もはや予言者? 早稲田大学の「新型コロナ対応」が迅速すぎるワケ
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、いち早い対応を行った早稲田大学。いったいなぜでしょうか。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。早々に中止を発表 年度末から新年度までの時期、都内では卒業生と新入生の入れ替わりが激しくなります。しかし2020年の春は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの大学で卒業式や入学式の中止が発表されています。 さまざまな大学が対応に苦慮している中、とりわけ先手を打った対応を行っているのが早稲田大学(新宿区戸塚町)です。いったいなぜでしょうか。 早稲田大学の大隈講堂(画像:写真AC) 時計の針を少し巻き戻してみましょう。 2020年2月27日(木)、早稲田大学は同年の卒業式と入学式の中止を同時に発表しました。他大学の多くは卒業式中止のみを決定していた中、早稲田大学の決定は勇気のあるものでした。 早稲田大学以外の有名大学で2月下旬に同時発表を行ったのは、立命館大学(京都市)くらいです。現在振り返ってみると、その決定がいかに迅速だったのかがうかがい知れます。 早稲田大学は3月24日(火)、新年度の授業開始をゴールデンウィーク明けの5月11日(月)まで延期することを発表しました。 なおオンライン授業を利用して当初の予定通り新年度をスタートさせる東京大学(文京区本郷)と、5月1日(金)から授業開始する東京理科大学(新宿区神楽坂)以外、都内のほとんどの大学では4月下旬の予定となっています。 日本国内の現状を考えると、他の大学も早稲田大学の決定に追随する可能性は否定できないでしょう。 留学生の人数と出身国が影響?留学生の人数と出身国が影響? 早稲田大学の決定は、ニュースを筆頭にさまざまメディアで大きく取り上げられています。 しかしここでひとつの疑問が。2月下旬の決定時点で都内の感染者数は大きく跳ね上がっておらず、4月の入学式は様子見できる雰囲気でした。それにもかかわらず、早稲田大学の決定は迅速だったのです。 なぜ早稲田大学は、新型コロナウイルス対応をここまで先回りしたのでしょうか。その謎を解く鍵は、同大学で学ぶ留学生の出身国と人数に関係がありそうです。 2019年11月1日(金)付けで、早稲田大学の学部や大学院などで学ぶ留学生は6207人に上っています。同日付けの東京大学の留学生は4515人、2019年5月1日(水)付けの慶応義塾大学(港区三田)の留学生は2103人と、早稲田大学の留学生の人数は群を抜いています。 日本で学ぶ留学生のイメージ(画像:写真AC) 次に早稲田大学の留学生の出身国をみると、中国が3519人と留学生の半数以上を占めており、次いで韓国が857人となっています。これは、欧米に拡大する以前の感染地域と重なっています。 また早稲田大学から諸外国への留学生も多く、2018年度の長期留学者は1121人、特に看板学部の政治経済学部はアメリカを中心に605人の学生が留学しています。 ウイルスの潜伏期間を考慮 早稲田大学の春季休業期間は、2月上旬から3月末です。 この期間中に留学生が母国に帰国し、日本に戻ってくる際に感染しないとは限りません。同じことは留学している日本人学生にも当てはまります。 日本へ一時帰国、または新年度からの復学のために帰国し、その際に感染する可能性もあります。新型コロナウイルスは無症状の患者も多いため、無意識のうちに感染拡大に至る危険と隣り合わせです。 他者への感染を防ぐため2週間の自宅待機を求めるケースはニュースで取り上げられていますが、確実にキャンパス内での感染を防ぐためにも、潜伏期間を考慮して授業開始を繰り下げるのは当然の流れといえるでしょう。 迅速対応のイメージ(画像:写真AC) 都内の大学で早稲田大学は最多の留学生を受け入れ、そして海外の大学への留学者数も多いことから、他大学よりも迅速な対応を行い、事を大きくしないよう対策を講じているのです。 早稲田大学だけの問題早稲田大学だけの問題ではない しかしここ数日間の都内の様子を見ていると、海外交流が盛んな早稲田大学だから授業開始をずれ込ませたとは言えないレベルの状況になっています。騒動の終息が見えてこなければ、授業開始の延期を決定する大学はさらに出てくるでしょう。 繰り返しになりますが、早稲田大学は2月27日に卒業式と入学式の中止を、3月上旬に新年度の授業を4月20日以降とする考えを打ち出しました。しかし3月24日、その授業開始を5月11日まで繰り下げる決定を行ったのです。 学生の保護者のイメージ(画像:写真AC) もはや留学生の感染者の話だけではなく、東京の感染ピークを過ぎるまで学生が集まる状況を作らないよう判断したのかもしれません。 東京の大学には全国各地から学生が集まります。入学式は中止になりましたが、引っ越しの際に保護者が付いてくることも少なくありません。そうした保護者が万が一感染し、地方に戻った際に感染源とならないよう、早稲田大学は配慮しているとも考えられるのです。 新型コロナウイルスの一日も早い終息と、罹患された人たちの回復を心より願っています。
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