オンラインで「メロン狩り」まで再現できる現代 デジタルは本当に完全無欠のツールなのか?

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オンラインで「メロン狩り」まで再現できる現代 デジタルは本当に完全無欠のツールなのか?

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2020年6月、茨城県鉾田市のメロン農家でオンラインの「メロン狩り」が開かれました。東京にいながら茨城のイベントに参加できてしまうことに驚きつつ、参加してみることに。実際のメロン狩りとオンラインとでは、一体何が違うのでしょう。

東京で楽しむ茨城のメロン狩り

 東京は2020年6月12日(金)、新型コロナウイルス感染再拡大への警戒を呼び掛ける「東京アラート」が解除され、休業要請は最も軽い「ステップ3」へと移行しました。

 少しずつ日常らしい生活を取り戻しつつある東京。その都心から私鉄の快速急行で15分ほどの距離に住む筆者は、アラート解除の5日前、自宅アパートにいながら「茨城でのメロン狩り」イベントに参加していました。

 そう、コロナ禍で急速に普及したオンラインの仕組みを使ったイベントです。

画面がつないだ全国20組の親子

 主催は茨城県農産物販売推進東京本部(大田区東海)で、共催はJAほこた(茨城県鉾田市)。

 メロン狩りの会場となるのは、メロン生産量日本一の茨城県にある鉾田市内のメロン農家のビニールハウスと、東京や大阪など全国20組の親子たちが暮らすそれぞれの自宅です。

パソコンの画面越しに体験したオンラインの「メロン狩り」(2020年6月7日、遠藤綾乃撮影)



 午前10時、メロン農家の市村知一(ともかず)さんのビニールハウスと参加者たちが、パソコンのカメラを通してつながりました。筆者も自宅の部屋からその様子を見守ります。

思わず身を乗り出す子どもたち

 画面の向こうの市村さんは、鉾田市の所在地やメロンの育て方、今回の主役でもある県特産メロン「イバラキング」の特長などを説明。

 畑の中を歩きながら、足元で育つ大玉のメロンのそばにしゃがみ込んで、

「根元の近くにある実が『お兄ちゃんメロン』で、ほかの『弟メロン』より大きくて甘いんです」

「実のそばの葉っぱが枯れ始めていたら、熟している証拠です」

と、おいしいメロンを見分けるコツを参加者たちに伝授。丸々と大きく育ったメロンが大写しになると、子どもたちはワーッと身を乗り出して画面に見入っていました。

画面越し、参加者同士の交流も

 市村さんが事前に厳選したメロン20玉に1から20までの番号札が付けられていて、参加者たちは順番に映し出される実を見定めながら、欲しいメロンを選んでいくという方式。

 教わったばかりのコツを頼りに思い思いのメロンを選ぶ様子は、さながら青果市場の入札のようです。

参加者たちに代わって、現地でメロン選びとナビゲートを務めてくれた市村さん(2020年6月7日、遠藤綾乃撮影)



 複数の家族で希望のメロンが重なった場合は画面越しのジャンケンも行われて、全ての家族のメロンが決まったときには自然発生的に拍手が起こりました。

収穫作業は農家さんが請負

 ときどきタオルで額の汗をぬぐいながら、20玉のメロンに「売約済み」の札を付けて回った市村さん。

「いやあ、何せ暑いです。ハウスの中ですか? 今たぶん40度くらいになっているんじゃないですかね」

 通常のメロン狩りなら参加者たち自身が担う作業も一手に引き受けた姿に、参加者たちからはねぎらいの言葉も掛けられました。

 メロンは追熟(ついじゅく)のために2、3日ほど置いてから、参加者の元へと送り届けられるそう。代金の3000円は、自分たちで選んだメロンに加えて市村さんが厳選したもうひとつ、計2玉分です(送料・参加費込み)。

マスコミによるインタビューも

 約1時間のイベントの後、参加者たちはカメラの向こう側(鉾田市)にいるマスコミのインタビューにも応じました。

カメラ越しに行われた、参加者に対するマスコミのインタビュー(2020年6月7日、遠藤綾乃撮影)



 杉並区の自宅から参加した父親(39歳)は「何だかテレビの旅番組に参加しているような気分になりました。楽しかったです」。

 小学4年生の娘さん(10歳)は「甘いのを見つけるのに苦労しました。届くのが待ち遠しいです」とはにかんだ笑顔。

オンラインが補い切れないこと

 ほかの家族たちも、

「オンラインなら場所を選ばずに(子どもに)いろいろな体験をさせてあげられて、可能性が広がるなと感じました」

「なかなか外出できずにいて(子どもは)お友達と遊べない期間が長かったので、ほかの家族の皆さんと一緒にできたのもうれしかったです」

と口々に。オンラインのメロン狩りは好評のうちに終了しました。

 後日、筆者の自宅にも立派なメロンが送られてきました。高さ約18cm、横幅は20cm近くもあろうかという大玉です。

 目の前にあるこの実は3日前、画面の向こうに目を凝らしたあの茨城のビニールハウスで育ったメロンなのだと、頭の中でイメージを膨らませてみます。

 歩けば舞うハウス内の土ぼこり、熟して枯れたの葉の細かな色合いや手触り、照り付ける日光や、40度にもなる温度と湿度……。

 やはりどうしても、想像だけでは補い切れない五感情報があることにあらためて気づかされます。

「本当のメロン狩りもしたい」

 メロン狩りの途中、市村さんは、以前まで開いていたメロン狩りのバスツアーが新型コロナの影響で中止になってしまったことを明かしていました。「本当ならたくさんの人に来ていただきたかったんですけどね」、と。

オンラインメロン狩りから3日後に、自宅に届いた実物のメロン(2020年6月10日、遠藤綾乃撮影)



 司会を務めた主催者のひとりも、最後に「皆さん、ぜひ市村さんに実際に会いに来てくださいね」と呼び掛けることを忘れませんでした。

 神戸市から参加した小学4年の女の子(9歳)は、「今度は本当のメロン狩りに行ってみたいと思いました。メロンに(その場で)触ってみたいです」と率直な感想を話しています。

 参加者にとっても主催者にとっても、オンラインでのイベントはあくまでもリアルの代替手段。実際に行ってみたい、実際に来てほしい、という希望を抱きつつ、今は目の前にある実物のメロンがつないだ縁に思いをはせてみます。

オンラインイベントの役割とは

 ただ一方でオンラインは、これまで茨城やメロン狩りに関心が薄かったかもしれない層を、一風変わった企画によって振り向かせるという重要な役割も果たしました。

 参加に対する心理的な障壁を低くし、「面白かったから今度は実際に現地へ行ってみよう」という機運を高められるオンラインイベントは、新型コロナの第1波が収束した今後にこそ、ますます増えていき定着していくのかもしれません。

 あなたはどんなオンラインイベントに参加してみたいですか? そして参加した後「実際に現地へ行ってみたい」と感じるでしょうか。

 そんなことを想像すると、さまざまな企画を見つけることがさらに楽しみになりそうでもあります。

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