中華料理の回転テーブルはアメリカ家具だった!
中華料理でおなじみの回転テーブル。これが初めて販売されたのは、三越などの東京のデパートにおいてでした。日本での発明説がありますがそれは事実ではなく、もともとはアメリカで普及したものです。なぜアメリカで回転テーブルが普及し、その後廃れてしまったのか。食文化史研究家の近代食文化研究会さんが解説します。 1931年に東京のデパートで発売された「回転テーブル」 1931(昭和6)年、東京の三越などのデパートで、回転テーブルが発売されました。 大石式回転テーブル(画像:近代食文化研究会) その名前は「大石式和式洋式開化食卓」。浅草のとんかつが有名な洋食店「喜多八」の主人大石氏が開発した回転テーブルです。 「和式洋式」という名前、洋食店の主人が開発したという経緯からわかるように、回転テーブルは中華料理店向けに開発されたものではありませんでした。 回転テーブルはもともと、1900(明治30)年代にアメリカの家庭で普及した家具。 そもそもがアメリカ人むけ、つまり洋食用であった回転テーブルを、座敷でも使えるようにしたのが、この「大石式和式洋式開化食卓」だったのです。 1900年代のアメリカで回転テーブルが普及House & garden1901年9月号(画像:近代食文化研究会) この写真は、木陰の木漏れ日の下、回転テーブルを囲んで朝のコーヒーを楽しむローガン一家の写真。1901年のアメリカの雑誌記事です。 このテーブルの上部回転機構を、アメリカではレイジー・スーザンLazy Susan、回転テーブルをレイジー・スーザン・テーブルといいます。 それ以前にも、アメリカ以外の国において回転テーブルは存在したようです。しかし、最初に実用的な回転テーブルが普及したのは、1900年代のアメリカにおいてでした。 というのも実用的な回転テーブルには、ある部品が不可欠だったからです。回転の摩擦を最小化するボールベアリングです。 ボールベアリング(画像:illustAC)工業大国だからこそ生まれた実用的回転テーブル工業大国だからこそ生まれた実用的回転テーブル ボールベアリングを使わない回転テーブルは摩擦が大きいため、回すのに大きな力が必要となり、騒音を発し、回転機構が摩擦で劣化し故障も多くなります。 ボールベアリングレイジースーザン(画像:近代食文化研究会) これは1901年のアメリカの回転テーブル広告ですが、”ball bearing lazy suzan”=ボールベアリング使用と書かれています。 ボールベアリングを使った回転テーブルは、軽い力でスムースに回転し、騒音もたてず、故障しにくいので、わざわざ広告でボールベアリングの存在をアピールしたのです。 この時代のアメリカは、工業大国として勃興しはじめた時期にありました。そこで生産されたボールベアリングによって、実用的な回転テーブルが生まれたのです。 イギリス料理の影響が大きかったアメリカ料理 さて、アメリカ料理はイギリス料理の影響を強く受けています。これには公用語が英語であったことが関係しています。 19世紀半ばまでのアメリカの出版界では、イギリスで出版された(英語で書かれた)料理書をそのままアメリカで出版していました。 アメリカは移民の国であり、出身国の料理も持ち込まれましたが、アメリカにおいて料理書から新しく学ぶ料理は、イギリス料理が中心だったのです。 やがてアメリカ人も料理書を書くようになります。アメリカ人が書いた初期のベストセラー料理書にCatharine Beecherの『Miss Beecher’s Domestic Receipt Book』(1846年初版)がありますが、その中身はほぼ、カレー等のイギリス料理の派生型となっています。 フランス式配膳法と回転テーブル 『Miss Beecher’s Domestic Receipt Book』には、ディナーにおける配膳の仕方も書かれています。当時の配膳法はフランス式配膳法と呼ばれるもので、フランスで生まれたものがイギリスに伝わり、それがさらにアメリカに伝わったものです。 miss beecher's domestic receipt book(画像:近代食文化研究会) これが『Miss Beecher’s Domestic Receipt Book』における、ディナーの第2コースの配膳図です。 フランス式配膳法の特徴は、大皿に全員分の料理を盛り付け、テーブルの上で各自の皿に取り分けるところにあります。大量の料理が大皿に盛られるので、見栄えがするのです。 しかし、フランス式配膳法には不便な点があります。この図のボイルドターキー(B)は、主人(X)の目の前にあるので、主人からは手が届きますが、Yの位置にいる女主人からは遠い位置にあります。 回転テーブルがあれば、全員が簡単に大皿から料理を取り分けることができます。回転テーブルはフランス式配膳法に適したテーブルだったのです。 ロシア式配膳法と回転テーブル フランスでは、19世紀後半から配膳法がロシア式に変わります(ジャン・ポール・アロン『食べるフランス史』)。あらかじめ各人の皿に料理を盛り分けてから配膳するという、現在標準となっている配膳法です。 ロシア式配膳法においては、大皿を取り回す必要がなくなるので、回転テーブルは不要となります。 このロシア式配膳法はイギリスに伝わり、20世紀初頭には中流階級に浸透することとなります(Kate Colquhoun『Taste The Story of Britain Through Its Cooking』)。 回転テーブルが普及した20世紀初頭のアメリカでは、まだフランス式配膳法が残っていたのかもしれません。しかし次第にロシア式配膳法が普及し、回転テーブルは衰退していきました。 日本ではもともとロシア式配膳に近い配膳法を採用していたので、回転テーブルは定着しませんでした。 回転テーブルは最終的に、大皿から取り分ける文化のある中華料理に、生き残りの道をみつけたというわけです。
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