東京・板橋区にある「2つの富士山」知ってる? 行ったみたら、実にコンパクトな眺望で驚いた【連載】分け入っても低い山(2)

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東京・板橋区にある「2つの富士山」知ってる? 行ったみたら、実にコンパクトな眺望で驚いた【連載】分け入っても低い山(2)

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二上山小鹿

低山評論家

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ビルばかりが立ち並ぶ東京23区にも、実はいくつも山があるのをご存じでしょうか。ただし高さが「低い」という条件付きですが……。というわけで、低山評論家の二上山小鹿さんがあなたをゆる~くナビゲートします。

23区内にも山はたくさんある

 新型コロナウイルスワクチンの先行接種が2月17日(水)から始まりましたが、遠くへ旅行しようという気運はまだ先のことかもしれません。繁華街も「密」が心配で思いきり楽しめないという人も少なくないでしょう。そこで筆者が緊急事態宣言明けに提案したいのが、山登りです。

 東京には多くの山がありますが、「どこも都心から離れていて遠いのでは?」と思う人が多いと思います。いやいや心配はいりません。23区内にも山はたくさんあるのです。

 都心にある山と言って、まず思い浮かぶのは愛宕山(港区愛宕)、箱根山(新宿区戸山)あたりですが、それだけではありません。これまでの都心の山々を登ってきた筆者が改めて現地を検証し、紹介します。

駅で水と食料を確保

 さて、今回数年ぶりにやってきたのは板橋区の新高島平駅。ここが登山の出発地点です。忘れてはならないのは、登山は楽しい一方、危険もはらんでいるということ。水と食料は必須です。駅にはコンビニもあるので、きちんとここで確保していきましょう。

今回登った低山(画像:二上山小鹿)



 駅から大通りを渡って、高島平団地方面へ。南西方向の赤塚方面へ道なりに進みます。味のある高島平団地を眺めつつ、長く平らなアプローチルートが続きます。

 しばらくすると、平らな道の向こう、首都高5号池袋線の高架の向こうに山の姿が見えてきます。首都高の高架の真下にある横断歩道までたどり着けば、ようやく単調なアプローチルートは終了です。行く手に見えるのは、なかなか迫力のある坂道。ここからがいよいよ登山の始まりです。

富士塚を発見、登ってみると……

 普段から運動不足を感じている人は、しっかり準備運動をしてから登り始めましょう。この坂道、始めからかなりハードです。歩道は広めなので車を心配する必要はありませんが、自転車も時々降りてくるので、注意を払いながら歩いてください。

 10分も歩くと尾根筋になり、道は平らに。まず右手に見えてくるのは赤塚諏訪神社(板橋区大門11)です。創建は文明年間(1469~1487年)。赤塚城主・千葉自胤(よりたね)が信州諏訪大社の分霊を勧請(かんじょう)して祭ったのが始まりです。

 かつては武士団の本拠地だったことを示す由緒正しい神社で、境内は歴史を感じさせる風情があります。

 参拝を終えたら、神社の向かいにある「さんぶどう園」の裏手を歩きましょう。そうすると、うっそうと茂った雑木林のような小高い丘が見えてきます。入り口のほうに回ると、いくつかの祠(ほこら)と鳥居が目に飛び込んできます。これが、赤塚諏訪神社富士塚(下赤塚富士、大門5)です。

赤塚諏訪神社富士塚(画像:二上山小鹿)



 富士塚と言えば、富士山への登拝がブームとなった江戸時代の18世紀以降に、各地に盛んに作られたミニチュアの富士山として知られています。

 富士山から溶岩を取り寄せて塚を築き、ここに登るだけで富士山に登るのと同じ御利益があるとされた信仰の山なのです。創建年代は不明ですが、1872(明治5)年以前と考えられており、板橋区の登録記念物にもなっています。

 さて、そんな富士塚への登山は本物の富士山同様に気を引き締めていかなくてはなりません。なにしろ鳥居を一歩くぐると、人がひとり歩ける程度の細い土の道があるだけです。気を抜いて登ると滑って転がり落ちる危険があるかもしれません。とりわけ、下山のときは傾斜もきつく危険な印象です。

 富士塚の頂上には祠があります。参拝後にここで周囲を見渡してみると……………………残念ながら見晴らしは全然よくありませんでした。しかし、自然がそのまま保存されている雰囲気こそ、下赤塚富士塚の魅力と言えるのかもしれません。

眺望より達成感が大事?

 下山したら、次は板橋区立美術館・郷土資料館(赤塚5)へ向かいましょう。道には案内の標識もあるので迷うことはありません。途中に「大門みはらし台公園」という公園がありますが、こちらも特に見晴らしはよくありません。なぜ「みはらし」なのか、謎の公園です。

 10分ほど歩いて、美術館の前に来たら公園を右方向から道なりへ。また坂を登って見えてくるのが赤塚氷川神社(赤塚4)です。

 こちらは長禄(ちょうろく)年間(1457~1460年)に、千葉自胤が武蔵一宮氷川神社(さいたま市)より御分霊を勧請したのが始まりです。興味深いのは氷川神社の祭神である素盞嗚命(すさのおのみこと)とともに、藤原広継命(ふじわらのひろつぐのみこと)が祭られていること。

 藤原広継命は、奈良時代に太宰府で反乱を起こして処刑された人物です。のちに朝廷によって神として祭られるようになったわけですが、なぜこの神社に合祀(ごうし。2柱以上の神をひとつの神社にまつること)されているかのかは不明です。

 そんな不思議な赤塚氷川神社にあるのが、赤塚氷川神社富士塚(上赤塚富士)です。うっそうと茂った雑木林が印象的な下赤塚富士に対して、こちらは溶岩らしき石がゴツゴツと目立ちます。

赤塚氷川神社富士塚(画像:二上山小鹿)



 こちらの登山もなめてはいけません。鳥居をくぐり山を登り始めると岩の道。ぐいっと足をあげなけば、進めません。なおこの道を登るのをきついと思う人が多いのか、鳥居をくぐって石碑の右側には、坂が緩く岩場のない道が続いています。下山の際にはこちらのほうが便利です。

 こちらの頂上の眺望も決して開けているとは言えませんが、神社のそばにある畑が見えるので、高いところまで登った達成感があります。

 周辺エリアは歩いている人も比較的少ないため、密を避けた登山もできますし、周囲に文化財も多いので飽きません。都心の登山に挑戦したい人にはお勧めしたい、初心者向けの山なのです。

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