの人数にビックリ! 一般公開時の「大嘗宮」の様子を見る

画像ギャラリー

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