昭和の名曲『神田川』――歌詞の「横丁の風呂屋」は一体どこにあった?

1973年に発売された名曲「神田川」。その舞台となった「横丁の風呂屋」はいったいどこにあるのでしょうか。フリーライターの本間めい子さんが解説します。


神田川の舞台はどこなのか

 南こうせつとかぐや姫のヒットソング「神田川」(1973年発売)といえば、上京する若者が1度は夢見る情景を描いた歌として人気です。「ああ、自分も恋人と肩を寄せ合って『横丁の風呂屋』に通いたいなぁ」――と。そんな「神田川」ですが、歌碑(中野区中央)が中野区にあります。場所は神田川にかかる末広橋付近の公園。最寄り駅は総武線の大久保駅です。

1973年に発売された『神田川』(画像:日本クラウン)



 歌碑が設置されたのは1996(平成8)年のこと。神田川沿いの遊歩道「神田川四季の道」の整備に関わった建設会社の社員が、地元住民から「せっかくきれいになったのだから記念になるものを」と言われたことで設置に至りました。

 神田川の舞台はこのあたりなのか、といえば実はそうでもありません。「神田川」の製作経緯について説明しましょう。

 まず、この歌が南こうせつの作詞であると思っている人は少なくありません。しかし実際の作詞者は喜多條忠(きたじょう まこと)です。今では作詞家として広く知られる喜多條ですが「神田川」を作詞した当時は文化放送(港区浜松町)の放送作家でした。

 こうせつから作詞の依頼を受けた喜多條は、タクシーで当時住んでいた東中野の自宅へ戻る途中、神田川を整備する都庁職員の姿を目にしました。その時、5年前の同棲時代の情景が思い浮かび、家に帰りわずか30分で詩を書き上げました。

 早速、電話口で詩を読み上げると、電話の向こうのこうせつは口ずさみながら書き取り、電話を切った3分後には曲が完成していたといいます。

西早稲田にあった「横丁の風呂屋」

 この詩のもとになった実体験は、『東京新聞』2008年7月27日付朝刊につづられています。

「19歳の時、喜多條は同じ年で、髪の長い早大生の彼女の下宿先に転がり込んだ。三畳一間だった。高田馬場駅から徒歩十分。早稲田通りと明治通りが交差する近くで、アパートの窓からは神田川と大正製薬の煙突が見えた。同棲は1年で終わった」

 記事中では、「横丁の風呂屋」が西早稲田にあった「安兵衛湯」としています。この銭湯は西早稲田3丁目の早稲田通りから1本奥に入った茶屋町通り沿いにありました。現在のスーパーマーケット「三徳 西早稲田店」(新宿区西早稲田3)の裏辺りです。

新宿区西早稲田3丁目にある「三徳 西早稲田店」(画像:(C)Google)



 安兵衛湯は1990(平成2)年に廃業したため、面影は残っていません。当時の学生向け物件は風呂無しが当たり前だったこともあり、安兵衛湯は大いににぎわっていたと予想されます。このエリアが舞台だとすると、歌碑のある場所からはかなり離れています。

 ちなみにこの碑は、喜多條が作詞した当時に住んでいた東中野の小滝橋付近への設置が当初検討されていましたが、適当な場所が見つからなかったため、「神田川四季の道」のそばに設置されることになったといいます(『読売新聞』1996年12月7日付朝刊)。

 なお同棲していたアパートは「豊島区高田3丁目」にあったという説があります。

昭和らしい「三畳一間」というキーワード

 さて、この歌詞で時代を感じるのは「三畳一間」の部分です。

 ひとりならともかく、ふたりで住んだら窮屈この上ない間取り。それでも当時の学生の下宿は三畳一間が当たり前。四畳半に住んでいると、ちょっとしたブルジョア扱い。就職した先輩が結婚して二間あるマンションや団地に引っ越したと聞けば、もはや尊敬のまなざしだったのです。

「三畳一間」のイメージ(画像:写真AC)

 家具を置いたら、三畳一間は足を伸ばして寝ることも困難。しかし家具といえば当時は食事に使う小さなテーブルくらいです。あとは最低限の食器と鍋くらいしか持ち物はありません。

 ただ台所が共同で、こまごましたものや季節の服は半間の押し入れで十分に事足ります。そんな部屋での同棲ですから、心は熱く燃え上がる一方、燃え尽きるのも早かったのかもしれません。

新たに注目を浴びる「三畳一間」

 今でも、昭和から続く三畳一間の賃貸物件は存在します。また近年、三畳一間は新たなブームになっており、新築物件でも登場しています。

 そうした物件が増えているのは都心の駅近。交通の便が良い都心でワンルームを探そうとすれば、家賃が高くなるか、建物が古くなるかのどちらか。というわけで、家賃がワンルームよりも安い三畳一間の物件が人気を呼んでいるのです。

春の神田川(画像:写真AC)



 もっとも「神田川」の時代とは違い、人気の三畳一間は台所と洗濯機置き場、それにシャワールームを備えているのが基本。そんな新たなスタイルの三畳一間から、人の心を打つ歌は生まれるのでしょうか。


【画像】名曲「神田川」の歌碑

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