えっ、本物じゃないの? SNSで最近、超リアルな「東京CG作品」が増えているワケ

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えっ、本物じゃないの? SNSで最近、超リアルな「東京CG作品」が増えているワケ

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ツイッターなどのSNSでは、まるで実写のように精巧に描かれた絵画やイラスト、CG作品が話題になることがしばしばです。そして最近、そんな作品群の中で「東京都心」を表現したものが増え始めていることをご存じでしょうか? その背景と、共通して付けられているハッシュタグ「#PLATEAU」のナゾに迫りました。

実写じゃないの? 思わず二度見

 まるで大洪水に見舞われたかのように、街全体が水没した港区と東京タワー。
 ドローンで空撮したかと見まがうような、西新宿の摩天楼と東京都庁。
 朝日に照らし出されて、白く浮かび上がる新国立競技場――。

実写じゃないの――? 思わず二度見してしまうほど精巧な、CGで描かれた東京・西新宿の街(画像:@cocyan_viz、こしあん さん制作)



 最近、ツイッターなどのSNSで、やたらと精巧な東京のCG画像や動画がいくつも投稿されていることにお気づきでしょうか?

 これらの投稿に共通して付けられているハッシュタグは、「#PLATEAU」。

 国土交通省都市局が主導する、3D都市モデル事業「Project PLATEAU(プロジェクト プラトー)」のデータを利用して制作したものであることを意味しています。

 このオープンデータに映像クリエイターたちが目を付け、3DCGソフトなどと併用して自身の作品制作に使い始めているのです。

 投稿作品を見たSNSユーザーたちからは、

「ものすごくキレイ……」
「建物が細かくてリアル!」」
「映画みたい」

と驚きの反応が続々。

 しかしそもそも「3D都市モデル」とは一体何なのか? 何のために国はプロジェクトを進めているのか? そして、なぜそのプロジェクトがクリエイターたちの間で受けたのか?

 ちょっと専門的で取っ付きにくそうな話題にも感じますが、これは私たちの生活を飛躍的に便利に、そして快適にする注目のプロジェクトのようです。

国交省肝入り、3D都市モデルとは何か

 国交省のリリース資料によると、3D都市モデルとは、実際の都市を仮想的な世界(サイバー空間)に再現した都市空間情報のプラットフォーム。2次元(平面)の地図上に、建物や地形の高さ、建物の形状などを反映させて作成した「3次元の地図」です。

 2021年4月現在PLATEAUには、先行公開した東京23区をはじめ国内56都市のデータが整備されています。

 3D地図というと「Google Earth」などが以前からあるのでは? と思うかもしれませんが、両者は一見同じようでいて実際には全く異なるものなのだそう。

 Google Earthなどがあくまで「目に見える形」を3Dという形式で表現した地図であるのに対して、PLATEAUの3D都市モデルは「デジタルツイン」と呼ばれる、現実の世界をデジタル空間にそのまま再現したもの。

「PLATEAU」で表示した千代田区のスクリーンショット(画像:ULM編集部)



 たとえば街に並ぶ建物はひとつひとつ外壁や屋上、窓などのパーツが分割されてそれぞれモノとしての情報を持ち、さらにはその建物の名称や用途(オフィスなのか、商業施設なのか)、さらには材質といった、ありとあらゆる属性情報も有しています。

 つまり「視覚的な再現だけでなく、人にとっての役割も含めた『都市空間そのもの』をデジタル上に再現したデータ」(国交省)が3D都市モデルなのです。

 オープンデータなので、誰でも無料で使うことができます。商用利用も可能です。冒頭で紹介した画像・動画のクリエイターたちからも「無料でここまでできるのはすごい」といった声が上がっています。

 しかしこのPLATEAU、そもそもは3D画像や動画などクリエイティブ作品を作成する目的で作られたものではありませんでした。

社会的課題の解決に 広がる利用方法

 国交省がPLATEAUプロジェクトを進める背景には、世の中に流通するデータ量の増加や、人工知能(AI)の技術発達と普及があります。

 まちづくりや産業にかかわるデジタル化の急速な進展に加えて、高齢化や都市型災害などの課題を他国に先駆け抱えている日本。そうした社会的な課題解決に向けて最新テクノロジーを活用する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は急務となっていました。

 都市デザインや再開発、地方自治体による防災計画の策定、さらには民間企業の新たなビジネス創設などに役立てるツールとして「Project PLATEAU」は進められているのです。

 国交省の担当者は、

「(PLATEAUの)データそのものは料理の材料と同じです。材料を使ってどんな料理ができるのか、その料理こそが社会課題のソリューションや新サービスであり、人々の生活に価値をもたらすものです」

と説明。商用利用も可能なオープンデータとして提供することで、地方自治体や民間企業による利活用が進むことに期待を寄せます。

国交省が公開した実証実験の一例。森ビルとともに行った、屋内外にまたがる避難訓練のシミュレーション(画像:国土交通省 都市局 Project PLATEAU)



 このたび同省がまとめた実証実験結果は全部で44例。

 港区虎ノ門にある虎ノ門ヒルズビジネスタワーの屋内と街(屋外)の両方をPLATEAUでリアルに制作し、36階建てという高層複合施設からの避難訓練シミュレーションを再現した例(実験パートナー:森ビル)や、新宿3丁目エリアを中心とする「バーチャル新宿」を創り出し、コロナ禍での「バーチャル街歩き」を体験できる例(三越伊勢丹ホールディングス)など、多彩です。

 自然災害の危険を表すハザードマップをより分かりやすくするために3Dビジュアル化して防災に役立てるといった、地方自治体との取り組み例もあります。

 また今回の実証実験に併せて三越伊勢丹は、このバーチャル世界に伊勢丹新宿店を再現。化粧品フロアや食品フロアで実際に買い物できるサービスもスタートさせました。

クリエイターたち、相次いで参戦

 国交省担当者は、こうしたまちづくり・防災といった分野だけでなく「都市空間内でのライブイベントや東京を舞台にしたサバイバルゲームなど、エンタメ領域での活用」が広がる可能性にも言及。

 当を得たように続々と試用に乗り出したクリエイターたちの作品が、冒頭で紹介した画像や動画です。

 日本の優れた映像クリエイターを紹介する「映像作家100人 2018」にも選出されたアートディレクターの寺島圭佑さんは、東京タワーなどが水没し荒廃した東京都心の動画を試作。

 ツイッター上で知ったというPLATEAUで「せっかくなら見たことのない東京を作ってみたい」と考えたと言います。

「(今回のPLATEAUのような)新しいサービスがリリースされたとき、多くの人が実際に触って、どのような表現ができるのかを検証してみるというのは非常に意味があると思います。『もっとこういうデータがあったら』などとフィードバックをすることで、よりブラッシュアップされていくこともあります。PLATEAUは今後、実際の作品制作にも使用できるのではと考えています」

PLATEAUを使ってみての感想などについて、Zoomでのインタビューに答える寺島さん(2021年4月16日、遠藤綾乃撮影)



 CMやミュージックビデオなどの映像制作を手掛けるKhaki(港区芝大門)の共同創業者、田崎陽太さんは、東京オリンピック・パラリンピックを控える新国立競技場や新宿副都心のビル群を表現。

「無料とは思えないくらい高いクオリティーでした。通常、購入しようとすれば何十万円もするモデルデータで、作ろうとすれば何か月も掛かる規模。その金額や時間のコストが無くなることにより、表現の幅が増えるのではないでしょうか」と語ります。

「街の見方が変わる」との指摘も

 PLATEAUを使うことで、街の見方が変わったというクリエイターも。

 数々の受賞歴がある都内デザイン事務所で3DCGを担当する こしあん さんは、西新宿の摩天楼や東京都庁などの動画をツイッターにアップ。

「映像を作るにあたって、どの場所をカメラで切り取るのか、新宿のどこが魅力的か……といったことを考え、現実世界とはまた違う形で、都市に親近感を覚えるといった可能性を感じました」と話しました。

 クリエイターではない一般ユーザーにとっても、PLATEAUが普及することによって今回紹介したような高品質な作品に触れる機会がますます増えていきそうです。もちろん、本来の目的である防災やまちづくりの面でも今後、より恩恵を受けていくことになるのでしょう。

 もしもツイッターで精巧なCG都市画像を見掛けたときには「PLATEAUで作られたものかな?」と気にかけてみるのも面白いかもしれません。

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