子どもが減っても、ランドセルメーカーが都内に出店し続ける理由
新年度が始まると同時に設置されるコーナー 子ども向け番組を見ていると、よくランドセルのCMが流れています。新学期が始まったと思いきや、すぐに次年度向けのランドセルが宣伝され、ランドセル商戦は年々早くなってきています。 東京都心の百貨店では、ゴールデンウィーク前から本格的にランドセル商戦がスタートします。昔は秋から冬にかけての頃が主流でしたが、今では就学1年前からランドセル選びをするようになっているのです。価格帯も高騰し、人気のあるブランドは販売当日に即完売することも珍しくありません。そこで今回は、加熱する東京都のランドセル商戦に関してご紹介して行きたいと思います。 ランドセルのイメージ(画像:写真AC) 5年ほど前までは、夏休み期間中がランドセル商戦のピークでした。夏休み明けに祖父母宅に帰省する際、合わせて祖父母が孫のランドセルを買うというパターンが主流でしたが、現在は前倒しに。家族三世代が顔を合わせるゴールデンウィークから夏休みが大きなピークとなっています。 多くのランドセル会社が、主力商品の宣伝を子ども番組のCMで始めるのもこの頃です。東京都心の百貨店でも特設コーナーが設けられ、1年を通してランドセルが陳列する状態になっています。 東京には各メーカーの路面店も出店しています。フィットちゃんを展開するハシモトグループ(富山県富山市)は八重洲や池袋、そして代官山にショールームがありますし、2019年春には「天使のはねシリーズ」で有名なセイバン(兵庫県たつの市)が表参道に直営店をオープンしました。 革製ランドセルとして有名な土屋鞄製造所(足立区西新井)は、工房と繋がっている西新井本店を筆頭に都内4店舗展開しています。このように各メーカーが少子化に拍車がかかる中でも、ランドセルを求める親子のニーズに応えて出店をしているのです。 三越伊勢丹(新宿区新宿)はオリジナルランドセルのひとつに、米「ANNA SUI(アナスイ)」の子ども向けブランド「ANNA SUI mini」とコラボした商品を販売しています。価格は税込みで9万6800円ですが、オンラインショップではすでに完売となっており、好みのデザインであれば値段を気にせず購入する層がいることがわかります。 少子化を背景にランドセル価格は上昇傾向少子化を背景にランドセル価格は上昇傾向 高島屋(大阪市)では一方、女児向けに飾りリボンを選べるカスタマイズ系のランドセルを販売しています。素材が牛革のものだと税込みで10万円近くなり、こちらも強気な価格設定です。華やかな女児とは対象に、色も限定されている男児向けの商品は馬皮を使用したランドセルが17万円で販売されています。 このように、百貨店でのランドセル商戦は「百貨店と有名ブランドのコラボ」や「厳選された素材」という付加価値をつけるなど、昔のランドセルとは異なる状況になっています。 この流れは百貨店だけではなく、各メーカーでも価格帯の上昇傾向が見られます。より良い素材を使用したり、職人技が光る細かい刺繍を施すなど、ランドセルを単なる消耗品としてではなく、「小学6年間をともに過ごす同志」というイメージ戦略に力を入れている印象を受けます。 ランドセルのイメージ(画像:写真AC) メーカーから成るランドセル工業会(台東区蔵前)が発表した「ランドセル価格の遷移」によると、2004(平成16)年は3万5000円だったのが、2014年には4万2400円と増加傾向にあります。物価の変動を加味しても、少子化を背景に子どもの入学祝いとして存在感のあるランドセルにお金をかける家庭が増え、結果として高価格帯の登場もあり、今後も価格の上昇は続くと予想されます。 結局は黄色いカバーをかけられる運命 親子と祖父母を巻き込んだランドセル商戦の盛り上がりは、期間限定のお祭りと言えます。ランドセルが家に届いた瞬間、小学生になることへの期待が膨らみ、写真を撮ったりお祭り騒ぎになったりすることでしょう。しかしその後、ランドセルは出番を迎える4月まで箱の中でずっと眠ったままです。そして、子どもが小学生になると同時に、新入生は全員黄色のカバーをつけて毎日登下校をするのです。 小学校生活が始まると、子ども同士でランドセルの色やデザインを話題にする機会はほとんどありません。ランドセルよりも、学校での人間関係の構築や勉強などに意識が向くからです。「あの騒ぎは何だったのだろうか」と思う保護者もいるかもしれません。しかしこの熱い商戦は小子化が止まらない限り今後も加熱し、価格の高止まりが見えない状態が続くでしょう。
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