池袋の築40年木造「風呂なし」アパートに入居したら、思いもよらぬ体験をした話【連載】記憶の路上を歩く(5)

入り組んだ路地の奥に建ち並ぶ、小さな木造家屋の数々。東京都内で姿を消しつつあるそうした建物が持つ固有の特長について、編集者の影山裕樹さんが語ります。

木造密集エリアの日常風景

 東日本大震災を契機にしつつ、その後は東京オリンピック・パラリンピックの開催を見据えて、都内の木造密集地域の整備が進んでいます。東京都は2012年に「木密地域不燃化10年プロジェクト」を立ち上げ、JR山手線外周部を中心に分布する木造住宅密集地域(木密地域)の不燃化を目指し、「不燃化特区」を指定しました。

 この不燃化特区は東京23区に広く存在するのですが、特に東京北部(城北エリア)の隅田川、荒川沿いの足立区、荒川区などに多く分布しています。実は僕(影山裕樹。編集者、千十一編集室代表)の住む豊島区も木密地域が多く、毎年冬になるとボヤ騒ぎが起きているので、正直見慣れた光景になりつつあります。

 巣鴨の住宅街のなかに存在する「朝日ほのぼのランド」は、民家跡地の234平方メートルの狭いエリアを活用し、田んぼや畑を整備し、夏には蛍を放つなど、ユニークな取り組みをしています。

 こういう狭い木密エリアの空白地帯を工夫している事例はとても尊敬しますが、多くは燃えて無くなった木造家屋の跡地を駐車場にしてしまったり、道路拡張を名目にただ潰してしまう。その判断に、少しだけ違和感を覚えています。

 僕は巣鴨に住みながら、徒歩10分の距離にある、東武東上線・北池袋駅にほど近い「上池袋」というエリアに事務所を構えているのですが、事務所という割に風呂無しトイレ共同、畳6畳の木造賃貸物件の一室となっています。

細い路地がまるで迷路のように入り組む木密地域(画像:影山裕樹)



 ここは山田荘といって、上池袋エリアを中心に木造物件を改修しさまざまなスペースを運営する「かみいけ木賃文化ネットワーク」という団体が管理する物件。

風呂やリビングは近くの別物件で

 まるでドラマ『凪のお暇』にでてくるような、2階建てでテラスのついた、ほっとする木賃物件です。僕は事務所として使っているのですが、中には住人もいて、お風呂は徒歩2分の距離にある、こちらも「かみいけ木賃文化ネットワーク」が管理する「くすのき荘」というコミュニティースペースで使うことができます。

 この「くすのき荘」はコワーキング、アトリエ貸しもしていて、住民のみならず、近隣に暮らすファミリーやフリーランスの人も利用する「リビングルーム」もあります。そこは、山田荘の住人にとって夕飯を作って食べたりする文字通りのリビングにもなります。
 不定期で、くすのき荘の1階では夜に七輪に火が灯ります。

 新型コロナウィルス感染症が広がった後も、木造物件ならではの風通しの良さもあいまって、ソーシャルディスタンスを保ちながら憩うことができるため、住人たちにとっては「夕飯は七輪」くらい当たり前の風景なのですが、前を通る近隣の人は「なんなのここは?」と怪訝(けげん)な目をします。

 でも、たまに興味深そうな顔をしてのぞいている人を誘って、七輪を囲んで談笑したりもします。

七輪を囲んで映画やサッカーを見ることも(画像:影山裕樹)



「かみいけ木賃文化ネットワーク」はまさにこうした、木造物件が織りなす「ご近所付き合い」を演出します。木密地域は確かに火事や地震など災害時に消防車が入りづらいなどのデメリットもありますが、「ハード」としての木造物件が持つ可能性はまだまだあるのだと感じさせます。再開発によって、ご近所付き合いという温かい営みを簡単に手放してしまうのは、少しもったいないのではないでしょうか?

木造地域がつくり出すコミュニティー

 複雑に入り組んだ路地が、小規模なご近所付き合いの営みを適度に隠しつつ、ふと角を曲がると見えてきて、とっさにあいさつを交わす。そんな木密地域が織りなす重曹的なコミュニティーの織物は、東京から失われつつある(実際のところはまだまだ存在する)大事な「ソフト」ではないかと思います。

 まだまだ味わい深い木造物件が残る谷中エリアには、空き地をそのまま時間貸しする「貸しはらっぱ 音地」というスペースがあります。以前、運営者の方にインタビューしたことがあるのですが(『大人が作る秘密基地』DU BOOKS)、なぜ上物を建てずに空き地のまま低価格で人に貸すのかと聞いたところ、駐車場にして街の風景を壊したくなかったから、とおっしゃっていました。

 そこではフリーマーケットやアーティストの作品の発表会が開かれ、まちに賑わいを添えます。かつてはモンゴルのゲル(移動式住居)が出現したこともあったそうな。

 木密地帯のある北東京には、なんだか銭湯も多い気がします。北区には映画『テルマエロマエ』の舞台にもなった稲荷湯や、最近なくなってしまったのですが看板猫が出迎える「月の湯」などなど、ブラウン管から飛び出してきたのか? と思うような昭和感満載の銭湯がたくさんあります。

 大正時代からやっている日本トップクラスの47度という熱さを誇る荒川区の「帝国湯」のように、さっと入ってさっと出る江戸っ子向きの熱い銭湯もけっこうあります。

 話を山田荘に戻しますが、たまに打ち合わせで人がやってくると、いつも驚かれるんですよね。そもそも路地が多くてたどり着かない人もいるし、いざやってきたときに「ここは事務所か?」と不安になって電話をかけてくる人たち、などなど。

「山田荘」に入居して、初めて体験したこと

 そんな人たちのために、最近、山田荘のテラスにテーブルと椅子を置きました。あたたかい日にはここでコーヒーを飲みながら本を読んだりしています。住人たちやお客さんと一緒にケーキを食べたりすることも。

山田荘1階のテラス(画像:影山裕樹)



「かみいけ木賃文化ネットワーク」のコンセプトは、「足りないものはまちを使う」。お風呂はさっき書いたようにくすのき荘で借りることができるし、くすのき荘に隣接する公園が、利用者の子どもたちの遊び場になります。

 僕は山田荘の入居者になって、はじめて町会の神輿(みこし)をかつぐという体験をすることができました。

 自分の地元の地域活動に関わりたくないわけではないけれど、面倒くさいのはいやだ、という人は多いと思います。そんなときは、都内に増えつつある木造物件をリノベーションしたコワーキングスペースやシェアハウスの住人・利用者になってみてはいかがでしょうか?

 コロナ疲れが溜まっていて「お暇」したい人、「ご近所付き合いの練習」をしてみたい人がいたら、上池袋に気軽に遊びにきてください。ぜひ一緒に七輪を囲みましょう。

【画像】東京らしからぬ?木造物件の1階

画像ギャラリー

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