倒産相次ぐアパレル業界で「ユニクロ」基盤が20年揺るがないワケ【連載】これからの「思考力」の話をしよう(1)

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倒産相次ぐアパレル業界で「ユニクロ」基盤が20年揺るがないワケ【連載】これからの「思考力」の話をしよう(1)

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日沖健(日沖コンサルティング事務所代表)

歴史の風雪に耐えた基礎的な理論・フレームワーク(思考の枠組み)を紹介し、現在でも色あせないその魅力について学んでいく連載シリーズの第1回。今回紹介する理論・フレームワークは「小売の輪」です。

アパレル業界を20年以上けん引

 ユニクロやGUを運営するファーストリテイリングが注目を集めています。コロナ禍で部屋着などカジュアルウエアの売れ行きが良く、業績は好調。株価は2021年に入って、史上最高値を更新しています。

 一方、同じアパレル業界では2020年、大手レナウン(1902年創業)が倒産しました。ほかにも全国で中堅・中小アパレルの倒産が相次いでおり、ファーストリテイリングの好調さが際立っています。

 アパレルはファッション(流行)という言葉の通り、はやり廃りがあり、過去にはたびたび主役交代がありました。ところがファーストリテイリングは、1998(平成10)年に東京・原宿に出店、フリースブームで全国区になって以来、業界のリーダーの地位を20年以上保ち、強固なものにしています。

 今回は、ファーストリテイリングの成功がなぜ長続きしているのか、という点について考えてみましょう。

小売りの世界は栄枯盛衰

 東京の企業と思われがちなファーストリテイリングですが、1963(昭和38)年に山口県山口市で創業しました。低価格のカジュアルウエアの販売で地歩を固め、広島に進出。さらに、1984年に社長に就任した柳井正氏の強力なリーダーシップの下、東京、日本全国、世界へと市場を広げ、発展しています。

ファーストリテイリングが展開する「ユニクロ」のウェブサイト(画像:ファーストリテイリング)



 このようにファーストリテイリングは、1980年代からおおむね一貫して成長してきました。ただ、そのほかの多くのアパレル企業は、そのときの流行を捉えて急成長しても、勢いを維持することができず、短期間で失速します。

 アパレルだけではありません。家電量販店の業界首位は、1980年代から1996年までベスト電器、その後はコジマ、2002年からはヤマダ電機とたびたび入れ替わっています。総合小売りで1972年まで業界首位だった三越も、三越から首位を奪ったダイエーも、経営が行き詰まりました。

 製造業(メーカー)では、トヨタが自動車業界で戦後ずっとリーダーの地位を保っているように、業界内の序列が長期間安定しているケースが目立ちます。それに対し、アパレルを始め小売りの世界は、栄枯盛衰が激しいようです。

 なぜ、小売りの世界では栄枯盛衰が激しいのでしょうか。メーカーと違って小売業は消費者と直接向き合っているので、消費者の嗜好(しこう)・ライフスタイルの変化の影響を受けやすい、という面があります。

 ただ、小売業の側の経営にも栄枯盛衰の原因があります。ひとつは「過剰投資」です。流行を捉えた小売業の経営者は、流行がさらに続き、市場が広がると考え、店舗などに投資します。ところが、流行は長続きせず、市場が縮小し、結果的に過剰投資になってしまいます。

小売りの輪は回る

 もうひとつ注目したいのが「小売りの輪(wheel of retailing)」です。

 小売りの輪とは、米国ハーバード・ビジネス・スクールの名誉教授で経営学者のマルカム・P・マクネアが1958年に提唱した、小売り業態の進化に関する理論です。

1982年に出版された『“小売の輪”は回る―米国の小売形態の発展』(画像:有斐閣)



 新規参入者は「ブランド力」「販売力」がある既存の業者にかなわないので、低コストを武器に安売り業態として低価格品の市場に入ってきます。そこで成功すると、利益率を上げるために徐々に高級化していきます。

 そうすると事業運営のコストが上がり、別の低価格の新業態が現れて既存業態を駆逐します。この繰り返しによって小売り業態が非連続的に進化するというのが、マクネアの主張です。

 例えば、三越(越後屋)は、伝統的な呉服屋が支配する江戸時代の日本橋に「現金掛け値なし」の安売りで殴り込みをかけました。その越後屋が幕府御用達となって高級化し、百貨店の三越となって長く小売業で売上高日本一でした。

 百貨店が高級化すると、「もっと手軽にショッピングを楽しみたい」という低価格のニーズが現れ、ダイエーが総合スーパーという業態で参入し、安売りします。

 成功したダイエーは、バブルの頃に百貨店プランタンを展開するなど高級化。すると「ダイエーはそんなに安くない」ということで、ロードサイドのディスカウンターが現れる……というわけです。

 マクネアによると、小売業の多くの分野でこうした主役交代が起こっています。ただし、コンビニエンスストアのように高価格で参入する業態もあり、常にこの理論が当てはまるわけではありません。

ファーストリテイリングは小売りの輪を防いでいる

 小売りの輪で主役交代が起こるとすれば、ファーストリテイリングが長くリーダーの地位を守っているのは、「小売りの輪にはまることを防いでいるから」と言えるでしょう。

 低価格で市場に参入してきたところまでは、ファーストリテイリングにも小売りの輪が当てはまります。その後、2000年代に少し高級化を志向した時期がありましたが、基本的には今日まで低価格路線を続けています。

洋服を選ぶ人のイメージ(画像:写真AC)



 2010(平成22)年には、ユニクロよりもさらに低価格の業態GUを導入しました。GUは、他社が安売り業態で参入してくる前に、先手を打って自ら低価格業態を取り入れたと考えることができます。

 また4月から消費税が総額表示されることに先立ち、3月12日(金)からユニクロとGUのほぼ全商品を9%値下げします。

 こうした一連の動きを見ると、ファーストリテイリングは小売りの輪を強く意識しているようです。

 1日1冊を目標に読書するという勉強熱心な柳井正社長のこと、小売りの輪にはまって衰退してしまうのを防ぐために、マーケティング戦略を考えに考え抜いているのでしょう。

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