原宿のショップも閉店――平成の“ファンシー文化”を支えた「サン宝石」が、少女たちに残した偉大なる功績とは

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原宿のショップも閉店――平成の“ファンシー文化”を支えた「サン宝石」が、少女たちに残した偉大なる功績とは

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佐倉静香

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 2021年8月に民事再生法の適用を申請した「サン宝石」。小中学生向けのアクセサリーや雑貨を製造販売し、多くのファンを魅了してきました。同社が平成の時代に残した偉大な功績とは? コラムニストの佐倉静香が同社の歴史をたどります。

少女たちのあこがれをリーズナブルな価格で

 2021年8月、小中学生向けのアクセサリーや雑貨を製造販売するサン宝石(山梨県中央市)が甲府地裁へ民事再生法の適用を申請、保全命令を受けました。

 女の子たちのあこがれをかなえるリーズナブルなアクセサリーを提供してきた同社の苦境は、日本の「ファンシー文化」がひとつの岐路にあることをうかがわせます。

 同社が担ってきた平成のファンシー文化と、多くのファンたちに残した偉大な功績を振り返ります。

原宿・竹下通りへの出店は2002年

 サン宝石は1965(昭和40)年に山梨県の地場産業である貴金属業を担う企業として創業。1979年に現在の「サン宝石」に改称。

 1971年から通信販売を開始していましたが、現在に至るまでティーン向けの安価な商品に特化してきたのは、当時は女性誌への広告出稿がコスト高で、子ども向け雑誌を狙った方がよいという戦略からでした。

キラキラしたもの、かわいいもの。少女たちが愛してやまない「ファンシーグッズ」のイメージ(画像:写真AC)



 その後、1995(平成7)年に商品カタログ「Fancy POCKET」を発行し、「10円セール」が好評を得ます。

 主な顧客である小中学生といえば、お小遣いは月々500円あるいは1000円ほどの場合が多いはず。たった10円でアクセサリーやおしゃれな文具が手に入るセールは、どれほど魅力的に映ったことでしょう。

 通信販売中心に営業を続けていたサン宝石がJR原宿駅前の竹下通りに実店舗をかまえたのが2002年のこと。

「ファンシーポケット」(渋谷区神宮前1)と名付けられたお店には、通信販売は少しハードルが高いと思っていた少女たちが次々と訪れて連日大盛況に。アクセサリーや雑貨、文具などでキラキラした店内で、時間がたつのも忘れて商品に見入ったという思い出を持つ人も数多くいるでしょう。

ラフォーレや109より気軽に入れた

 筆者はファンシーポケットが開店した頃はすでに大人でしたが、妹が地元から長期休みで遊びに来た際、一緒に訪れたことがありました。

2021年9月26日(日)に閉店すると発表された「ファンシーポケット原宿店」の場所(画像:(C)Google)



 ラフォーレ原宿(同区神宮前1)やSHIBUYA109(同区道玄坂2)より敷居が低く、大人過ぎないけれど身に着ければ普段の自分よりちょっと“大人”になれそうなイヤリング、コスメ、学校で話題になりそうな文具。

 それらが数百円で買えてしまう店内を見て「この時代に生まれたかった……」と心底思ったものでした。

 ファンシーポケットはその後、各地に出店。テレビなどのメディアでも紹介され、ますます人気となっていきました。

新キャラ「ほっぺちゃん」が人気に

 2010(平成22)年には、サン宝石を代表するキャラクターも誕生しました。しずくのような形につぶらな瞳とキラキラほっぺ、プニプニとした感触の「ほっぺちゃん」です。

「ほっぺ母」(同社スタッフ)たちがひとつひとつ手作りしているオリジナルのキャラクターグッズでした。もとはキーホルダーのような素朴なものでしたが、これが人気となると、さまざまな派生グッズも登場。

「戦国武将バージョン」「ご当地バージョン」などのほか、同じく山梨発祥の企業であるサンリオとのコラボ商品も展開。「ハローキティ」「マイメロディ」の着ぐるみをかぶったようなほっぺちゃんが人気を集めました。

 また、こうした既存のスタイルのグッズだけでなくコンシューマーゲーム(Nintendo 3DS)のキャラクターに採用されたことも。ほっぺちゃんの専用サイトでファン同士が交流を深めることもありました。

新型コロナなど背景に売り上げ減少

 このように女の子たちに絶大な人気を誇ってきたサン宝石、ファンシーポケット、ほっぺちゃんだけに、今回の民事再生法の適用申請に至ったことは各世代のファンに衝撃をもって受け止められました。

2021年9月26日(日)に閉店すると発表された「ファンシーポケット原宿店」(画像:(C)Google)



 背景には、2020年からの新型コロナ禍もあるかもしれません。常に大勢の若者であふれていた原宿・竹下通りは、2021年現在も続く自粛の影響で、かつてほどの賑わいが見られません。シャッターが降ろされたままの店舗も目にとまります。

 また、かつてサン宝石の熱烈な購買層だった女性たちは、すでにアラサーからアラフォーになりました。こうした世代が徐々に離れていくとともに、街には100円均一ショップを代表する激安店がいくつも出店。サン宝石以外にも、お小遣いで買えるアクセサリーがあふれる時代になりました。

「今も大好き」サイトにファンが殺到

 しかし、サン宝石のニュースが報じられると、かつてのファンたちは次々に反応を見せました。

 公式サイト「サンホ」にはアクセスが殺到。「小さい頃お世話になった」「今も大好き」とアイテムを購入するファンが多数現われ、発送作業が間に合わないほどに。

 もう大人になってはしまったけれど「無くなってほしくない」、そんなファンの強い思いがあふれる一幕でした。

 そういえば、同じく若い世代の女性たちに人気を博したリーズナブルなアクセサリーショップ「Claire’s(クレアーズ)」が2020年、日本から撤退しました。

 1994(平成6)年に米国クレアーズ社と日本企業の合弁会社として誕生した同社。各地に店舗展開しハロウィーン衣装なども扱っていたので、一度は利用したことがあるという人も多いのではないでしょうか。そのクレアーズの元スタッフらが、2021年「minacute(ミナキュート)」というブランドを立ち上げました。

「かわいくなりたい」「キラキラしたい」という純粋な気持ちが支えるブランド愛。それに応えるように丁寧に商品を作り続けてきたサン宝石。報道によると、今後も事業は継続するとされています。

ファンシーは永遠、これからもずっと

 サン宝石は平成の女の子文化を彩ってくれたものでしたが、さらに以前の昭和には、街に「ファンシーショップ」が存在し、女の子たちがお小遣いを握りしめて買い物に行っていました。筆者も友人の誕生日プレゼントを買った記憶があります。

 アクセサリーや文具、コスメなど、今にして思えば多ジャンルにわたる雑多な商品が置かれた店内でしたが、来店者を文字通り“夢見心地”にさせてくれた場所でした。

 個人経営のファンシーショップで多く採用されていた包装紙があります。赤い枠の中に素朴なキャラクターが描かれた総柄のもので、昭和の終わりごろに子ども時代を過ごした人なら「あ、知っている!」と思うはず。

 この懐かしい柄は「ストップペイル」という名前で、包装用品の老舗シモジマ(台東区浅草橋)のオリジナルブランドである「HEIKO」から誕生したものでした。

 これが2020年のシモジマ創業100周年を記念して復刻、さらに2021年は宝島社がこの柄をトートバッグにして付録につけたムックを発売。かつてファンシーショップを愛した少女だった人たちに、懐かしさの火をつけました。

2021年6月16日(水)に発売『ストップペイル ファンシーBOOK』。思わず「懐かしい!」という思いが込み上げる柄(画像:宝島社)



『精選版 日本国語大辞典』(小学館)によれば、ファンシーグッズとは、「趣味的で夢のあるかわいらしい雑貨・小物類」とのこと。その通り、ファンシーグッズが手元にひとつあることで、ちょっとしんどいときにも夢を見られ、ホッとできるように感じます。無駄なもののように思えて、きっと、絶対必要なもの。

 多様性や個々人の嗜好(しこう)が尊重される現代。この先たとえばジェンダーレスな価値観がさらに広まっても、ファンシーを求める心は男女を問わずきっと永遠に続くものだと考えています。

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