コロナ禍だけが原因じゃなかった! 「コワーキングスペース」が都内で急増しているワケ

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コロナ禍だけが原因じゃなかった! 「コワーキングスペース」が都内で急増しているワケ

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増淵敏之

法政大学大学院政策創造研究科教授

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都内にも急増しているコワーキングスペース。その背景と歴史について、法政大学大学院政策創造研究科教授の増淵敏之さんが解説します。

都内で増えるコワーキングスペース

 日本は他の先進国に比べて起業家が少ないと言われていますが、その一方で近年

・コワーキングスペース
・シェアドオフィス

という言葉をよく耳にするようになりました。

 東京において、これらは渋谷や新宿、池袋などの都心部にあるもの、郊外の駅周辺にあるものに二分されます。またそれぞれ、規模の大小もあります。

コワーキングスペースのイメージ(画像:写真AC)



 コワーキングスペース検索サービス「CoworkingDB」の調べによると、利用者はテレワーク中のビジネスマンが増えており、新型コロナウイルス感染拡大の影響があったのかどうかが気になります。

コワーキングとはそもそも何か

 コワーキングスペースの特徴はビジネスに直結していることで、心地の良さを求めるカフェやパブといったサードプレイス(自宅と職場の中間地点にある第3の場所)とは趣が異なります。

 2016年に出版された『コワーキングスペース/シェアオフィス空間による協創型ワークプレイスの出現 -都市マーケティングとマネジメントの観点から-』(橋本沙也加、大阪公立大学共同出版会)によれば、コワーキングは

「広義には、職場空間の共有をすること、広い共有のオフィスの中で自分の場所を作り、そこで働く新しい形態の空間のこと、あるいはその働き方を名刺とする」

シェアドオフィスは

「レンタルオフィスですが、レンタルオフィスよりも人との「シェア」を重視しているもの」

と定義しています。

『コワーキングスペース/シェアオフィス空間による協創型ワークプレイスの出現 -都市マーケティングとマネジメントの観点から-』(画像:大阪公立大学共同出版会)

 また同書ではコワーキングについて

・段階1:共存・共有の生成
・段階2:共信の生成
・段階3:共創・協働の生成

の3段階のプロセスを提唱しています。

 一般的に想定されるコワーキングスペースの利用者は

・フリーランスを含む専門職従事者(ライター、デザイナーなど)
・起業家
・出張中のサラリーマン

などが。比較的、孤立した仕事環境が好きな人が利用する傾向があるようです。

 コワーキングは独立して働きつつも、価値観を共有するグループ内でコミュニケーションを取れる側面があり、「コスト削減」「利便性」といった直接的なメリットだけでなく、仕事上での相乗効果が期待できます。

 筆者(増淵敏之、法政大学大学院政策創造研究科教授)はコワーキングスペースを日常的に使っているわけではありませんが、それでも地方出張をした際には何度か使い、実に快適でした。

コワーキングスペースの実態と起源

 早速、コワーキングスペースの実態を見ていきましょう。

 代表的なコワーキングスペース紹介サイト「CoWorkers」によると、2021年5月時点の掲載数は全国で1147件、そのうち約半数の550件が東京都。2位の大阪府は89件なので、東京に集中していることがわかります。

 多拠点居住に伴い地方での開設も進んでいますが、東京の優位性は変わらないため、コワーキングスペースは「都市型の装置」と解釈できます。

東京の街並み(画像:写真AC)



 コワーキングスペースの始まりは、1902年にパリのモンパルナスに誕生した「ラリューシュ」であると、多くの研究者は指摘しています。ラリューシュには芸術家たちが集まっていたため、共同アトリエ的な存在でした。

 1978年にニューヨークで誕生した「ザ・ライターズ」や、漫画家たちが集住していた「トキワ荘」も同様の文脈にあります。

 日本国内の始まりは、2010年に開設された神戸の「カフーツ」と言われています。ただその頃はまだ珍しい存在で、東京の「PAX Coworking」、大阪の「JUSO CoWorking」くらいしかありませんでした。

コワーキングスペースが急増したワケ

 2017、2018年に発行された『シェアリングスタイル』(エイ出版社)のVol.1とVol.2を見ると、さまざまなスペースが紹介されています。カフェやキッチンが併設されたり、住居が配置されていたりするものもあり、まさに百花繚乱(りょうらん)です。

『シェアリングスタイル』には出てきませんが、スウェーデンの「Hoffice」のように、自宅をコワーキングスペース化するケースもあります。

『シェアリングスタイル Vol.1』(画像:エイ出版社)

 一方、2017年に出版された『場所でつながる/場所とつながる―移動する時代のクリエイティブなまちづくり』(田所承己、弘文堂)では、コワーキングスペースが「多様性を確保できない」ことを指摘しています。なぜなら、フリーランスの人が利用するスペースは、フリーランスの人しか利用しない傾向にあるから、というのがその理由です。

日本で新たな起業家を生む土壌となるか

 コワーキングスペースの拡大には、スペースに集まる人々の間にコミュニケーションが生じるメカニズムが付加されていることも挙げられます。

 ビジネス目的でコワーキングスペースに集まる人々とのコミュニケーションは、居心地の良いのサードプレイス的な側面も持ち合わせてもいます。当然、胸襟を開く関係になれば、雑談に花が咲くこともあることでしょう。

『場所でつながる/場所とつながる―移動する時代のクリエイティブなまちづくり』(画像:弘文堂)



 数十年前に「共創・協働の生成」の場であるシリコンバレー周辺のビズカフェが注目されましたが、コワーキングスペースは基本的にその延長線上にあるといえるでしょう。雑談は新規のアイデアを創出することもあります。

 そのほかにも、普及の背景にはインターネットの普及があります。20年ほど前に一般化したこのテクノロジーは、瞬く間にビジネスのスタイルそのものを急速に変化させました。

 戦後の日本では数多くの起業家が輩出されましたが、やがて人々が大企業や公務員などの仕事に就く安定志向が加速し、起業家が登場しにくい土壌になりました。

 そのようなこともあり、コワーキングスペースの増加はようやく日本でも新たな起業家の到来を予感させる現象と見てもいいのではないでしょうか。

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