あなたが一番好きな「東京ソング」は? 90年代~令和まで、変化し続ける描写のゆくえ

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あなたが一番好きな「東京ソング」は? 90年代~令和まで、変化し続ける描写のゆくえ

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村上麗奈

音楽ライター

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今も昔も、「東京」をテーマにした楽曲は日本で数多く作られています。しかしその描かれ方は時代とともに少しずつ変化しているもよう。その変遷と背景について、音楽ライターの村上麗奈さんが分析します。

輝かしさと憧れの対象だった東京

 日本を代表する大都市、東京。これまで楽曲の中でも幾度となくその風景が描かれてきました。歴代の描かれ方を見てみると、時代によってさまざまに変化していることがわかります。

 以前の東京を題材にした楽曲は、人生における重要なトピックでもある「上京」や、輝かしくも騒々しい夜の輝きなど、東京特有の描写がされることが多々ありました。

 東京の存在の大きさや明るさと自身の小ささや焦燥感の対比など、その地名が持つ特徴を効果的に利用した楽曲もいくつもあります。

 単に地名のひとつとしてでなく、大都市としての特性を楽曲に取り込んだ形であったことは、日本の首都の存在感が他の地域と比べても特別にあったことを示しています。

「東京は夜の七時」などが収録されたピチカート・ファイヴのアルバム「SINGLES」(画像:日本コロムビア)



 ピチカート・ファイヴ「東京は夜の七時」(1993年)、くるり「東京」(1998年)、桑田佳祐「東京」(2002年)などが筆頭の、2000年代はじめまでの楽曲が特にこのような特徴を備えていると言えるでしょう。

 では、近年の東京の描かれ方はどのように変化しているでしょうか。

2010年代、変わり始めた描かれ方

 まず、場所に関する直接的な描写が少なくなったように思えます。

 東京は特定の都市としての扱いから、象徴のように扱われることが増えました。その背景には、特定の場を表している楽曲が大衆の心には刺さらなくなったことが関係しているのかもしれません。

 Perfumeの「TOKYO GIRL」(2017年)は東京で物足りなさ、憂鬱さを抱える人物を描いています。近未来感のあるパフォーマンスや、プロデューサー中田ヤスタカのサウンドに定評のあるPerfumeが提示する東京は、東京であることの重要性には縛られていないようにみえます。

2017年発売、ドラマ主題歌に起用され彼女たちの代表曲のひとつともなったPerfume「TOKYO GIRL」(画像:Universal Music)



 サザンオールスターズの「東京VICTORY」(2014年)も東京の情景に触れているわけではありません。気鋭の現役大学生アーティストVaundyの「東京フラッシュ」(2019年)も同様に、東京の地域性は直接的に見出しにくいつくりになっています。

 東京である必然性は以前よりもなくなったと言い換えることもできるかもしれません。

 変化は地域性の希薄化だけではありません。フジファブリックの「東京」(2019年)、King Gnuの「Tokyo rendez-vous」(2017年)は東京と孤独が結びつけられています。土地の華々しさや人口の多さと自身の孤独が対比されて描かれた90年代と比べて、東京の印象が変化していることが表われている例であると言えます。

 大都市として描かれた東京が、東京ならではの輝きをもって描かれなくなった理由はいくつか考えられます。

ネット全盛の現代における東京

 そのひとつには、東京が以前ほど流行(はや)りの発信地としての役割を一手に担わなくなったことが挙げられます。

 インターネットの発展で情報が瞬時に手に入ることなどにより、東京にいないと流行りが追いにくいという状況は是正されてきています。音楽に至っては、SNSなどネットのプラットフォームから突然話題作が生まれるなんてことも珍しくありません。

 また、地方などの盛り上がりによって東京に対する特別な憧れも希薄になっているのではないでしょうか。

数々の流行を生み出してきた街、渋谷。冒頭で紹介したピチカート・ファイヴも「渋谷系」と称された(画像:写真AC)



 さらに、国外の存在を意識しはじめたことも関係していると考えられます。動画サイトや各種デジタル配信の普及により、国内外問わず楽曲が溢れるようになりました。言うまでもなく、国外のアーティストの楽曲の音源を聴くこともストリーミングや動画サイトを利用すれば容易です。

 国外を意識せざるを得なくなることによって、東京は「国内の大都市」というだけでなく「日本の中心都市」の性質を強く帯びるようになります。これにより、東京はひとりの虚しさと対比した輝きや国内の視点からの解釈だけでなく、日本の代名詞的な利用のされ方をしているのではないでしょうか。

 東京に限らず、特定の地域を物理的な場所として描くということは、パーソナルな内容でない限り難しくなってきているのかもしれません。今の時代、地域の関係ないSNSに居場所を求めることは珍しくありませんし、地域的な愛着が数十年前ほどなくても不思議ではありません。

リモートの浸透で台頭する「地方」

 リモートワークの可能性が広まった2020年でしたが、音楽についても同じようなことが言えます。

 スタジオに入らなくても、機材やソフトウェアをそろえれば、個人で十分に音楽が作れる時代です。これは、東京に出て事務所に属さずとも音楽を発表でき、聴いてもらうことができることを意味します。

 流行りの最先端と言えば東京、とは今でも言えるかもしれませんが、東京以外の場からヒットを飛ばすことも難しくない時代です。感染症の拡大も背景に、地方からの動きもいっそう活発化するのではないでしょうか。

SNSなどを介して誰でもヒットのチャンスをつかめるようになった現代。2020年もさまざまな注目曲がTikTokから生まれた(画像:写真AC)



 2021年はじめに放送された音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の企画「売れっ子プロデューサーが選ぶ2020・年間ベスト10」で、川谷絵音や作詞家いしわたり淳治がランキング上位に位置づけた藤井風(ふじい かぜ)は岡山出身。岡山弁の歌詞が彼の音楽的魅力とともに注目を集めました。

 地域間の隔たりが薄くなってきている現代、新たな形で音楽における地域性が見出されようとしているのではないでしょうか。

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