境内が「麻布台ヒルズのオアシス」に――生まれ変わった「西久保八幡神社」には唯一無二の絶景も!
話題の麻布台ヒルズ周辺は江戸時代多くの藩屋敷が並んだ歴史ある街。今回は新スポットのオアシスとなりそうな、古くて新しい東京の風景「西久保八幡神社」について、周辺を散策した都市商業研究所の若杉優貴さんがレポートします。都内各地で生まれる「古くて新しい神社」 「令和の東京都心らしい」ともいえる「再開発で生まれた新しい街並み」と「歴史を感じさせられるスポット」が隣り合わせになっている風景。それを作り出す要素の1つが、商業施設や再開発ビルに鎮座する神社の存在です。
都内の再開発ビルにある神社といえば、平安時代に創建され現在は「コレド室町」に併設される「福徳神社(芽吹稲荷)」などが有名ですが、今年(2023年)11月に開業する「麻布台ヒルズ」横にも、同じく平安時代から約1000年もの歴史を持つ古くて新しい神社「西久保八幡神社」が鎮座していることをご存知でしょうか。
日本橋・コレド室町に鎮座する「福徳神社(芽吹稲荷)」。 東京都心らしい景観ともいえる「再開発ビルと神社」ですが、今年11月に開業する「麻布台ヒルズ」でもそうした光景を見ることができます。(画像:若杉優貴)ヒルズに囲まれた新生「西久保八幡神社」 「麻布台ヒルズ」は旧逓信省・郵政省本庁舎(近年は麻布郵便局として利用)の跡地などに建設された再開発エリア。開発コンセプトは「Modern Urban Village(モダン・アーバン・ヴィレッジ)〜緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街〜」。総事業費はなんと約5,800億円で、2023年11月24日以降順次開業予定です。
麻布台ヒルズの街区とそれに伴う周辺整備の概要。 西久保八幡神社はヒルズに囲まれるように社を構えており、再開発によって周辺は大きく変化しました。(森ビル ニュースリリースより) 開発エリアは、高さ日本一となる330mの超高層オフィス・レジデンス・店舗からなる「麻布台ヒルズ森JPタワー」を中核に、商業機能を主体とする緑に包まれた「ガーデンプラザ」、イベントなども開催される「中央広場」、主に住宅となる2棟のタワーマンション「麻布台ヒルズレジデンス」(冬開業のアマン姉妹ブランドホテル「ジャヌ東京」が入居するA棟と一部オフィスの入居するB棟)などで構成されます。1月開業分とあわせて街全体で約150店が集積するとあって大きな話題となっている再開発エリアです。
今年11月のグランドオープンに向けて工事が進む「麻布台ヒルズ」。 中核となる「麻布台ヒルズ森JPタワー」は高さ日本一の超高層ビルとなります。(画像:若杉優貴) 今回ご紹介する「西久保八幡神社」(正式な社号は「八幡神社」、西久保八幡神社は通称)が鎮座するのは、国道1号線・桜田通り側。麻布台ヒルズのガーデンプラザに囲まれた立地で、東京メトロ日比谷線の神谷町駅から歩いて3分ほどです。
神社の公式ウェブサイトによると、西久保八幡神社は寛弘期(西暦1010年ごろ)に源頼信が京都・石清水八幡宮の神霊を勧進して現在の霞ヶ関のあたりに創建した神社を起源とし、太田道灌の江戸城築城(1457年)に際して現在の麻布台に遷座されたといいます。江戸時代に入ると麻布台には武家屋敷や藩屋敷が並ぶことになったため(後述)、多くの武士の心の拠り所にもなっていたことでしょう。
麻布台ヒルズガーデンプラザD棟に隣接する西久保八幡神社・一の鳥居。 「麻布台」という名のとおり、周辺は起伏のある地形。(画像:若杉優貴)ビル好き必見!?「200メートル級超高層ビル」を6棟もしたがえる新社殿へ まだまだ工事の槌音が鳴りやまない桜田通りから鳥居をくぐり、西久保八幡神社の境内へと進みます。麻布台ヒルズガーデンプラザD棟の真横にある一の鳥居(靖国型の神明鳥居)は1965年の桜田通り拡幅整備に合わせて造り直されたもので、さらに今回の再開発に伴う街路整備のため神社寄りに再移設されたもの。社殿に行くにはここから石段の「男坂」か、坂道の「女坂」を通る必要があり、麻布台が「台地」であることを実感させられます。
二の鳥居近くにある石碑によると、この男坂の石段は寛政9年(1797年)に再興されたものだそう。歴史ある神社ゆえに、境内の石碑などは江戸時代に造られたものが少なくありません。
西久保八幡神社・男坂。訪問時は石段下で神社の社号碑再設置工事が行われていました。 流石は麻布台、玉垣には大手企業や有名人の名前もチラホラ…。 男坂を上り切った場所にある二の鳥居(八幡型の明神鳥居)は天明元年(1781)建立。これをくぐると現れるのが、ほのかに木の匂いが漂う真新しい社殿です。
かつては鬱蒼(うっそう)とした木々の中に1953年築の社殿がありましたが、麻布台ヒルズの開発に合わせ「令和の御造替事業」として2019年に境内全体の再整備を開始。この新社殿は2021年に竣工したもので、その後も工事が続けられており、麻布台ヒルズが開業するころには全てが完成する予定となっています。
ビル好き必見!西久保八幡神社の背後には高さ200m超えの超高層ビルが5棟(数年後には6棟)も。 左から「麻布台ヒルズ森JPタワー」、「麻布台ヒルズレジデンスA棟」、「住友不動産六本木グランドタワー」、「泉ガーデンタワー」、(その右手前「六本木ファーストビル」は200m未満)、そして「アークヒルズ 仙石山森タワー」。数年後には「麻布台ヒルズレジデンスB棟」も加わります。右端は二の鳥居。(画像:若杉優貴) 西久保八幡神社の御祭神は、品陀和気命(ほんだわけのみこと:応神天皇)、息長帯比売命(おきながたらしひめのみこと:神功皇后)、帯中日子命(おきなかつひこのみこと:仲哀天皇)の三柱。このほか、境内には末社として「稲荷社」「人麿社」「庚申社」などが鎮座しています。
二の鳥居あたりから社殿を見渡せば、その後ろには「麻布台ヒルズ森JPタワー」「麻布台ヒルズレジデンスA棟」をはじめとした10棟ほどの超高層ビルがそびえ立つ光景が広がります。そのうち5棟(数年後にはもう1棟増える予定)は高さ200メートル超え。1000年もの歴史を持つ神社が多くの超高層ビルに囲まれて堂々と鎮座する姿は、「令和の江戸八景」に選ばれてもおかしくないほどの「ここだけの絶景」といえるでしょう。
西久保八幡神社の新社殿。まだほのかに木の匂いも漂います。 撮影後の8月11日には4年ぶりとなる夏祭り「御本社神輿神幸祭」が開催されたそう。(画像:若杉優貴) お参りしておみくじを引いたあとは社務所へ。
以前は御朱印の授与もありましたが、社務所で伺ったところ現在は用意していないとのこと。社務所では一般的な御守り、祈願符などのほか、珍しいカード型の御守りをいただくこともできます。
新社殿はバリアフリー対応。「天水桶」と記された鋳鉄製の水桶は天保4(1833)年に奉納されたもので、境内には江戸・明治期の面影が数多く残されています。 ここからは神社の東側にあるヒルズ「愛宕グリーンヒルズ」の姿も。(画像:若杉優貴)「立体緑園都市」の一角を担う神社境内 西久保八幡神社の境内地は正確には麻布台ヒルズ敷地内ではないものの、ヒルズの開業に合わせて神社境内から麻布台ヒルズガーデンプラザに直結する小径が設けられる予定で、ガーデンプラザ内にはそれに接続する大通り「八幡通り」も設けられます。(7月時点は未開通でした)
社務所の脇には新しい小径が伸びており、麻布台ヒルズ「ガーデンプラザ」「八幡通り」に接続されます。 このあたりの神社裏手からは貝塚も見つかっており、古い時代から人が住んでいたことが伺えます。(画像:若杉優貴) 麻布台ヒルズを手掛けた森ビルによると、麻布台ヒルズは「Green &Wellness(グリーン&ウェルネス)人々が自然と調和しながら、心身ともに健康で豊かに生きることを目指す街」を標榜しており、なかでもガーデンプラザは「ヴァーティカル・ガーデン・シティ」(=立体緑園都市)として、建物内外のさまざまな場所が緑化されることを特徴とします。
ガーデンプラザの先には樹木や芝生で囲まれた中央広場も設けられ、ヒルズ敷地外とはいえ西久保八幡神社はこの緑で包まれた「立体緑園都市」の一角を担うことになります。
麻布台ヒルズガーデンプラザB棟とD棟のあいだに新設される大通り「八幡通り」。 特徴的な外観の建物は英国のトーマス・ヘザウィック氏によるデザイン。(画像:若杉優貴)麻布台ヒルズとともに歴史さんぽを楽しんでみては 歴史ある麻布・芝界隈だけあって、現在の麻布台ヒルズ周辺は江戸時代には多くの藩屋敷が並んでおり、麻布台ヒルズがある場所にはかつて下級武士の組屋敷が並んでいた我善坊谷や山形・米沢藩上杉家の中屋敷(のち逓信省庁舎用地)がありました。
現在も麻布台ヒルズ周辺には「狸穴坂(まみあなざか)」「鼬坂(いたちざか)」「鼠坂(ねずみざか)」など歴史を感じさせる通り名が多く残るほか、西久保八幡神社以外にも「葺城(ふきしろ)稲荷神社」(こちらも再開発に伴い2020年に遷座したばかり)、「飯倉熊野神社」、「幸(さいわい)稲荷神社」、「増上寺」などの寺社をはじめ、「外務省外交史料館」、そして「東京タワー」など、歩いて数分の範囲に多くの歴史スポットが点在しています。
麻布台ヒルズを訪れた際には「西久保八幡神社」をはじめとした麻布台を見守り続ける神様にもご挨拶して、町の歴史に想いをはせてみてはいかがでしょうか。
増上寺から見た麻布台ヒルズと東京タワー。麻布台ヒルズを訪れた際には歴史さんぽを楽しんでみては。(画像:若杉優貴)■西久保八幡神社
住所:東京都港区虎ノ門5-10-14
TEL:03-3436-2765
アクセス:東京メトロ日比谷線「神谷町駅」2番出口より徒歩3分
東京メトロ南北線「六本木一丁目駅」より徒歩10分
都営大江戸線「赤羽橋駅」より徒歩10分
都営三田線「御成門駅」より徒歩10分
※記事中の現況は2023年7月上旬前後のものになります。
参考文献:
皆川典久(2020)「東京スリバチの達人-分水嶺東京南部編」昭文社
西久保八幡神社ウェブサイト
http://www.hachimanjinja.or.jp
麻布台ヒルズニュースリリース(森ビル)
https://www.mori.co.jp/company/press/release/2023/08/20230808113000004514.html
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