デリバリー専門店増加で激変する「食の価値観」 早い・安い・うまいはもはや過去の産物か?

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デリバリー専門店増加で激変する「食の価値観」 早い・安い・うまいはもはや過去の産物か?

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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新型コロナウイルスの感染拡大によるデリバリー需要の拡大に伴い注目を浴びている「ゴーストレストラン」。その最新動向について、文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

リモート飲み会対応のフードデリバリーも登場

 新型コロナウイルスの感染拡大で、急速に数を増やしているのが「ゴーストレストラン」です。

 ゴーストレストランとは、客席のある実店舗を持たず、小さいレンタルキッチンなどで調理した料理を宅配する飲食業態。最近よくメディアに取り上げられるようになってきたので、名前を耳にした人も多いことでしょう。

デリバリー配達員のイメージ(画像:写真AC)



 宅配はUber Eatsなどを基本的に利用しますが、自社で行ったり、少数の客席があるものもあったりして、定義自体は曖昧な部分もあります。

 元々はニューヨーク発祥の飲食業態で、アプリによるデリバリーサービスの拡大を背景とした需要の拡大に伴い、より効率化を追求して生まれた特化業態と言えます。クラウドキッチンやシェアキッチンと呼ばれるゴーストレストランのためのキッチンの開発も活発化しており、新たな飲食ビジネスとしてアメリカで急成長しています。

 ゴーストレストランは内装・器具など実店舗にかかる初期投資や接客のための人件費が必要なく、家賃も圧縮できるため、飲食店を始めるための費用を軽減できます。さらに内装工事や接客のための従業員教育などが必要ないため、店舗開発のための準備期間が短くて済みます。コスト・時間の面から、飲食店を始めるハードルを下げる効果があると言えるでしょう。

 資金力はないが開業を目指したい料理人、実験的なメニューを試したい飲食事業者、新たなブランドを手軽に持ちたい飲食事業者などにはメリットがある形態です。数年前から国内でもゴーストレストランで営業する小規模な飲食事業者が徐々に見られるようになっていました。

 コロナ禍において飲食店では営業機会を少しでも補うためにテイクアウトやデリバリーを始める店舗が増えました。

 Uber Eats・出前館(渋谷区千駄ヶ谷)などデリバリーサービスへの飲食店の登録が拡大、消費者もステイホームで利用する機会が増大し、テイクアウト・デリバリー事業は空前の活況を呈しています。

 Uber Eats以外にもWart(フィンランド)、foodpanda(ドイツ)といった海外のデリバリーサービス企業が相次いで日本に上陸。コロナによってこのようなシステムが普及したことで、国内でもテイクアウト・デリバリー市場は今後も需要が拡大していくと考えられています。

 リモート飲み会やリモート結婚式などに対応するフードデリバリーも出てきており、コロナ禍でさまざまな可能性も生まれてきたと言えるでしょう。

外食大手も参入 競合激化で懸念される問題も

 このような動向を受けて、国内ではゴーストレストランに限らず、テイクアウト・デリバリー特化の飲食業態の開発が活発化してきています。

 2020年11月10日にはテイクアウト専門のプチグルメハンバーガーショップ「ブルースターバーガー」(目黒区中目黒)がオープンして話題になりました。デニーズ、モスバーガーなどの大手チェーン店も客席のないデリバリー&テイクアウト専門店を展開しはじめています。

 また、6月30日には「カプリチョーザ」「ハードロックカフェ」「エッグスンシングス」などを運営するWDI(港区六本木)がゴーストレストラン「WE COOK」をオープン。“食で世界を旅する感覚を”をコンセプトにハワイや台湾などの食文化を感じさせるメニューをデリバリーで提供しています。

ゴーストレストランのレイアウト一例。28坪の施設内には区画分けされ、入居者の専有部となる六つのキッチンスペースが完備された「DELICIOUS FACTORY 下北沢」(画像:フードテラス)



 デリバリーサービスの出前館も、三つのキッチンを備えた調理スペースと飲食店の配達代行をするために、配達オペレーション室を兼ね備えたクラウドキッチンを12月21日、江東区大島にオープンしました。同社はクラウドキッチン併設型デリバリー拠点をこれからの新規事業として位置付けています。

 そのほか、複数店舗を運営するゴーストレストラン「KitchenBASE」(目黒区中目黒など)や「BeChef」(渋谷区渋谷など)は、サービス登録などのサポートも含め、ゴーストレストランのプラットホームを積極的に展開しています。

 新しくオープンするクラウドキッチンには小規模な事業者だけでなく、大手チェーンの問い合わせもあるそうで、飲食業界全体としてゴーストレストランへの関心が高まっていることがわかります。

 一方、今後競合が激化することが予想され、配達手数料の高さ(注文代金の35%~40%程度)なども課題として浮かび上がってきています。また、デリバリーサービスがさらに活発化すれば配達員の交通マナーなどの社会的問題も見過ごせません。

「好きが高じて」が生む新たな食体験

 ゴーストレストランとオーバーラップするのが、複数の料理人が店舗やキッチンを共有するシェアレストランで、既存店舗の営業時間外に別の料理人が営業する間借りの飲食業態です。

 客席があるためテイクアウト・デリバリー特化ではありませんが、ゴーストレストラン同様、飲食店を開業するためのコスト・時間が軽減され、飲食店を始めるハードルを下げる効果があります。

 コロナ以前から徐々に増えており、身近なところで見かけることも多くなってきました。ゴーストレストランも含めたこれらの飲食業態は、飲食店の新たな魅力付けになるとともに、飲食業のインキュベーター(起業支援者)的な役割を果たしていると言えます。

 間借り店舗では居酒屋やバルなどの夜間営業の店舗で、朝や昼だけ違う料理人が営業する形態がよく見られました。現在はゴーストレストランのキッチンとして別の飲食事業者が既存店舗を間借りする場合もあり、コロナ禍で集客が減少したレストランの空きスペースの有効活用といった側面も出てきました。

 店舗を間借りできるレストランのマッチングサービスも増えており、牛丼チェーン大手の吉野家HDはマッチングプラットホーム「シェアレストラン」を提供しています。

デリバリーメニューのイメージ(画像:写真AC)



 しかし、なかには特に計画的に飲食店経営の独立を目指している訳ではなく、緩やかな動機で間借り営業している場合も見られます。

 近年は好きが高じて料理を個人で研究し、SNS上で情報発信するプロ顔負けの人も増えていますが、それを仲間にふるまううちに、もっと多くの人に提供したいと考える人も少なくないでしょう。

 特にカレーやラーメン、スイーツ、パンなどこだわりが出るメニューを提供している店舗が見られます。さらに、中には実店舗を持たずにイベント出店などの不定期な活動をメインにして、ファンを獲得している飲食関連の団体も見られます。

 いつでもどこでも同じクオリティー・価格の大手チェーンは安心して利用できる不可欠な存在ですが、このような飲食業態の存在も刺激的で興味深いものです。

 このような飲食業態によって新しい食体験が生まれてくるのを期待したいところです。

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