大田区vs江東区 埋め立て地帰属問題がここまで紛糾しているワケ

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大田区vs江東区 埋め立て地帰属問題がここまで紛糾しているワケ

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小川裕夫(フリーランスライター)

江東区と大田区が長年争う中防の帰属問題について、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。

紛糾のキーとなる、13号埋め立て地とは

 東京湾に浮かぶ「中央防波堤埋立地(中防)」は、帰属未定地です。つまり、どの区でもありません。その理由は、海を埋め立てて造成された土地だから。大田区と江東区が現在、中防の帰属を巡って争っています。

地裁判決で示された中防の帰属(画像:ULM編集部)



 大田区・江東区は主張を譲らず、帰属を巡る話し合いは平行線のままでした。膠着状態を解決するべく、2017年には東京都紛争処理委員が調停案を提示。しかし、両区は調停案に不満を示し、東京の「領土争い」は司法に場を移しました。

 帰属が、ここまで紛糾するのには理由があります。

 それは、以前に埋め立て造成された「13号埋め立て地」が大発展を遂げ、一大商業地になったからです。13号埋め立て地といっても一般の人にはピンときませんが、要するに「お台場」です。

 中防が大田区と江東区で帰属を争っているように、13号埋め立て地も帰属を巡って激しい争いを繰り返した歴史がありました。ただし、13号埋め立て地では「取り合う」争いは起きていません。

 当時の13号埋め立て地は都心からも遠いため、開発に費用を投じても資金が回収できるメリットがない地と目されていました。そのため、13号埋め立て地は各区が自分の土地にするのを嫌がり、相手方に「押し付け合う」争いが生じていたのです。

 東京の副都心であるお台場には大規模商業地が林立し、週末には多くの人出でにぎわいます。また、オフィスビルも立ち並んでいるので、就業人口も急増中です。現在のお台場エリアには、ゆりかもめ東京臨海新交通臨海線と東京臨海高速鉄道りんかい線のふたつの鉄道路線があり、どこに行くのにも便利になっています。13号埋め立て地の造成中は、そうした期待感が薄かったのです。つまり、世間から「あんな遠くにまで、わざわざ出かけない」と思われていた場所だったのです。

 13号埋め立て地が自分の区になれば、その区には管理をする義務が生じます。管理には当然ながら費用が発生します。管理コストに見合ったプラス効果はない。そう判断されて、13号埋め立て地は隣接する区による押し付け合いが始まりました。

お台場の成功で、態度を豹変させた各区

 押し付け合いの結果、13号埋め立て地は江東区・品川区・港区に3区に分割して帰属することになりました。しかし、13号埋め立て地の大部分は江東区になりました。この時点において、江東区は他区から厄介な埋め立て地を押しつけられた区だったのです。

かつて13号埋め立て地と呼ばれていた、お台場の風景(画像:写真AC)



 13号埋め立て地の開発を主導してきた東京都は、そうしたネガティブな印象を払拭して開発機運を盛り上げようとします。

 そこで出てきたのが、世界都市博覧会をお台場一帯で開催するというアイデアでした。世界都市博覧会の開催を理由に交通機関や道路・上下水道・電気・ガスといったインフラを整備し、閉幕後に跡地をオフィスや住宅として整備する。東京都は、そんな青写真を描いていました。

 現在、都庁舎は西新宿にありますが、当時は丸の内にありました。旧都庁舎跡地はコンベンションセンター「東京国際フォーラム」(千代田区丸の内)へと姿を変えています。都庁舎の移転は、過密化している東京中心部から公的機関・施設を分散する目的がありました。

 お台場の開発にも、そうした東京都心の過密化を解消させる意図が期待されていたのです。世界都市博覧会の開催を推進したのは、鈴木俊一都知事です。鈴木都知事は東龍太郎都知事時代にも副知事を務めるなど、東京を知り尽くした知事でもありました。その鈴木都知事が4期16年を務めて退任。1995(平成7)年には、後任に青島幸男都知事が就任します。

 鈴木都知事が描いていた東京都心部の分散化は、奇しくもバブル崩壊という経済悪化によってついえます。バブル崩壊によって緊縮ムードが覆うようになった日本では、社会全体が無駄の削減に邁進するようになりました。

 特に、行政の効率化や巨額な税金を投じる大型公共事業が問題視される風潮が高まり、青島都知事は世界都市博覧会の開催を取りやめます。こうして、お台場の開発計画は白紙に戻されたのです。

 開発計画が白紙に戻ったことで、13号埋め立て地の開発スケジュールにも遅れが生じたことは言うまでもありません。開発のために資金を投じても、それに見合うリターンがないと目されていた13号埋め立て地は、いい意味で周囲の思惑を裏切ります。副都心として大発展したお台場を見て、各区はそれまでの態度を豹変させていくのです。

中防は「金を生む土地」

 しかし、態度を豹変させたところで、13号埋め立て地の帰属はすでに決定しており、覆すことはできません。

2015年、公園化として一般供用を開始する前の「海の森」(画像:小川裕夫)



 13号埋め立て地の帰属争いが忘れかけられた2000年代に入ると、13号埋め立て地の南側に浮かぶ埋め立て地の帰属が議論されるようになりました。

 現在、中防の帰属を争っている大田区・江東区のほかにも、13号埋め立て地の一部になっている品川区・港区が帰属を主張しました。また、海を隔てた中央区も晴海から中防が近いことを理由に、帰属争いに参戦しています。

 13号埋め立て地を押し付け合っていた各区が、態度を豹変させて帰属を主張したことからもわかるように、中防がいかに「金のなる木」ならぬ金を生む土地と見られているかがわかります。

 しかし、中央区の主張には無理があったため、取り下げます。また、13号埋め立て地が帰属している品川区と港区も、陸路で埋め立て地に接していないことを理由に主張を取り下げました。

 こうして、中防の帰属争いは大田区と江東区の2者に限定されました。現在、湾岸エリアにはタワーマンションが続々と建てられています。また、2020年以降にはカジノを含むIR(統合型リゾート)がお台場あたりに整備される可能性も出てきています。カジノの良し悪しを議論することは、ここではひとまずおくとして、開発を進める側にとって埋め立て地にビッグチャンスが到来するわけですから、簡単に帰属の主張は譲れません。

 13号埋め立て地の望外な成功が、大田区・江東区の意識に影響を与えました。そして、図らずも中防の帰属争いを難しくしているのです。

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