東大より難関? 謎多き国立「東京芸大」とはどのような大学なのか

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東大より難関? 謎多き国立「東京芸大」とはどのような大学なのか

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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上野公園のすぐ近くにある東京芸術大学。名前は知っていても、その中身は意外と知られていません。いったいどのような生徒が多いのでしょうか。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

美術学部の70%は浪人生も音楽学部は現役合格が多い

 国立大学の2次試験の出願が締め切られ、各大学の学部学科の倍率が確定しました。多くの大学では科目試験や小論文が2次試験に課せられる中、国立大学として日本で唯一の総合芸術大学である東京芸術大学(台東区上野公園。以下、東京芸大)では一部の学科を除き、実技試験のみが2次試験の主流となっています。

 東京芸大は絵画科などを擁する美術学部と、声楽科や器楽科などの音楽学部の2学部14学科と、三つの研究科のある大学院で構成されています。

東京芸術大学の正門付近の様子(画像:写真AC)



 そんな東京芸大は世間一般的に、

・浪人を覚悟の上で受験する
・美術学部は男子学生が多そう

というイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。今回は謎多き国立大学である東京芸大に迫ります。

学生の男女比率は

 前述のように東京芸大は浪人生が多く、現役合格は至難の業というイメージがあります。しかし音楽学部は現役合格者の割合が高く、2019年度の入学者の80%が現役合格を果たしています。一方で美術学部は、2019年度の現役合格者が34.6%にとどまっています。

東京芸大の場所(画像:(C)Google)

 東京芸大と同様に合格が極めて難しく、また挑戦するのも限られた学生のみ――といった印象の東京大学理科三類の現役合格者は77%のため、美術学部の浪人生の割合の高さは目を引くものがあります。

 東京芸大の両学部は、芸術系学部として国内最高峰と位置づけられていますが、現役合格者の数では両極端な結果となっています。

 それでは、学生の男女比率はどうでしょうか。音楽学部は女子が多く、美術学部は男子が多い印象がありますが、2学部共に女子学生の割合が高くなっています。2019年度入学者をみると、美術学部と音楽部ともに約67%が女性です。

実技試験を最重要視

 また、大学案内に記載されている2019年度入学者の出身別データをみると、両学部ともに関東出身者が一番多く、美術学部では65%、音楽学部では58%です。

東京芸術大学 正木記念館の外観(画像:写真AC)



 都道府県別では、東京都が群を抜いています。音楽学部に関しては付属高校である東京芸術大学音楽学部付属音楽高等学校(台東区上野公園)もあり、大半の生徒が東京芸大に進学するため、東京都の合格者が多いのはわかります。

 ただ関東地方に偏りがあるのは単に東京都にある大学だからという理由だけではなく、芸術大学の入試がほとんどの学科で実技試験を最重要視している特殊な事情も絡んでいるからです。

合格に投資必須な東京芸大

 入試では美術学部と音楽学部どちらも、大半の学科で実技試験が課せられます。この結果が合否を決めるため、東京芸大を目指す学生たちは入試までに、多くの投資を行っているのです。

 美術学部を志望する場合、多くの学生が実技試験に備えて美術予備校に通い、実力を磨いています。東京芸大のみならず、美術大学の合格を勝ち取るためには、高校生の頃からデッサンや日本画、油画、彫刻のイロハを学べる美術予備校で基礎を学ぶ必要があります。こうした予備校は東京や神奈川などにあり、首都圏在住の学生に有利な環境となっています。

油画を練習するイメージ(画像:写真AC)

 一方、音楽学部への道は美術学部とは異なります。美術学部を目指す学生が中学・高校時代から本格的に専門的分野を学ぶのとは対照的に、ピアノやバイオリンなどの器楽科を目指す学生は、幼少期から学び始めます。

 とはいっても、大手ピアノスクールで学ぶといったような一般的な形ではありません。定員40人の音楽学部付属音楽高校に入り、そこから東京芸大を目指すとなると、大学のOB・OGの個人レッスンを受けるなど、大学との縁を持ちながら臨まなければなりません。

 美術部と同様に地方でOB・OGを探すことは至難の業で、首都圏に住んでいる学生の方が有利なのです。そのため東京芸大は国立大学であるものの、難関大学合格のために塾へ通う学生よりも投資額が大きくなる傾向があるのです。

学力も無視できない

 実技試験ばかりに目がいきがちな東京芸大ですが、国立大学のためセンター試験、2021年からは大学入学共通テストを受けなければなりません。

一般的な学力も必要(画像:写真AC)



 美術学部の多くの学科では3教科3科目または4科目、音楽学部のほとんどの学科では国語と外国語の2教科2科目が条件です。しかし建築科(美術学部)を受験する場合は5教科6科目を要します。このことから、抜きんでた才能があれば必ず合格できるとは言い切れないのです。

 もちろん、合否には2次試験の実技試験が最優先されますが、ある程度の学力を持ち合わせていないと合格の扉を開くことはできません。

 才能と努力、入試に備えて美術予備校通いや個人レッスンなどの投資、そしてセンター試験で学力を証明する必要があるのです。東京芸大は、東大に合格するより難しい大学と言えるでしょう。

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