外国人スタッフについ「日本人っぽさ」を求めてしまう私たちの悲しき島国根性

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外国人スタッフについ「日本人っぽさ」を求めてしまう私たちの悲しき島国根性

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淺海一郎

内定ブリッジ代表、日本語教師

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外国人雇用が拡大するなか、難しい課題のひとつとして挙げられるのが「日本人上司と外国人スタッフとの関係構築」です。外国人スタッフをマネジメントする側の日本人上司や企業が改善すべき点とは何でしょう。内定ブリッジ代表の淺海一郎さんが解説します。

「日本人上司側の課題」を取り上げた、注目の調査結果

 外国人雇用に関するニュースが増えるなか、大手人材会社のシンクタンク・パーソル総合研究所(千代田区一番町)は2019年12月、「外国人部下を持つ日本人上司の意識・実態調査」を発表しました。

 今回の調査は、外国人スタッフ側ではなく「日本人上司側が抱える課題」について分析している点にその面白さがあります。

コミュニケーションがうまくいかない日本人と外国人のイメージ(画像:写真AC)



 私(淺海一郎。内定ブリッジ代表)は現在、経済産業省「外国人留学生の就職や採用後の活躍に向けたプロジェクト」政策検討委員会の委員として、また日本貿易振興機構(JETRO)新輸出大国コンソーシアム(高度外国人材の活用)エキスパートとして、外国人雇用を進める企業の支援をしています。

 支援は主に、ハード面(社内体制)の整備とソフト面(社内コミュニケーション、外国人マネジメント)の研修支援、つまり人材採用後の定着支援です。これら定着支援を政府関係機関や地域自治体などとともに全国で行っているほか、外国人雇用や海外事業を成功させたいと真剣に取り組んでいる個別の企業に対しても、継続的なコンサルティング支援をしています。

 支援対象企業の業種はさまざまですし、企業の規模も外国人スタッフの採用背景、採用手法も多様です。本稿では、前述の調査データと私の知っている企業の実情とを比べ、関連のあるところにポイントを絞ってお話ししたいと思います。

 外国人雇用に興味のある人、共働社会・共生社会などに興味のある人はもちろん、外国人雇用にモヤモヤとした抵抗を感じている人などにも、広く読んでもらえるとうれしいです。

見落とされやすい、「日本人側が気づいていないこと」

 さて、「外国人雇用を進める企業が実施する研修」と聞いたとき、皆さんは直感的にどのような研修を想像するでしょうか。

 その研修には、誰が参加していますか? 一部の人は、おそらく「外国人スタッフ向けの研修」を想像したことと思います。外国人が日本で働くのだから、彼らが知らないことを(われわれ日本人が)教えてあげないといけない、と考えてのことだと思います。

 もちろんそれは大切なことです。そうした目的の研修では、日本人側・企業側が学ぶことは特になく、外国人が何かを学ぶということが圧倒的に優先されています。

 しかし、「日本人が気づいていないこと」と「外国人が気づいていないこと」、つまり双方が気づいていないことを中心に扱うことが大切なのです。

外国人スタッフを受け入れる職場で、コミュニケーションギャップが生じる要因の図式化(画像:淺海一郎)



 オフィスのコミュニケーションについて考えるとき、一般的に多くの日本人は日本人上司のストレスについて「外国人の日本語が上手になり、彼らが日本文化を理解さえすれば問題がなくなる」と考える傾向にあります。

 しかし実際のケースを分析すると、お互いが意識していないことやお互いが違う理解をしていることから、オフィスでささいな問題が起きたり人間関係が悪化したりしている企業が、とても多いのです。

研修制度の不十分さが、「定着率の悪化」を招く

 この傾向と呼応するように、日本語や日本のビジネス文化を学ぶ外国人スタッフ向けの研修サービスの提供は増加傾向にある一方で、「外国人スタッフと一緒に働く日本人上司向け」、また「外国人スタッフを受け入れる企業側向け」の支援サービスは全体としてまだまだ少ない現状にあります。

 そしてこのことは、今回のパーソル総合研究所の調査でも、外国人スタッフをマネジメントする日本人上司に対する「企業のサポートの少なさ」という形でも表れています。会社で研修や相談窓口といった各サポートを受けている日本人上司の割合は、いずれも2割程度に過ぎません。

外国人部下を持つ日本人上司が会社からサポートを受けている割合(画像:パーソルHD)



 こういったサポートの必要性を、私は全国で感じています。外国人雇用に関する企業向けセミナーに出席し、講演後に参加企業の担当者たちと意見交換すると、決まって彼らは「(外国人スタッフの、職場への)定着に不安がある」と口々にこぼすからです。

 もちろん、当社が講演を担当した東京都主催の都内企業向けセミナーも例外ではありません。ここで言う不安というのは、「すぐ辞めてしまうのではないか」という外国人スタッフへの不安もありますが、もうひとつは、自社の受け入れ体制に対する不安という意味で、そう明言する企業が実際にとても多いのです。

 特に外国人雇用に慣れていない企業の一部は、外国人雇用に際して「自分たちができることを何かすべきだろう」という認識ではいるものの、一方で「何をどうしたらいいのかわからない」という思いが強いと私は感じています。

日本人上司たちが抱く、高過ぎる「理想」と「期待」

 さて今回の調査では、外国人スタッフを管理する日本人上司側の分析が中心になっているのですが、そのなかに、日本人上司の「外国人材の受け入れ時のショック」について触れた部分があります。

 ここでいう「ショック」とはネガティブな意味でのショックのことです。例えば「想像以上に外国人材は『日本の常識』が通じなかった」と感じ、否定的に捉えている日本人上司は、調査対象者の41.6%にのぼります。

 これを言い換えると、彼らは外国人スタッフをマネジメントする上で、「日本の常識が通じてほしい」という期待値を抱いていることが想像できます。要するにこれらのデータは、日本人上司が「外国人スタッフに対して求める期待値と現実とのギャップ」だと読み取れるのです。

外国人部下に対する想定外のギャップ(画像:パーソルHD)



 ストレスを感じている日本人上司側の、外国人スタッフに対する期待とは何か。それは、「不満の中身」を反転させてみると浮かび上がってきます。

 日本人上司が感じている「不満の内容」をいくつか反転させてつないでみると、「自己主張が強くはなく、日本の常識が通じて、昇級の要求をほとんどせず、仕事を教えるのに手間がかからず、コミュニケーションが円滑で、協調性がある」人物ということになります。

 これが、一部の日本人上司が外国人スタッフに求めている期待です。すでに多くの人がお気づきだと思いますが、これだけの条件を満たす外国人スタッフなど、そもそも存在しないのではないでしょうか。つまり日本人上司のストレスの背景には、上司自身が無意識のうちに、外国人スタッフに対して「日本人らしさを期待する」という心理があるということを指摘しておきたいと思います。

過度な期待を捨てることで、次のステップへ行ける

 仮に上司のストレスがこうした「高過ぎる期待値」を要因としているのだとしたら、解決の方法のひとつはとても簡単です。それは、期待値を下げることです。期待し過ぎないことです。

 外国人スタッフに期待し過ぎないという意味は、外国人スタッフは期待できない存在だという意味ではありません。過度な期待をやめ、対価に見合った適度な期待を持つということです。

 つまり上司のストレス原因は、外国人スタッフの働き方だけでなく、上司自身にもあるのです。このことをまずは意識してほしいと思います。――しかし同時に、期待値を下げることは、日本人上司にとって実に難しいことだという点も述べておきたいと思います。

職場で頭を抱える外国人スタッフのイメージ(画像:パーソルHD)



 では、どうしたらいいのでしょう。まず期待値を適正に保つためには、外国人と日本人との客観的な違いを、日本人上司側が冷静に理解し、認識しておく必要があります。

 先ほどの例で言うと、「外国人は日本の常識を知らない」という段階で理解が止まっている状態から「外国人は日本の常識を知らない可能性が高いが、決してわからないわけではない」と認識できる段階に移行する必要があります。

 もしこの段階まで日本人上司が成長できると、この上司は次の段階として「日本の常識の背景を含めて言葉で説明する」という行動が取れるようになります。

「確かにお互い同じ人間ではあるが、国籍や文化が違うと両者にこういう客観的な違いがあるから、この業務は外国人スタッフの視点で考えると、きっと難しいだろう」といった判断ができればこそ、その違いを乗り越えるために「相手がわかるように伝える」という行動がとれるわけです。

 もちろん、こうした認識や行動をできるようになるためには、日本人上司自身が一定の学習をする必要があります。

 パーソル総合研究所の主任研究員、小林祐児さんが指摘する「ナレッジ・マネジメント」(知識の共有化を図ることにより作業の効率化などにつなげる企業マネジメント手法)の必要性に、私も共感する理由のひとつがこれです。だからこそ、日本企業には日本人上司に研修や勉強の機会とその時間を提供してほしいと考えています。

現場の上司が疲弊し、離職さえ考え始めるあしき職場環境

 もうひとつ、日本人上司が外国人スタッフのマネジメントにストレスを抱えているにもかかわらず企業の支援が届かない理由について、日本企業の組織のあり方というハード面から考察したいと思います。

 第一に企業は、外国人雇用に対して決して一枚岩ではありません。

 自社の外国人雇用に関して、日本人スタッフの捉え方が立場やその背景ごとにバラバラだということは、外国人が全国で最も多く生活する東京の企業においても珍しくありません。

 例を示しましょう。人手不足で悩んでいる多くの企業では、経営的判断で、経営者の指示に基づいて人事が外国人採用を進めています。しかし人事は、外国人雇用に積極的に取り組みたいというわけではなく、必要があってそうしているだけです。いわば日本人スタッフの代替として外国人採用を進めています。

 人事担当者のKPI(重要業績評価指標)はあくまで採用人数であり、人数の確保が最優先です。また、日本人と同様に採用を進めるので、外国人スタッフ採用のための最適化を推進するという意識は特にありません。当然、外国人への配慮も希薄です。

 一方、採用が決まった部署で実際に外国人スタッフと一緒に働く日本人の同僚はというと、日本語も話せず仕事もできないのに、なぜ外国人スタッフは私と同じ給料なのだろうと疑問に思っている人がいるかもしれません。待遇が同じ彼らの視点でみると、なぜ外国人スタッフだけが厚遇されているのだろうと感じるわけです。

外国人部下に対するマネジメントの困難さ(画像:パーソルHD)



 このように、日本人スタッフが立場ごとに外国人雇用をバラバラに捉えている職場環境で働く外国人スタッフのやりづらさもさることながら、この環境で外国人スタッフをマネジメントしないといけない日本人上司はどういう状況に置かれるでしょう。

 ただでさえ忙しいなか上からの指示で外国人スタッフの管理業務が増える上に、その業務負担やストレスの大きさについて経営者から本質的に理解されていない恐れさえあります。

変わるべきは「上司」以上に「企業」そのものだ

 人事と現場マネジャーの自分との間に採用人材像のすり合わせもなく、採用されて自分のところに送られてくる外国人スタッフは、期待するスキルのないスタッフが少なくないかもしれません。

 加えて、外国人スタッフのマネジメントが容易ではないにもかかわらず「外国人スタッフに対するマネジメントスキル」自体がマネジャーの評価項目として対象になっていないケースがほとんどです。

 外国人スタッフのマネジメントについて学ぼうとしても、それがそのマネジャー自身にとっての評価(ひいては昇給)につながりにくいのであれば、外国人スタッフに強い日本人上司はますます育ちにくくなってしまいますし、外国人スタッフも日本人上司も、その会社に定着しなくなってしまうのではないでしょうか。

 こうした事態を避けるためにも、外国人雇用を進める企業にはぜひ、外国人を雇用する意義を広く社内で共有し、自社のカルチャーに合った人材を採用することなどに努めていただきたいと思います。

 少なくとも受け入れ側の日本人が、足並みをそろえて外国人雇用に対して前向きなモチベーションを持てるよう、経営者も人事も現場の日本人上司も、組織として外国人スタッフの受け入れ体制を進めていただきたいと思います。

 企業が組織としての体制を整える努力は、外国人スタッフはもとより日本人上司を守るためにも必要なコストです。

厚い信頼を寄せ合うビジネスマン同士のイメージ(画像:写真AC)



 なお、自分の所属する企業がこういった検討段階のさらに前段階にあり、そもそもどういったポイントを見直せばいいのかさえわからないのなら、冒頭で紹介した経産省の委員会が2020年2月に企業向けの「自社点検チェック項目リスト」を公表しますので、それを使ってください。主要な点検項目とその目的、また成功事例企業を合わせて整理してあります。

 外国人スタッフが働きやすい企業は、日本人スタッフにとっても働きやすい職場のはずです。つまり、立場や考えが違っても皆さんのゴールはひとつ。誰もがストレスなく働きやすい組織を作るため、2020年はハード面、ソフト面の両方から社内を点検してみませんか。その先に皆さんの幸せがあると信じています。

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