激減する都内「CD店」と、増える「イントロなし曲」 両者の意外な相関関係とは

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激減する都内「CD店」と、増える「イントロなし曲」 両者の意外な相関関係とは

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村上麗奈

音楽ライター

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CDが主流だった時代から、音楽配信サービスを利用する時代へ。デジタル機器の性能向上によって音楽の聴き方は大きく変化しています。それに伴い、楽曲そのものの構造もリスナーの受け止め方も変わってきていると、音楽ライターの村上麗奈さんは指摘します。

音楽再生はCDからストリーミングへ

 デジタル機器によって利便性が高まっている令和時代。そんな現代に生きる我々は、サブスクリプションサービスや動画サイトを利用することで聴き切ることができないほど多くの楽曲に触れられるようになりました。

 RECOfan渋谷BEAM店(渋谷区宇田川町)が2020年10月に、TOWERmini汐留店(港区東新橋)が2021年3月に閉店するなど、東京を中心に展開されていたCD・レコードショップの店舗数は一時期と比べて減少しています。代わりに、サブスクリプションなどを利用し、携帯端末で音楽を聴く人が増えているのです。

音楽配信サービスが普及し始めた今、CDで音楽を聴く機会が減ったという人は少なくない(画像:写真AC)



 サブスクリプション(定額制)型ストリーミングの普及は日本では遅れているとも言われていましたが、ここ1、2年でその流れもようやく変わってきています。

 CDや専用の再生機器から、スマートフォンやデジタルプラットフォームへと移行した視聴方法の変化は、そこで聴かれる音楽の構造にも大きな変化をもたらしました。

 多くの楽曲を聴くことができるプラットフォーム、そして多くの情報を手に入れることができる情報社会。1曲数分であれ、リスナーに冗長である、あるいは好みではないと感じられれば楽曲はスキップされてしまいます。

 そんな情報過多に適応した社会を乗りこなすためもあり、イントロが短い、あるいはない楽曲や、メロディの展開が多い楽曲、1曲の長さが短い(2~3分程度)ものが増えました。

 フィジカル(CDなど物理的なもの)からデジタルへという音楽の変化については、「モノとしての愛着」という視点からの議論がたびたびかわされてきました。しかし、音楽を取り巻く環境の変化がもたらしたものは、愛着などといった漠然とした感覚だけではなかったのです。

SNSでの「2次利用」から火がつく例も

 音楽の周辺に関する変化はそれだけではありません。聴取方法が変わり、音楽の構造自体も影響を受けたならば、リスナーの聴き方も変化しています。

音楽の聴取方法の変化は、楽曲の構造やリスナーの聴き方にも影響を及ぼしている(画像:写真AC)



 Youtuberやインフルエンサーが登場し、TikTokやInstagramなど気軽に発信しやすいSNSが存在する現代。誰もが発信者になることができる時代であり、いわゆるデジタルネイティブの世代の人々は、自らが発信側にまわることについてハードルが高いと思っていない場合も少なくありません。

 TikTokでは楽曲が2次利用されることによって、アーティストの意図とは異なった形でヒットに結びついている例も多くあります。

 現代において、リスナーはリスナーであるだけではないのです。発信者の側面も持ち合わせているリスナーのもとでは、無意識のうちに、自分の動画で「使える」「使えない」、あるいは「使いたい」などの評価軸が新たに生まれています。

 そのような新たな評価基準は必ずしも音楽的な良し悪しと関連があるわけではありません。

 楽曲が利用された動画で「バズ」を生みだすことは、その音楽の良さを必ずしも保証するものではありませんし、2次利用してもらおうと画策するのも、それを視界にまったく入れないのも自由です。狙ったところで思い通りにバズらないのが面白さでもあるでしょう。

わずか「15秒」で生まれるヒット曲

 アーティストが2次利用についてどのような感覚でいるにしろ、特に動画やSNSと親和性が高い若い世代は、利用する側としての判断基準を持ち合わせていることは非常に多いのです。これは音楽を取り巻く環境の変化として、無視するわけにはいきません。

 音楽が使用されるといっても、フル尺で使用されるとは限りません。TikTokの場合は15秒切り抜きなど、楽曲の一部を切り取って使う例がほとんどです。ここからヒットが生まれる場合、ワンコーラスも聴かずしてヒットする場合も多いということです。

TikTokからヒットした最近の楽曲は、アコースティックギターでの弾き語りなど“手作り感”があるものも多い(画像:写真AC)



 ここで注目されているのはキャッチーな言葉づかいであるかどうかであったり、動画のBGMとして使いやすいかどうかといったことです。

 近年のヒット曲は「使用」という視点からの評価が大きく関わっているのです。従来の聴かれ方と比べると大きく異なっていることがわかるのではないでしょうか。

 しかし、従来はまったく「使用」の側面からの評価がなかったかと問われれば、まったくなかったと答えることはできません。

 2020年に「鬼滅の刃」ブームでLiSAが大躍進を遂げましたが、これまでもタイアップからヒットした例は枚挙にいとまがありません。これらも、ドラマやアニメ、映画等との相乗効果、つまり「使用」の評価項目に重きが置かれてヒットした例と言えるでしょう。

 TikTokの例もアニメやドラマの例も、映像との組み合わせによるものですが、映像と音楽の組み合わせを行っているのはアーティスト自身のプロモーションでも同じです。

映像との結びつきを強めた音楽シーン

 今では、多くのアーティストが楽曲のMV(ミュージックビデオ)を動画サイトに投稿しています。MVから注目される例も多々あり、その重要度は年々高まっているように見えます。動画サイトの利用者の多さからすれば当然のことでしょう。

 最近では、MVの存在とともに成長したボーカロイド系の流れを汲んだカルチャーの流行もあり、アーティストの姿を映す演奏動画ではなく、楽曲のストーリーをイラストやモデルの起用によって描写したMVも増えています。

音楽を単体で聴くのではなく、映像とセットで視聴する機会が増えたのも昨今の特徴(画像:写真AC)



 時代によって流行りの音楽の形式や形態が変わることは当然です。時代とともに音楽も変化、あるいは進化しています。

 デジタル媒体が普及したことにより、楽曲が専用の物体に依拠することは少なくなりました。しかしそれは、音楽を音楽のまま純粋に受け取ることが促進されたわけではありません。

 他の表現形式、特に映像と強く結びつくようになった音楽。映像なしで音楽を聴く頻度が下がったという人も多数いるのではないでしょうか。あらためて音楽のみにじっくりと耳を傾けてみるのも、普段の視聴と印象が変わって面白いかもしれません。

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