都内23区にワインの「ぶどう畑」があった! 場所はどこ? 醸造酒と地域コミュニティーの関係性に迫る

日本酒やワイン、クラフトビールと聞くと、地方をつい想像しがちです。しかし東京都内にも製造しているところがあります。文教大学国際学部准教授の清水麻帆さんが解説します。


醸造酒 = 地方のもの?

 皆さんは醸造酒と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。恐らく日本酒やワイン、クラフトビール(地ビール)だと思います。

 日本酒では地方の地酒、ワインでは山梨ワインなどが有名です。これは、醸造酒の原材料が地域文化と深く結びついているためです。

練馬区にある東京ワイナリーのぶどう畑(画像:清水麻帆)



 そんななか、東京23区内でも日本酒、ワイン、クラフトビールがつくられています。

芝に東京23区内で唯一の酒蔵が

 東京23区内の酒蔵は現在、東京港(みなと)醸造(港区芝)だけです。開業は2011(平成23)年。都営地下鉄三田駅から歩いて5分もかからない、周囲はオフィスビルに囲まれた都心に立地しています。一見すると、ここで酒造りが行われているようには見えませんが、酒蔵に必ずある「杉玉」「酒林」が軒先にぶら下がっています。なお、酒造りは4階建てのビルのなかで行われています。

港区芝にある東京港醸造(画像:清水麻帆)

 さて、なぜこんな都心に酒蔵があるのでしょうか? それはこの場所に、蔵元が元々暮らしていたということと、蔵元の仕事の歴史に深く関係しています。

 蔵元は現在、雑貨業を経営していますが、実は幕末に芝で造り酒屋・若松屋を経営していたのです。若松屋は1812(文化9)年から100年続いていましたが、1909(明治42)年に廃業。その後は飲食業から現在の雑貨業へと変容し、晴れて蔵元として再開されたのでした。

使用する水は東京都の水道水

 若松屋は薩摩藩の御用商人として、芋焼酎や濁り酒を製造し、それらを藩の屋敷に納めていました。また酒蔵でもありましたが、奥座敷があり、当時の要人だった西郷隆盛、勝海舟、坂本竜馬、山岡鉄舟、高橋泥舟(でいしゅう)などが訪問、西郷隆盛は寝泊まりにも利用していたと言い伝えられています。

 こうした背景から、江戸無血開城に尽力した人物が杯を交わしたとされる場所にちなんで、最高級品には「江戸開城」の名が付けられています。

 また東京港醸造の商品の特徴として、東京都の水道水が使われている点が挙げられます。東京の水道水は高度な浄水処理がなされ、「東京 水」としてペットボトルでも販売されています。

 また鉄分やマンガンを含まず、硬度も中軟水で、日本酒造りに適しているため、個性を形づけるひとつの要素になっています。2019年には、原材料の米・水・酵母・土地が全て東京産という「純米吟醸原酒 江戸開城 All Tokyo」が開発・販売されています。

東京港醸造が手掛ける日本酒の数々(画像:清水麻帆)



 さらに、サステイナブルな取り組みを積極的に行っているのも東京港醸造の特徴です。酒造には洗米工程があり、米1kgに対して水10lが必要で、それがとぎ汁として排水されることで、環境負荷となっています。こうした問題に対して、「Sustainable Sake Project(持続可能な日本酒プロジェクト)」という無洗米を使った醸造方法を研究、従来の味や品質に劣らない製品を作り出しています。

 このように「東京港醸造」は23区内で酒蔵を復活し、その地域性や個性を生かしつつも、社会に優しい日本酒造りに取り組んでいるのです。

23区内でぶどう畑を持つワイナリーも

 東京ワイナリー(練馬区大泉学園町)は東京23区内で唯一、ぶどう畑を持つワイナリーで、大田市場(大田区東海)で野菜の仲卸をしていた越後屋美和さんが始めました。

練馬区大泉学園町にある東京ワイナリー(画像:清水麻帆)



 ぶどう畑は練馬区の大泉学園周辺に位置し、越後屋さんが持っているひとつと農家と契約している五つの合計六つで、それぞれの面積は大きくないものの、丁寧に管理されています。

 なぜ練馬区内でぶどうをつくり、そのぶどうでワインをつくりはじめたのでしょうか。越後屋さんによると、元々市場に勤めていたこともあり、東京の農業を元気にしたいという思いから、ワイナリーを2014年に開設したということでした。

 練馬区の農地面積は23区内1位で、江戸野菜でもある練馬大根が有名であるように、農業がさかんな土地柄であり、その文化も継承されています。越後屋さんのほか、農家の人たちがワインづくりで協力しているため、練馬の農業コミュニティーによってつくられているワインとも言えます。

練馬産ブランドのワインを開発

 ここで提供されるフードも地元練馬や東京の野菜を中心としており、東京ワイナリーのワインに合うものを提供しているそうです。こうした活動を通して、東京在住の人たちにもっと東京の農業や野菜の魅力を知ってほしいと、越後屋さんは話していました。

 そのため、東京産の高尾ぶどうを100%使ったワインや「練馬ヌーボー」(11月限定)など、ほかにも東京産や練馬にこだわった製品がつくられています。また、練馬のぶどう畑を歩いて見学しながら、品種ごとの葉の違いや新芽をかじる体験プログラム「ねりま青空マルシェ」も行っています。

東京ワイナリーのぶどう畑の地図(画像:清水麻帆)

 さらに「ねりまワインプロジェクト」では、質の高い練馬産ブランドのワインを開発。「食農文化のまち」としてのアピール活動も行っています。

 また前述の東京港醸造と同様、持続可能な活動として、練馬産のぶどうの剪定(せんてい)枝でつくったリースを地域住民の人たちに無料配布したり、ワインの製造過程で排出されるオリをせっけんに再利用して販売したりする取り組みも積極的に行っています。

下町の人びとに愛されるクラフトビール醸造所

 北千住には、クラフトビールの醸造所・さかづきブルーイング(足立区千住)があります。開業したのは、ビール大手のアサヒビール(墨田区吾妻橋1)で商品開発に携わっていた金山尚子さんです。

足立区千住にあるさかづきブルーイングの醸造所(画像:清水麻帆)



 ブルワリーの1階には醸造所と、そこでつくられたクラフトビールの立ち飲みのスペースがあり、2階がビールとそれに合う料理が提供されるオープンキッチンのレストランになっています。なお、ビールはテイクアウトで量り売りもしています。

 1階には、目当てのクラフトビールを決めて注文している常連の人、店に初めて立ち寄り店員さんにお勧めを聞く人、お目当てのクラフトビールが売り切れていた人などさまざまな人たちが見られ、世代も若い人から老いた人まで多様です。ここでしか飲めない味を求めて、皆、ここのオリジナルのビールを求めてやってきます。

 10種類ほどあるクラフトビールのネーミングもユニークです。そのネーミングも金山さんが付けているそうで、訪問時に直接聞いてみるといいかもしれません。

 金山さんは醸造家ですが、接客も行っているため、その際、希望の味を聞いてレシピを書いたり、感想を次の醸造に生かしたりしながら、ビールづくりに励んでいるそうです。コミュニティーの人びとの声が反映されたビールづくりから生まれる、北千住でしか体験できない味、いうなれば「千住ビール」がここで体験できるのです。

 クラフトビールを通じて地元の人びとが集う場所にしたいという目標について、金山さん自身は現状、達成できていると感じているそうです。

醸造酒と地域性

 小規模でローカル志向な職人たちが丹精こめてつくった醸造酒は、地域文化や地域コミュニティーに関わりながら形作られています。それが地域のフードカルチャーとして形成され、地域の活性化や街づくりに貢献していくことにつながります。

 実際にアメリカ・ニューヨークのブルックリンで創業したブルックリン・ブルワリーはそれを体現しています。

 創業者であるスティーブ・ヒンディによると、ブルックリン・ブルワリーは、地域のフードカルチャーとしてコミュニティーに貢献しつつ、活気づけて再生させたと述べています。現在ではニューヨークを飛び出し、ブルックリン・ブルワリーは世界的な企業にまで発展、図書館とバーが一体化したサロン・K5(日本橋兜町)の地下に世界初のフラッグシップ店「B」を開業しています。

日本橋兜町にある「B」の入るK5(画像:(C)Google)



 東京23区内には、ほかにもワイナリーやブルワリーが点在しています。コロナ禍のため、お取り寄せやテイクアウトでさまざまな地域性やそのオリジナリティーを家で楽しんでみてはいかがでしょうか。


【画像】今回紹介する4店

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