渋谷パルコにも出店 東京で「立ち飲み天ぷら店」が注目を浴びているワケ

近年人気が高まっている立ち飲み天ぷら店。その背景にはいったい何があるのでしょうか。フードライターの小野員裕さんが解説します。


庶民にはなかなか手が届かない天ぷら

 東京で老舗天ぷらの名店と言えば、御茶ノ水にある「山の上ホテル」内にある「てんぷらと和食 山の上」(千代田区神田駿河台)ではないでしょうか。この店から巣立った職人は数多く、有名店では「てんぷら 深町」(中央区京橋)、ミシュランふたつ星を獲得した「てんぷら 近藤」(同区銀座)などがあります。

 また関西の老舗では、祇園四条の「天ぷら 京星」(京都市)や肥後橋の「一宝」(大阪市)。両店とも「天ぷらと和食 山の上」同様、多くの天ぷら職人を世に輩出しています。

 しかし本格的な天ぷらはランチで5000円以上、夜のコースで2万円前後と庶民にはなかなか手が届きません。お手軽な天ぷらとしては全国展開している「てんや」、「さん天」、「えびのや」など、誰もが一度はお世話になったことがあるはずです。

メニューが進化し続ける立ち飲み屋

 話は変わって、女子飲みや女子ひとり飲みが近頃ブームです。テレビ番組「女酒場放浪記」(BS-TBS)などの影響で、居酒屋、立ち飲み屋にもそんな女性客を多く見かけるようになりました。

 かつて「立ち飲み屋」は男所帯で、おつまみと言えば乾き物、缶詰、駄菓子など色気のないメニューばかり。しかし女性客の需要が増える中、しゃれた立ち飲み屋が方々のターミナル駅周辺に新規オープンするとともに、飲み物や食べ物が激変しています。

 地酒、ワイン、シャンパン、クラフトビールなど、カジュアルな和洋中、アジアンエスニック料理などを提供し始め、彩りのなかった立ち飲み屋が華やぎ、男性もその恩恵を受けるようになりました。

新生渋谷パルコにもオープン

 そんな流れから派生するように、本格的ながらリーズナブルな天ぷらを提供する立ち飲み屋が今注目を集めています。

 渋谷パルコ(渋谷区宇田川町)が2019年11月22日(金)にリニューアルオープンし、地下一階がフードコートに生まれ変わりました。その一角に、恵比寿に本店を構える「喜久や」(渋谷区恵比寿)系列の支店「立呑み天ぷら KIKU」が誕生したのです。

渋谷パルコ内の「立呑み天ぷら KIKU」の様子(画像:小野員裕)



 気軽に天ぷらをつまみながらお酒も楽しめると話題になり、「こんな店を待ってたんだ」と誰もがその存在を認識するきっかけになりました。

 職人が目の前で揚げてくれる天ぷらのメニューは30種類ほど。定番のエビ、穴子、メゴチ、キスのほか、変わり種としてはウナギのかば焼き、トマトとモッツァレラのカプレーゼなどがあり、価格は200円台から500円弱とお手頃です。

 人気メニューとしては大根の天ぷら。下ゆでして軽く味付けされた大根が衣をまとい、その上にとろろ昆布をデコレートした逸品で、実に乙な味わいです。天ぷら以外のつまみも8種類ほど、お酒はワイン、シャンパン、ハイボール、サワーに日本酒と豊富です。

 またランチメニューもあり、かき揚げ、天ぷらそばセット。3種類の天丼があります。扉のないガラス張の店内は解放感があり、このフードコートのほぼ全店が、このような造りです。

上野にある2010年オープンの先駆け的店舗

 上野、御徒町に目を向けると、この辺りは立ち飲み屋の宝庫。昼夜問わず、どの店もごった返しています。ここに立ち飲み天ぷらの先駆けである「かっちゃん」(台東区上野)があります。

 今の兆しを見据えたかのようにオープンは2010(平成22)年。厨房(ちゅうぼう)に職人然とした調理人が、目の前で揚げたてサクサクの天ぷらを提供してくれます。

上野の「かっちゃん」の様子(画像:小野員裕)

 価格は100円台から300円前後で、40種類ほど。酒のつまみに最適な紅しょうが、新しょうが、からしレンコンなどの気の利いた天ぷらもあり、「せんべろセット」は飲み物4杯に盛り合わせの天ぷらが付いて1100円と極めてリーズナブルです。

 ランチメニューは天ぷら7、8、9品の定食に、日替わり、エビ天定食、天丼があります。昼時は食事をする客と天ぷらをつまみにお酒を楽しむ客が入り交じり、そのコントラストに心和みます。

水道橋にもある

 また水道橋にある「スタンドヒーロー」(千代田区神田三崎町)も2011(平成23)年頃のオープンで、近隣の学生、OL、サラリーマンでいつもにぎわっています。串揚げがメインで人気メニューはハムカツ。お刺し身、おでん、ポテサラなどメニューが豊富。ここにも穴子、エビ天があり、200円台とこれまたお手軽価格です。

水道橋の「スタンドヒーロー」の外観(画像:(C)Google)



 前述の立ち飲み天ぷら「喜久や」はパルコ店を含め東京、神奈川に6店舗(下記、関西以西に2店舗。計8店舗)と、ここ最近支店を増やす勢いです。中部地域では「天ぷらスタンドKITSUNE」があり、3~4年で17店舗と拡大、その需要の大きさがうかがえます。

 京阪神では難波、東梅田の2か所にある「あたりや食堂」は、3~4年ほど前に開店。和食居酒屋「志な乃亭グループ」(大阪府守口市)の姉妹店で、雑然とした立ち飲み屋とは一線を画し和モダンな造りとなっています。

 客層はひとり飲みからカップル、家族連れとバラエティーに富み、にぎやかで華があり居心地抜群。鮮魚のお刺し身や焼き魚が売りですが、天ぷらも人気で20種類ほど、どれもボリューム満点です。

 その他、梅田に「喜久や」(大阪市)、高速神戸の「國」(神戸市)、草津の「酒場スタンド ウオマル」(滋賀県草津市)などがあります。博多にも2019年の9月にオープンした「喜久や」(福岡市)があります。ここ数年の間、全国でオープンラッシュと言っていいでしょう。

串カツはあって、なぜ天ぷらはなかったのか

 しかし、いまなぜ立ち飲み天ぷらなのでしょうか? その理由は、次のようなことが考えられます。

「てんや」などのチェーン店は、単に食事をする空間です。高級店はお酒も飲めますが、なにせ敷居が高い。居酒屋に天ぷらを提供する店も数多くありますが、腰を据えてじっくり――といった感じです。

 それに比べて立ち飲み屋の場合は、ターミナル駅周辺なら出張の合間、行き帰りのちょい飲みです。会社帰りに家までの気分転換に軽く一杯、大勢の友人を連れ立ってというシチュエーションは珍しく、大抵はひとり飲みかふたり飲みです。ふらっと寄って軽く飲む、長居する客はほとんどいません。つまりそのような人々には使い勝手のいい形態が立ち飲みなのです。

 天ぷらではありませんが、立ち飲みの串カツ屋は古くからあちらこちらにあり、代表される店は、東京なら北千住の「天七」(足立区千住旭町)、大阪は梅田の「松葉総本店」(大阪市)で、両店ともにぎわっています。

北千住の「天七」の様子(画像:小野員裕)

 いずれの店もサクっと飲んで食べて軽く腹を満たして2軒目、あるいは帰路に就く。立ち飲みの串カツ屋は古くから需要があるのに、なぜ天ぷらはなかったのかが不思議なくらいです。

 しかし串カツ屋は、ターミナル駅、私鉄沿線のおのおのの駅に必ずあるといっても過言ではなく、すでに飽和状態と言っていいでしょう。

 そのような現状から飲食の事業主は「いまさら串カツをやっても」という思い、または「なぜ天ぷらに気がつかなかったのか。だったら特化しよう」という結論に至ったのではないでしょうか。串カツは天ぷらの副産物という印象を受けますが、立ち飲み天ぷらはそんな串カツのさらなる副産物として生まれたと考えられます。

 そして女性の感性も考慮して、串カツ屋の雑多な風情から脱却した「立ち飲み天ぷら」の新規店が各地域に誕生しつつあるのでしょう。

立ち飲み屋は一種のコミュニティー

 立ち飲み屋は、知らない客同士が打ち解け合い、自然に会話が弾む一種のコミュニティーでもあります。そんな気軽な空間で、揚げたてサクサク天ぷらが味わえたら、さらに楽しい時間が過ごせます。

 まだまだその数は少ないですが、今後この立ち飲み天ぷらのコンセプトを模倣した店が増えていくのではないでしょうか。


【サクッとジューシー!】思わずお酒を飲みたくなる「天ぷら画像」の数々

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