コロナ禍と地震――早稲田と慶応の対応から見る教育機関の危機管理能力
福島県沖で最大震度6強の地震が発生 1月の「大学入学共通テスト」から始まった大学受験シーズンは佳境を迎えつつあります。都内では早慶(早稲田大学、慶応義塾大学)を始めとする有名私立大学で一般選抜試験が行われ、2月25日(木)からは国公立大学の2次試験が始まります。 大学受験において東北地方から東京への移動手段の際に利用されるのが、新幹線(秋田新幹線、東北新幹線、山形新幹線)です。 しかし、2月13日(土)の夜に福島県沖で発生した最大震度6強の地震の直後から東北新幹線は運休となり、東北地方の受験生は都内私立大学の試験を受けることが難しい状況になりました(全線再開予定は2月24日)。 文部科学省はこの緊急事態に直面し、受験生の受験機会を確保する緊急措置を行うよう国公私立大学に要請。各大学が対応を発表しています。 都内私大の対応都内私大の対応 早稲田大学(新宿区戸塚)では政治経済学部を含む多くの学部の一般選抜が2月15日(月)以降、行われています。 そして鉄道の運行状況を鑑み、試験会場に来られない東北地方(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)の受験生は必要書類を提出した上で、大学入学共通テストの成績を使って合否を判断することを決定しました。 新宿区戸塚にある早稲田大学(画像:写真AC) 明治大学(千代田区神田駿河台)や青山学院大学(渋谷区渋谷)も早稲田と同様の措置を採用。2月14日以降、地震による公共交通機関の運休で試験が受けられなかった受験生に対し、大学入学共通テストで合否を判断します。 また、東京理科大学(新宿区神楽坂)は東北6県に在住で地震による被災、交通機関の運行状況で2月18日に行われたC方式とグローバル方式の入学試験を受けられない受験生に対して、大学入学共通テストにより合否を判断します。 一方、慶応義塾大学(港区三田)は2月15日の文学部、16日の法学部の一般選抜に関して、新幹線運休に伴い受験できなかった東北地方在住の受験生を対象とした追試験日を3月9日(火)に設定しています。ただし、2月17日から19日までそれぞれ行われた総合政策学部、環境情報学部、医学部(1次試験)については追試験日は設けないと発表しました。 日本大学(千代田区九段)は2月15日(月)から20日(土)までの一般選抜を対象に、今回の地震により受験することができなかった受験生に対し、学部によって別日程の試験への振替や追試験受験を呼びかけています。 影響を受けたのは、都内の試験会場だけではありません。 法政大学や中央大学は地震発生翌日の2月14日から16日にかけて、仙台会場での入学試験を実施。交通公共機関の運休などで入試会場にたどり着けなかった受験生に対し、両大学ともに大学入学共通テストの成績を利用し合否を判断すると発表しました(中央大学は仙台会場の受験生限定)。 ふたつの大震災やコロナ禍の経験を生かすふたつの大震災やコロナ禍の経験を生かす 自然災害発生時における近年の対応は、1995(平成7)年1月17日に発生した阪神淡路大震災の教訓を基にしています。 地震で生じたひび割れのイメージ(画像:写真AC) 阪神淡路大震災が発生したのは、センター試験の2日後でした。甚大な被害を受けた神戸大学(神戸市)では試験日をずらし、大阪大学(大阪市吹田市)や岡山大学(岡山県岡山市)でも受験できるよう配慮。また、神戸市外国語大学(神戸市)の2次試験会場は急きょ大阪市立大学に設置され、受験機会を確保しました。 全国の国立大学が加盟する国立大学協会(千代田区一ツ橋)は、被災した受験生を対象とする特別入試の実施を要請し、追試験が行われました。当時はインターネットが普及する以前であり、入試日の変更は全て電話などでやり取りするしかなかったため、担当者の苦労は相当なものだったでしょう。 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、国公立大学の前期入学手続きが始まり、後期日程直前というタイミングで発生。事務手続きや後期試験は延長され、東北大学(仙台市)は後期試験の中止を決定、センター試験で合否を決定することになりました。 生かされた過去の教訓 また2009年に猛威を振るった新型インフルエンザを経験したことから、罹患(りかん)した受験生への追試験や感染防止策は策定されています。 しかし2020年から教育現場に混乱をもたらした新型コロナウイルスは、新型インフルエンザに比べて影響が広範囲に及んでいます。受験生の受験確保のため、各大学は可能な限りの対応策をホームページ上で更新。この1年間、常に緊張感を持って対応に臨んでいました。 コロナ禍のイメージ(画像:写真AC) 今回の震災に際し、早稲田大学や慶応義塾大学が臨機応変な対応を行っているのは、大学受験シーズンに発生したふたつの震災と新型インフルエンザの教訓を生かしているからと言えます。
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