早実の定員削減の衝撃
私立大学の定員厳格化や総合型選抜(旧AO入試)、学校推薦型選抜(旧推薦入試)枠の拡大で、近年、一般入試で有名私立大学に入ることが難しくなっています。
また、都内の有名私立大学は付属校や系列校を持つ大学も多いため、中学受験や高校受験で早めに「大学入学手形」を得るといった動きもあります。
2021年度の中学受験で、有名私立大学付属校の人気はやや落ち着いたものの、大学入試の難化を考えると、中学受験で早々と手を打つことは選択肢のひとつになりつつあります。
そんななか、早稲田大学(新宿区戸塚町)の系属校である早稲田実業学校(国分寺市本町)は2022年度入学者試験から、中等部・高等部の募集定員の削減を決定しました。
結果、中等部の定員は「男子85人、女子40人」から「男子70人、女子40人」に、高等部の定員は「男子80人、女子40人」から「男子50人、女子30人」となり、スポーツ、文化分野、近隣公立校からの推薦入試の定員も20人減らします。
また、早稲田摂陵中学校・高等学校(大阪府茨木市)も2021年度から中学部の募集停止を行っています。
しかし他の有名私立大学付属校ではこのような思い切った定員削減を行っていません。その理由は、都内の子どもの数は増加し、受験ニーズは絶えないからです。
都内の子どもの数は増加している
東京都教育委員会が2020年9月に発表した「令和2年度教育人口等推計」によると、都内の公立小学校児童数は令和6年度、公立中学校生徒数は令和7年度まで増加傾向が続くと予測されています。
このことから、早稲田実業学校の中等部・高等部の定員削減はより「狭き門」と化したことを意味しています。
定員削減の理由は、1クラス当たりの生徒数を減らすことで「初中高大連携教育の推進、探究型の学びへの転換およびこれまで以上のきめ細かい教育の実現等を目指し、教育のあり方の抜本的な見直しを行う」と学校側は説明しています。
もちろん生徒数が少なくなるため学費は値上がりしますが、都内の私立中学受験・高校入試を考えると、早稲田実業学校の決断はかなり思い切ったものといえます。
早稲田実業学校は系属校ですが、付属校と同じように推薦枠は100%。そのため、生徒の希望や成績などによって進む学部学科が決まるものの、ほぼ全員が早稲田大学に入れます。ちなみに2020年度の高等部の卒業生435人のうち、422人が早稲田大学に推薦入学という形で進学しています。
推薦入学しなかった13人のうち東京大学理科2類と早稲田大学創造理工学部のAO合格者がそれぞれひとりずつ、そして9人が早稲田大学にはない医学部や獣医学部のある大学に進学しています。
なお、他の系属校は学校によって80%、50%、10%の推薦枠が設けられています。
ニーズがあるのにあえて削減の意図
初等部のある早稲田実業学校は初中高大学の一貫教育を掲げていますが、初等部の人数の増減は今のところ発表されていません。そのため、中等部と高等部の定員削減は今まで以上にレベルが高くなり、早稲田ブランドの維持につながります。
今春の早稲田大学の大学入試は、看板学部・政治経済学部の一般入試の定員削減、数学IA必須で話題を集めました。さらに2022年度入学者試験は文学部が前年より50人、文化構想学部では60人、一般入試での募集人員を削減します。
こうした動きは、付属校や系属校からの内進者の割合が増えると捉えられがちですが、早稲田実業学校の方針により、推薦入試組も数年後から徐々に減ることになります。
定員削減は自ずと、早稲田大学進学者も相対的に減ることを意味しています。しかし、早稲田は拡大路線からシフトチェンジを行い、少子化のなかでも優秀な学生を確保する方向を明確に打ち出しています。
経営か学生の質か
避けられない少子化を考えれば、定員削減が増えていくのは自然な流れです。その反面、首都圏にある付属校や系列校の生徒がそのまま大学に進学すれば、そのしわ寄せは一般入試組に押し寄せます。こうした問題を解決するためにも、付属校や系列校でも削減を行っていく必要があります。
安易な定員削減は経営を直撃し、増員も学生の質の低下を招きます。そのため、私立大学のかじ取りは非常に難しいものとなっています。
ただでさえ首都圏の私立大学は「ローカル化」が進んでおり、全国各地の多様なバックボーンを持った学生たちを集めることが難しくなっています。
早稲田実業学校だけでなく、他の付属校や系属校、そして他の大学でも定員削減へと動くのか今後注目が集まります。