平凡な「魚介系ラーメン店」が平凡な売り上げすら出せない5つのワケ【連載】これからの「思考力」の話をしよう(5)

歴史の風雪に耐えた基礎的な理論・フレームワーク(思考の枠組み)を紹介し、現在でも色あせないその魅力について学んでいく連載シリーズの第5回。今回紹介する理論・フレームワークは「QCDと先行優位性」です。

味も価格も問題ないのに……

 私(日沖健、日沖コンサルティング事務所代表)は先日、知人が経営する2020年オープンの東京都内にあるラーメン店へ行きました。平日13時過ぎに訪問したのですが、その時間でもほぼ客席が埋まっていて、店には活気がありました。

 しかし私が「順調そうですね」と店主の知人に尋ねると、知人は浮かぬ顔で「ランチ時はかなり客が増えてきましたが、まだまだです。家賃や人件費の負担が重くて、黒字化はしていません」ということでした。そして、「何がいけないんでしょうかね?」と逆に質問されました。

魚介系ラーメンのイメージ(画像:写真AC)



 その店は魚介系のニューウエーブのラーメンを提供しており、味は本格的です。ただ、都内ではこの系統のラーメンが増えており、他店と比べて抜群においしいかといわれると、「まあまあおいしい」というレベル。値段は、トッピングを足しても1000円未満で、他店と比べて高くも安くもありません。

 つまりこの店は

「何か特に悪いというわけではないが、特に際立って良い点もない」

という評価になります。

 店長は「サイドメニューを始めるとか、広告宣伝を打つとか、何かテコ入れする必要がありますかねぇ」とつぶやいていました。

 ただ本質的に何がいけないかというと、「タイミングが悪い」ということになります。この店の場合、タイミングとは次のふたつです。

・コロナ禍の厳しい市場環境で飲食店を始めた点
・他社に遅れて魚介系のニューウエーブのラーメンを始めた点

 そもそもの出店の意思決定が間違っていたという身もふたもない話なので、知人には伝えませんでしたが……。

ビジネスはタイミングが大事

 ビジネスでは「QCD」というフレームワークをよく使います。QCDとは、

・Quality(品質)
・Cost(コスト競争力)
・Delivery(納期)

の略で、経済学では「需要の3要素」と呼ばれます。

 三つのどれも大切ですが、特に注目してほしいのが、「D」です。戦後、多くの日本企業は品質管理で「Q」を改善し、原価低減で「C」を高めてきました。しかし、Dには意外と無頓着でした。

 QとCが優れているのは当たり前で、競争に勝って成長する企業は、Dで他社に差を付けています。日本におけるその代表例がトヨタ自動車です。トヨタ自動車は、在庫を極限まで減らす「カンバン方式」などトヨタ生産方式によって納期を短縮し、QCDを高いレベルでバランスさせています。

文京区後楽にあるトヨタ自動車東京本社(画像:(C)Google)



 Deliveryは一般に「納期」と訳されます。ただ近年、注文を受けてから顧客に提供するまでの納期だけなく、広い意味での

・時間
・タイミング

が重要になっています。

 GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に代表されるアメリカIT企業は、他社に先駆けて機動的に投資をし、新製品を投入することで、グルーバル市場を席巻しています。

 一方、日本企業はなかなか機動的な事業展開ができず、せっかくの良い技術・人材を持ちながら、ビジネスチャンスを失っています。「良い物を安く提供すれば売れる」ではなく、「少々品質が悪くても、値段が高くても、タイミングが良ければ売れる」という現実を知る必要があります。

先行優位性が働く5つの条件

 一般にビジネスでは先行優位性が働くとされ、他社に先駆けて事業展開する方が断然有利です。

 ただ、他社に先駆けて市場で行動するのはリスクが大きく、大失敗に終わることもあります。かつての家庭用ビデオにおけるソニー(港区港南)のベータ方式のように、Qで優位だった先行者が敗れてしまうことも珍しくありません。

港区港南にあるソニー(画像:(C)Google)



 先行優位性が働くには、次のようないくつかの条件があります。

1.経験曲線効果
 経験曲線効果とは、その製品を作り始めてからの累積生産量が多いほど、作業の習熟によってコストが下がっていくという経験則です。経験曲線効果が働く工業製品では、先行者は先に累積生産量を増やせるので、低コストで優位に立てます。

2.ネットワークの外部性
 ネットワークの参加者が増えるほどネットワークそれ自体の価値が増すことをネットワークの外部性といいます。SNSのようなネットワークビジネスでは、他社に先駆けて標準的なネットワークを形成することが重要です。

3.ブランド
 特に消費財では、他社に先行することで強力なブランドイメージを消費者に植え付け、優位に立つことができます。「アサヒといえばスーパードライ、スーパードライといえばアサヒ」という具合です。

4.買い手のスイッチングコスト
 買い手がある商品から新しい商品に切り替えるときに発生する費用・手間などをスイッチングコストといいます。工作機械や原動機など産業材は、使用のために教育訓練が必要なのでスイッチングコストが大きく、先行優位性が働きます。

5.希少資源の占有
 航空会社にとっての空港発着枠や電話会社にとっての公衆電波のように、事業を展開する上で必要不可欠な資源が希少な場合、それを他社に先駆けて占有することで、優位に立てます。

 こうした条件が当てはまるなら、まだ不完全な状態の事業・商品であっても、拙速なくらいスピードを重視して先行するべきです。逆に当てはまらないなら、後行でじっくり展開することで良いでしょう。どちらが良いかは、産業の性格や経営者のリスク選好などによって決まります。

 ここまで書いてきて、私はこのことを「どういうタイミング」で知人に伝えようかな――と、ふと思ってしまいました。

【図表】コロナ禍で伸びた? 大手ラーメン通販サイトの「年間販売食数」

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